ニューヨークへ行く途中立ち寄っただけのキューバで大病にかかり、無一文になり、結局そのままキューバに骨を埋める事になった竹内憲治という日本人。


日本から中南米に移住する人がたくさんいた時代だから、彼のようなドラマチックな人生はたくさんあったのだろう。しかし、それをきちんと整理して・文字にして、「花と革命」という本にして残したことで、今回、小松はキューバという国を見る、もう一つの目を持つことができた。


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ハバナから西へ70キロほどいったところにある蘭園は、一年中花が咲き続けている。


当時の富豪が娘の死を悼んで、娘が好きだった蘭が「一年中咲き続ける庭」をつくることを依頼した場所である。


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今日、我々を案内してくれた初老のキューバ人男性は「ケンジ・タケウチがこの庭をつくった」と、そんな事はかけらも興味を持っていないだろうドイツ人にも説明してくれていた。



もう、この本は絶版である。小松が手に入れた初版の後に再版されてなどいないだろう。


物書きではなかった彼にとって、いわば生涯で一冊だけの本。


出版を依頼された竹内氏の甥にあたるひとは、「あとがき」で、本が出版される直前1976年の竹内氏の訃報に触れていた。


つまり、書いた本人が、出版された本を手に取ることは、なかったのだ。


それでも、彼が書き残したことは、私たちが今日、蘭園をおとずれるきっかけになってくれた。それだけで、じゅうぶんに意味があったのだと、言えないだろうか。


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第三者が読んでもおもしろいとおもえる、独りよがりでない記録である。いつかまた陽が当たる時がやってくるだろうか。