第一章  基本的考え方 1.1 日本以上に海外では銀行との付き合いは大事にしよう | 海外事業の助っ人 深川国際経営

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(2)海外駐在員
(3)海外拠点監査を担当されている方

この「海外での銀行との付き合い方」というテーマは銀行員
として海外に
2年駐在し、メーカーの現地法人の財務担当副社長
を海外で
5年半経験した私だから書けるテーマである。

お金を貸す方と借りる方の両方の立場を海外で経験
している私が書くべきテーマであると自覚している。

何故、海外では日本以上に銀行との付き合いを大事に
しなければならないのか考えてみよう。

 

(1)必要な時にお金を借りる為

当たり前のことであり、日本と同じではないか
と思われるかもしれない。
しかし、海外では日本では想像もつかないような
リスクがあるのだ。
それはカントリーリスクと言えるかもしれない。

筆者は、主材料が急に倍以上に高騰し、資金がショートし、
眠れぬ夜を過ごしたこともある。

そのリスクに備える為にも実際借入実行しなくても
借入枠だけは銀行に設定しておいた方が良い。

特に進出間もないころは、まだ体力も十分でなく環境の急変に
対しても脆弱であり、
余裕をもって借入枠を設定してもらう必要がある。

筆者は、中国で急激な引き締めで借入枠があっても
邦銀からも地場銀行からも借入実行できないという
最悪の事態も経験した。

中国は共産党一党独裁の中央主権国家である。
金融引締めをやるとなったら副作用で国民や企業がどんなに
苦しもうが引締めを実行できる国であるし
実行する国である

「一刀切(イーダオジエ)」という中国語がある。
政策や方針を機械的に適用するという意味である。

良かれと考えて打った政策が国民や企業に大きな副作用や弊害
をもたらす。

現在も理財商品等で集まったお金がシャドーバンキングで
不動産投資等へ流れていると言われており、
中国は急激な引締めに入る可能性もあると言える。
理財商品は約
20兆元(約340兆円)と推定されているが、
全貌は中国の金融当局も把握していない。
痛みを伴わずこの問題を解決することは絶対に不可能である。
中国経済もややスローダウンの兆候があり、
微妙な経済運営となっている。

仮に引締めが顕著になる兆候があれば筆者の経験から言える
対策は借入枠をなるべく使って手元資金を手厚く積み上げる
こと
だ。
つまり
B/S上、借入と預金を両建てで膨らますことだ。

これは平時であれば金利が勿体ないので回避すべきことである。

極端に引締めが行われ借入枠があっても借入できなくなる事態
に備える為の緊急避難的対応だ。

この作戦を採用する場合、預金は一定金額(例えば100万元)の
複数本の定期預金で運用するのがミソ。

自動継続(Automatic renewal time deposit)にすれば管理が楽になる。
そうしないと期日管理が大変だ。
満期解約にすると期日がきて放置しておくと期日以降は
普通預金の利息しかつかない。
自動継続なら期日がきても自動的にそれまでと同じ期間の定期預金
に更新される。

定期預金の期間は、1か月、3か月、6か月、1年と
分散するのが良い。

(例)

1か月定期   100万元を2

3か月定期   100万元を2

6か月定期   100万元を3

1年定期    100万元を5

 

決済口座の残高が不足するようなら最近期日となり
更新したばかりの定期を必要最低限解約して資金を回せばよい。
定期預金は途中で解約しても通常、普通預金の金利は付利されるのでご安心いただきたい。また、国や銀行によっては定期預金の途中解約ができない
可能性もあるので現地の取引行と相談されると良い。

(2)情報源として活用する為

これも日本と同じと思われるかもしれない。
海外では言葉の問題もあり情報収集が重要になるのである。

銀行員は元々情報感度が敏感であり、
かつ毎日多くの企業を訪問していることから圧倒的な情報力を
有していると言える。 
これを利用しない手はない。

中国では政策が急に変更になり新しい政策が打ち出されても
即実施されなかったり、
地方によって取扱いが異なったりするケースが多々ある。

例えば、20061月の会社法施行で外商投資企業にも
従来要求されていなかった機関設計(株主会・監事の設置)
が義務付けられた。
これについては一部の地域では増資や定款変更の際、
工商行政管理部門から要求される事例があるとのこと。

また外国人から社会保険料を徴収する規定(201110月施行
)についても地方によって扱いが異なるようである。
なお、この問題については日本人または本社採用中国人も
日本の社会保険に加入しており、
更に中国で強制加入させられると二重加入となり
大幅な人件費増加となるので日系企業の反発は強い。

日本では考えられないような事が普通に起こると
考えておいた方が良い。

こういう場合でも銀行から生の情報を入手し対応していく
ことで取り巻く経営環境変化に適切に対応し、
生き延びていける。

(3)銀行(銀行員)と長期的に良好な関係を築くことにより
貴社が儲かる会社になる為

 銀行(銀行員)は長い歴史の中で色々な企業をみてきている。
どういう会社がいい会社で儲かる会社かということも知っている。
銀行と良好な関係を築くことで単なる情報だけでなく有益な助言
も得られるようになる筈だ。

 この本で銀行取引の意識を変え、上手く付き合う為の知識
も修得されたい。
銀行(銀行員)と上手く付き合って、
筋肉質の強い経営体質になっていただき結果として銀行からみて
余り儲からない会社を目指していただきたい。

「いい会社」とは銀行にとって余り儲からない会社である
と言える。
つまり、儲かる会社は銀行にとって儲からない会社である。