あなたの柔らかな指先が、あたしの頬を撫ぜる
あの頃と変わらぬ、悪戯に覗き込むような瞳
その瞳に映ったあたしが、今にも泣きそうな位くしゃくしゃに顔を歪めていた
嗚呼、あなただ
言葉にならない程の熱い想いが込み上げて来て、あたしはあなたの手の甲にそっと手を重ねる
くすぐったそうに目を細めて笑うあなたに、あたしは泣き顔のまま微笑んだ
「戻れるものなら、戻りたいね」
ぽつりと呟いたのは、他愛もない願い
戯れの言葉遊び
久しぶりに触れるあなたの魂は変わらず陽だまりのように暖かで、
子どものように無邪気に笑いあうあたしたちに変わってしまったものがあるとするのなら、
それは――一定から縮む事のない距離だろうか
それが示すは
「でも、もう――戻れないんだね」
搾り出すようなあたしの言葉に、あなたは瞳を伏せることで答えた
だけど繋がっている、とあなたは云う
ノイズ交じりの電話のように時折ぶれながら、それでも伝えようと必死にあなたは口を動かす
どんなに離れても、繋がっている
その一言が、あたしの胸の奥にすっぽりと納まって
ぼろぼろと零れ落ちる涙を拭いながら、あたしは消え行く背中に向けて声を荒げた
「あたし、頑張るから!」
「この恋も、頑張るから!」
「だからあなたも頑張ってね!」
そうしたら、
あなたが背中越しに小さく拳を握ってみせて
その変わらない美しさに、あたしは瞳を奪われた
桜と秋桜
同じ名で縛られながら、決して出会う事のない存在
それがあたしたち
人は孤独
生まれる時も死ぬ時も一人なのだと誰かが云っていた
でもあたしたちはきっと共に存在する事が出来ずとも、死ぬ時は一緒だ
そして還る場所は同じ、同じ土に還る
だからあたしはその背に誓おう
この命が滅ぶまで
心ゆくまで、あなたと朽ちて行く事を
それにふさわしい――あたしであれと
美しいまま
この世界を、終わらせてみせる