こひうた。

こひうた。

散文注意。不定期です。無断転写も禁止しておりますm(_)m

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あなたの柔らかな指先が、あたしの頬を撫ぜる


あの頃と変わらぬ、悪戯に覗き込むような瞳

その瞳に映ったあたしが、今にも泣きそうな位くしゃくしゃに顔を歪めていた


嗚呼、あなただ

言葉にならない程の熱い想いが込み上げて来て、あたしはあなたの手の甲にそっと手を重ねる

くすぐったそうに目を細めて笑うあなたに、あたしは泣き顔のまま微笑んだ


「戻れるものなら、戻りたいね」


ぽつりと呟いたのは、他愛もない願い

戯れの言葉遊び


久しぶりに触れるあなたの魂は変わらず陽だまりのように暖かで、

子どものように無邪気に笑いあうあたしたちに変わってしまったものがあるとするのなら、

それは――一定から縮む事のない距離だろうか


それが示すは


「でも、もう――戻れないんだね」


搾り出すようなあたしの言葉に、あなたは瞳を伏せることで答えた


だけど繋がっている、とあなたは云う

ノイズ交じりの電話のように時折ぶれながら、それでも伝えようと必死にあなたは口を動かす


どんなに離れても、繋がっている


その一言が、あたしの胸の奥にすっぽりと納まって

ぼろぼろと零れ落ちる涙を拭いながら、あたしは消え行く背中に向けて声を荒げた


「あたし、頑張るから!」

「この恋も、頑張るから!」

「だからあなたも頑張ってね!」


そうしたら、

あなたが背中越しに小さく拳を握ってみせて


その変わらない美しさに、あたしは瞳を奪われた




桜と秋桜

同じ名で縛られながら、決して出会う事のない存在

それがあたしたち


人は孤独

生まれる時も死ぬ時も一人なのだと誰かが云っていた

でもあたしたちはきっと共に存在する事が出来ずとも、死ぬ時は一緒だ

そして還る場所は同じ、同じ土に還る


だからあたしはその背に誓おう


この命が滅ぶまで

心ゆくまで、あなたと朽ちて行く事を


それにふさわしい――あたしであれと


美しいまま

この世界を、終わらせてみせる

どうして一緒にいる道が選べなかったんだろうねぇ、

笑いながら泣きじゃくるあたしの言葉に、君が小さく笑顔を返す


最初から分かってた

本当なら共に在る事など許されない、異質の存在であるあたしたち

辿りつく先はたかがしれてた


それでもあたしは君に恋をして、君はあたしを愛してくれた


出会うべく人なんてクソクラエだと、そんな奴は死んでしまえと口にして、

強くあれば、ずっと君を好きでいる道が選べるのだと言い聞かせて、

あたしはそれだけを支えに生きて来た


幸せになる権利がないからこそ、いつだって幸せだと云って笑ってきた


それが誇り

たった一つのあたしの強みだった


はずなのに


結局あたしは、あたしたちは、定めに逆らえなかった――世界には勝てなかった


いつだってあたしを追いかけて来てくれた君が、

どんなに狭い場所に逃げ込んでもみつけてくれた君が、ある時からこの背を追ってくれなくなった


あたしを見つめる悲しげな顔


前触れは嫌な予感を呼び、予感はすぐに確信に変わる


あれだけ訪れる事に怯えていた現実、怖かった現実は、驚くくらいあっさりと訪れ、

胸の隙間を埋めるようにストンと理解できた


来るべき時が来た


あたしは一番会いたくなかった人に会ってしまったんだと云う事

君が君の会うべく人に会ってしまったんだという事

その全てがこれだけあらがいようもない波なのだと云う事


あたしは自分がいかに楽観的であったか知った


逃げ続けて来たはずが、結局はそれすらも世界の輪の一部でしかなかったのだと気づいた時、

なんと情けなかった事だろう

悔しかった事だろう


結局あたしたちが今までしてきたことは何だったんだろう

互いといるために頑張って来た全てが――結局ここに繋がるというのか


笑うしかなかった


逃げないで、受け入れるなんて

そんな綺麗事、簡単に出来るはずがない


あたしは君が好き、好きなんだ

それだのにこの波に逆らえない自分への怒りが、胸の内を焦がすように焼いていく

悔しくて、苦しくて、痛くて、たまらなかった


だけど君が、同じだと笑うから


調子が出ないとか、

本当なら一緒にいたいとか、

そんな他愛のないやりとりを繰り返して、仕舞いには二人して笑った


傷は俺がつれていくよ、

そんな事を云う君は悔しいくらいに格好良くて、あたしはまた泣いた


死んだら会おう

次はどこにでもあるような、ありふれた恋をしよう

必ず、君の傍に生まれるから

そのためにあたしは頑張るから

あたしの生を全うして、君がくれたこの人生を誇って最後は死ぬから

ちゃんと愛する人も見つけるよ


それがあたしの戦い方だ


そう君に約束した時、あたしは受け入れるのではなく、逃げないことを決めた


じかん薬

時間は心の傷を癒していく


今痛いのも苦しいのも辛いのも、やがては薄れて消えていく


