領土侵犯に対抗できない日本の構造的病根 | 今日のひとこと

領土侵犯に対抗できない日本の構造的病根

日本国民フォーラム代表 米田建三

国家を構成する基本的要素は、国民、領土、統治政権の存在である。そのいずれかが外国によって侵犯を受けたならば、それは侵略状態にあるといっていい。わが国は、国民(拉致)、領土(竹島、尖閣)の二大要素を侵犯されながら、なす術がない。およそ国家と言えるのであろうか。

尖閣諸島を中国や台湾が自国領土だと主張し始めたのは、昭和43年に国連海洋調査団が、同諸島海域海底に油田が存在する可能性を指摘してからだ。それ以前は、両国の地図や教科書でも日本領とされていた。また、大正8年、尖閣に漂着した中国漁民救助に対し、当時の長崎駐在中国領事が感謝状をだしているが、そこには「日本帝国沖縄県八重山郡尖閣列島」云々と記されている。外交官発出のいわば公文書で、日本領とみとめているのだ。石油に目がくらんで、恥も外聞もなく勝手なことを喚きちらしているのである。

台湾が「軍艦を出す」云々といったとき、「出すなら出してみろ、我が方も自衛権を発動して海上自衛隊艦船を出す」と言うべきだった。実際に尖閣海域に緊張が走れば、はじめて国連安保理の議題に持ち込み、全世界と、騙されて嘘を信じ込んでいる中国台湾両国民に日本の主張を伝えることができる。そして、何よりも、知らぬ顔の半兵衛をきめこんでいるアメリカがあわてて、腰をあげるだろう。そんな程度のことすら今の日本の政治はできないのだ。

竹島問題も同じ類の話だ。幕府の対朝鮮外交を代行していた対馬藩が、李氏朝鮮と領有権論争を繰り返していた「竹島」とは、実は現在の鬱陵島のことで、現在の竹島は往時、松島と呼ばれていた。朝鮮との友好関係に配慮した幕府が鬱陵島への日本人渡航を禁じ、支配権を放棄したが、鬱陵島へ行く途中にある松島(現在の竹島)の領有権まで放棄した訳ではない。

先の大戦の敗北後、連合軍の占領下に置かれていた日本は、サンフランシスコ講和条約によって独立を回復するが、その発効の直前(つまり、主権国家としての主張ができない占領下のあいだに)、韓国初代大統領李承晩は李ラインの線引きによって、勝手に竹島(松島)を韓国領に組み込んだ。このような行為を、火事場泥棒という。以来、韓国は武装官憲を常駐せしめ実効支配を続けているのである。

通常、主権独立国家が領土を侵犯された場合、戦いも辞さずという姿勢を示して、そこから交渉が始まるのだが、我が日本はそのような姿勢を示すはずがないのだから、敵は安心である。というのも、わが国には摩訶不思議な憲法9条がある。ここで、国際紛争を解決する手段として武力を行使しないと宣言しているのだ。近隣諸国のすべてが、さきの大戦で日本を打倒したアメリカを始めとするすべての国々が、国際政治の現実を踏まえて、自国防衛に必要充分なる軍事力の整備にいそしんでいるにも関らず、単に日本無力化のために押し付けられた憲法を後生大事に抱きしめているのである。

こんな憲法はさっさと改めなくてはならないが、間に合わない。しかし、手はある。憲法解釈の変更だ。憲法9条といえども、自衛の権利までも否定はしていないとの観点から自衛隊が創設された。第二次大戦後の国際ルールは、戦争原則禁止、自衛戦争可である。そして、自衛権の行使につき、そのための防衛力の質、量、行使の範囲の制限はない。ところが、わが国は、自衛権はあれど憲法9条の精神に鑑みて、最小限の防衛力、つまり敵の国土にまでは脅威を与えず、単に自国エリアに侵犯された場合のみに抵抗し、攻撃を排除する程度の防衛力しか持てないとの国是に立っている。すなわち「専守防衛」である。空母なし、爆撃機なし、長距離ミサイルなしだ。自国エリアに侵入されたらもう手遅れとみるのが軍事的常識ではないか。

敵に打撃を加えうる力を持ってこそ、敵の攻撃を躊躇させることができる。敵の侵入を待つ本土決戦思想は古今東西、愚策である。こんなバカな解釈を立案した官僚もバカだが、それを容認してきた政治家もバカだ。たかが、解釈だから、変更すればいい。即ち、憲法9条でいう交戦権の否定とは、帝国主義的国権の拡張のための武力行使を指すのであって、自衛や主権確保のための武力行使は含まれないと言い切ればいいのだ。しかし、その論理的能力と度胸を持つ政治家が見当たらない。憲法より国民が大事だろう。紙切れより国が大事だろう。

この自殺宣言にも等しい「専守防衛構想」の穴埋めとして、日米同盟がある。敵を牽制する打撃力はアメリカが請け負うというやつだ。しかし、この牽制力の発揮はアメリカ次第。北朝鮮の核にせよ、拉致問題にせよ、アメリカが北との融和策に走れば、日本独自では脅しをきかせることができないだけに、日米同盟はかえって日本の敵を安心させる道具になることを証明してしまった。

進むべき道がはっきり見えている。日米同盟を堅持しつつも、日本が主体的に外交戦略を展開するための独自の打撃力保持である。それなくして、領土問題の解決はない。