十数年前、はじめてペニシュコラを訪れた冬。地中海に面したヴァレンシアの海岸には珍しい、暗く雨の降る日だった。


「この写真、何か写ってませんか・・・」と、バスに戻ってきたおひとりが城で撮った写真を見せてくれた。確かに、もやっと「なにかが」写っているように見えた。


アヴィニョンから逃れた法皇・ベネディクト13世が最期まで住んだことは、その時はじめて知った。海に突き出した砦がある。


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今日は、うってかわって春の初めのまぶしい青空。写真にはなにも写らないだろう。短い時間だが城を見学した。
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ベネディクト十三世という人物は、14世紀末にアヴィニヨンで戴冠したローマ法皇。ローマ法王庁がローマではなくアヴィニョンに移転させられていた、いわゆる「アヴィニョンの虜囚」時代の末期である。


三人もローマ法皇が立つという異常事態を収拾するために有力諸侯・教会が集まって、三人ともが退位する事を決めたのに、ひとりだけがんとして聴き入れず「わしこそが正当な法皇だ」と言い張った人物。


フランス王も手を焼いて、アヴィニョンを強制退去させ、もともとの出身地アラゴンの領土にあるこの小さな城で94才まで生き続けた。


この逸話だけを知ると、「なんて頑迷な狂信的な人だったんだろう」という印象を持つ。小松もそうだった。だが、外側から世間が張るレッテルのようにしか見ているだけでは本当のその人の事は伝わってこない。


今回、二回目の訪問。 かぎられた短い時間だが、この人の実像を少しでも知りたいと思っていた。


本やネットからの情報だけでなく、その場所を訪れること。 現地ではともするとキレイな写真を撮るのに一生懸命になりがちだが、いろいろな情報にアンテナを立てて、想像をめぐらせること。そうして、考えて、はじめて自分なりの人物イメージが見えてくる。


この青く晴れた美しい海を、ベネディクト十三世も見ていただろう。その孤独な胸中はどんなだったのだろうか。


**今回の訪問で知った逸話を入れて、こちらに写真日記書きました。