通常観光ではあまり訪れない、ローマのトラステヴェレ地区。もっとも由緒あるサンタ・マリア・イン・トラステヴェレ教会には、「紀元前38年に油が噴出した」と伝えられる場所に建てられている。

中世の黄金に輝くモザイクが目を惹く↓

正面祭壇の右下に刻まれた「FONS OLEI(油の泉)」の文字。ここが「その」場所だとされているのだ。

 

聖書的理解によれば、「油を注がれた者」というのは、旧約聖書以来王の印である。

二千年前、傷ついた兵士や打ち捨てられた人々が住んでいたこの場所に、キリストという救世主=王の到来を告げるために大地から油が噴出した、という意味と理解される出来事なのだ。

 

しかし、油田でもないこの場所で、油が噴き出すような出来事が起き得るのか?

考古学的・歴史学的な見地からの理解はこうである。

 

紀元前一世紀、初代皇帝となったオクタヴィアヌス=アウグストゥスは、灌漑用の水をひく水道管を使って、この場所に海戦をシュミレーション出来るだけの巨大なプールを築いいていた。

その水は「汚れた泉」というラテン語FONS OLIDUSという名前で呼ばれていた。

その言葉が転化して、「油の泉」の伝説になっていった。

 

奇跡よりも、こちらの方が理解しやすい話である。