ファンタジーな夜の新々バラード1 | 桃象コラム

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音楽(特にピアノ)、演劇鑑賞、料理、旅行、ヨガ、スポーツ観戦(フィギュアスケート、サッカーなど)を心のオアシスに、翻訳を仕事にしていつの間にか四半世紀。まだまだ修行中。

ファンタジー・オン・アイス、初日を見てから約36時間経って、ようやくいろいろと反芻しているところ。なにしろ当日の夜はテンション上がったまま、ビール飲んで寝てしまったので(笑)羽生さんの来季ショートについて今のうちに振り返っておきましょう。

 

羽生さんは第1部ではオープニングだけで、第2部のトリで登場。紹介アナウンスで、来季のショートプログラムであることが伝えられ、客席じわる。そしてアナウンスでピアノの音がどうたら…というので、ほほう、ピアノ曲なんだ、と思っていたら、「バラード1番」のアナウンス。ええっ?まさかの3季目?とわが耳を疑っているうちに2季目バラ1(新バラ1と呼ぼう)の青と金の衣装に身を包んだ羽生さん登場。場内、割れんばかりの拍手と歓声で大興奮。でもすぐに静まる。バラ1ですからね。始まりは静寂じゃないと。

 

これは、バラ1はバラ1だけれど、まったく新しいプログラムです。編曲は同じです(私の耳にはそう聴こえました)。でも、ジャンプ構成も、ステップもスピンも、かなり変わっているような印象を受けました。なにしろ1度しか見ておらず不正確なところも多々あると思うので、今夜のTV放映で確認しますが。

 

一番変わっているのはジャンプ。冒頭に入れていた4サルコウを4ループに。そしてこれもイーグル→4L→イーグルなのですが、やはりループなのでサルコウとは入り方が違います。

 

トリプルアクセルは、例によってバックアウトカウンターから入っているのですが、これまでよりもカウンターに入る直前までステップを踏んでいる。そして3Aの着氷から、フリーレッグを着けずに着氷した右足のままカウンターを入れてツイズルにつなげていたと思います。3アクセルの前後にカウンターって、まさにステップの途中に3Aが入っている感じです。そんなことが人間として可能かどうかは別として(笑)。羽生さんなら可能なのだろうと思いました。実際きれいに決まっていたし。以前どこかで羽生さんが「ジャンプこそつなぎ」と言っていたそのままかと。これ、加点が3.0じゃ足りないと思います。

 

コンビネーションジャンプは4トウループ+3トウループでした。これは、今の時点で、この狭いリンクで、一番はまったのが4T+3Tだというだけで、もしかしたらこれから4S+3Tとか、いろんな軌道でいろんなバリエーションを試してみて、どれが一番良いのか探っていくのかなと思いました。そういう意味ではやはりクワドを3種類に増やしておいたことで、選択肢が増えたのだと思います。

 

もちろんストップウォッチ片手に見ていたわけではないので正確には分かりませんが(TV中継はストップウォッチ片手に見よう)、おそらくトリプルアクセルとコンビネーションジャンプは後半ではないかと。そしてジャンプ2本を後半に持ってくるためか、最初の4Lの後ですぐにキャメルスピンが入っていたような。これもクレイジーの4L~キャメルスピンの流れに似ているかなぁ。

 

最後にステップシークエンスからスピンでフィニッシュという流れは同じですが、ステップシークエンスも新バラ1とは少々違って見えました。随所に新しい味付けがなされていたように思います。

 

ただ、FaOIでのバラ1は、まだまだプロトタイプだと思います。締めのあいさつで羽生さん自ら「まだまだ」と言っていたし。というのは、やはりアイスショー用のリンクだから狭くて、ジャンプの軌道が思うように取れていないため、試合どおりの構成にはできないように思うのです。初日は4Lがパンクして2Lになったのですが、それもやはりリンクが小さいために十分なスピードに乗れなかったか、肝心なところでカーブを小さくせざるを得ず、タイミングが合わないとか助走の力をうまく回転につなげられないとか、そういうことじゃなかったのかなと思います。(安定の3階席から見ていたので、軌道はとても良く分かった)

 

なにしろ、本当にリンクが小さく見えたんです。他のスケーターの時にはそうは見えなかった。もちろん、最初からショー用のプログラムを滑る人と、試合用のプログラムを滑る人とでは違うので一概には言えないけれど、とにかく羽生さんが大きく見えて、スケーティングに力があって、あっというまに滑走距離が延びるんです。例えば、冒頭の静止から首ぐるん、スリーターン→クロス→チョクトウ→ブラケットまで(この流れ大好物)は新バラ1と全く同じに見えたのですが、ブラケットの後にすーっと滑るだけでほとんどリンクの端まで行っちゃうぐらいです。見ているこちらがヒヤヒヤして、「あー、それじゃあ壁にぶつかる」と思いながら見ていました。なので、FaOIだけでもあと7回の公演があるし、ずっとジェフと一緒なので、ショーでエレメントを試しながらパートごとに調整して行って、クリケットに帰って仕上げていくのでしょう。完成形が見られるのはNHK杯あたりかそれとも平昌か。その時こそバラ1は真のマスターピースになるのですね。そこまでの道程を考えると、こちらの方が胃が痛くなるような気がするけど。

 

3Aと4T+3Tは非常に美しく決めていましたし、フィナーレで見せたレイバックイナバウアーからの3Aも大変に美しかった。今年は本当に大きな怪我もなくどこか痛いところもなく、順調に準備が進んでいるのかなと思います。とにかく存分に練習できるコンディションにあるのが一番ですよ。

 

新バラ1は今でも世界最高記録を保持しているプログラムなので、おそらくご本人も関係者も(ジャッジも)いい印象を持っていることは間違いないでしょうが、一方で「またバラ1?」と言われてしまいかねないのも事実。あえてバラ1を選び、その成功の記憶を一度捨ててプログラムの難易度を上げてくるということは、それはそれでプレッシャーでしょうし、まさに「過去の自分との勝負」。2シーズン使った曲だから安泰なんていうことは全くなくて、むしろ勝負に出たのだと思います。ワクワクしながら勝負を見守っていますよ。あ、でも衣装はどうなるのかな?新バラ1の衣装で登場したのは間に合わなかったからだけだと思っています。当然、衣装は変わるよね?でもきっと青と金だろうなぁ。初戦を楽しみにしていましょう。

 

1か月前にシーズンが終わって落ち着いたばかりだったのに、もう次のシーズンが始まっている感じです。さすが五輪シーズン。またジェットコースターな1年になるのかな。きっとあっという間に過ぎ去っていくのだろうなと思います。

 

FaOIというより、ここだけはシーズン前哨戦でした。でも夢のようなひと時でもありました。

 

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