ならば、今日を精一杯痛がるのだ

苦しみを味わうのだ

辛い、とあたしは叫んで生きて行く



これも、君と過ごした証だから


一緒にいる道を選べなかった傷を、君と一緒に背負う事

そうして自分の人生を生きて行く中で、ちゃんと愛する人たちを見つける

そうして、死んだらまず、大手を振って君に会いに行くんだ



これがあたしの、聖戦

あたしが賭けるべき、命の還る場所だ


さぁ、明日もあたしの一日をはじめよう

君におはようと、声をかけて


「もっと自信持ちなよ

あんたは十分いい女だよ」



「そう云ってくれた君は、

きっとこれから先誰にどんな恋をしたとしても、

最高にいい男だよ」


そういったら君は、

「当然でしょ?」

なんていって、悪戯に笑う


「そうじゃなきゃやってらんないよね」もう一言付け足して、

お得意の憎まれ口も、君の笑顔の前では全て暖かく緩やかに溶けていってしまうのが不思議


ねぇ、君の世界と僕の世界

相容れない二つを、僕たちは受け入れる事にようやく決めて


君は君の世界の人を

僕は僕の世界の人を


受け入れて、愛してみる事にした今日だけれど


「正直云って僕は、

君の次の人は嫌いだよ」


ふてくされて云うと君は


「俺だって、アンタの選んだ人は気に食わない」


と、すまし顔で呟く


選ぶなら、選べるのなら、僕は君で君は僕が良かったなんて、

云わないのが暗黙の了解

つまりはこれが――僕たちが半身である故であり、

半分同士は一つになる事が全てではないのだと、世界は僕たちに痛みを伴って突きつけた


君の世界と僕の世界は永遠に交わる事はない

それが僕たちが選んだ道の弱みであり


ふたりぶんの、世界

他者よりほんの少しだけ広く、深い世界の大きさが、僕たちの強みである



君は僕の全てだ


でも君と背中合わせで、手の届かない僕では、君を護れない、幸せにはできない

だからどんなに嫌いな彼女でも、君を幸せに出来るのなら、僕はそれも、僕の幸せだと思えたんだ


つまるところ僕に出来ることといえば


君と彼女の幸せを願いながら、

されど、僕の方がいい女だったと思ってもらえるように足掻き続けるだけ


ほんとうに、それだけ


そしてそれは、たぶん、君も一緒


だから僕は、

君よりもいい人はいないと笑いつつ、

君じゃない人に一生懸命恋をする


僕を愛して欲しいと、悔しいくらいに願って、

もう二度と愛する事などないと思っていた人間を、躍起になって想っている




――でもやっぱり、君の方がいい男だよ



それが僕と君と、強がり


にぶんのいちの僕たちは、二人分の世界で生きる事を決めた

今日も僕は精一杯生きて、詩う


どうか君が、君の愛した人と幸せになりますよう

どうか僕が、僕の愛した人に愛してもらえますよう


だから、君もずっと思ってね、口に出さなくて構わないから



君が愛した中で、僕が一番いい女だった、って



二人だけの、

内緒ね

君への想いが暮れていく

地平線の先へ溶けていく


それを見ながら僕はただ、悔し涙を流すしかない


一緒にいたかった

愛していたかった

愛されていたかった

傍にいたかった

君を想って死にたかった


呪いのように次から次へと溢れ出る言葉が、僕の喉を絞めて殺してくれればいいのに

そう願いながら僕は、嗚咽をあげて泣き続けた


なのに僕は死ねなくて


嗚呼

しゃくりあげた僕は、涸れてしまった涙の味を噛み締めた

さんざん泣いて罵った後にしては、あまりに下らない台詞しか出てこない


「――これでいいんだね?」


だのに


ぽつりと問うたその言葉に、君が笑う

橙色の暖かい光が僕を包み込む

その光景があまりに綺麗で、僕はたまらなくなって瞳を逸らした



ねえ、

君は知っていたはずだよ


僕はね、君を愛していたかったから生きていたんだ


前に僕は言ったよね?

もし僕が君を愛せなくなった時は、君以外の誰かを想う日が来たとするのなら


――ためらいなく、僕を殺して欲しいと


僕はそう君に告げたはずだ


でもね、

僕は知ってたんだよ


君が僕を殺してはくれないことを


僕の不幸を笑ってくれて、泣いてくれて、怒ってくれた

僕の幸せを何より愛してくれた君は、僕を殺しに来てくれたりはしないんだ


ある日突然、僕の世界から沈んで消えてしまう事を選ぶんだ


思い出すは、僕に手を差し伸べた君の顔

勝ち誇って僕を茶化す、その仕草

本当なら毎日だって会いたい、そう云って泣いた君の涙


全部全部連れて、君は消えようとしている


「待って」


待って、まって、待って、まって、行かないで、消えないで、一人にしないで


最初から分かってた

君とずっとは一緒にいられないこと


君との出会いは、僕がこの世界で必要とする愛を学ぶためだった


君は知ってた

僕とはずっと一緒にいられないこと


だけど一生懸命、僕を愛してくれたね


もう会えないといった君にすがった僕の為に、君はつかの間の夕暮れを見せてくれた

溶けるようなオレンジ色

甘いはちみつの匂い


思い出すたび、胸が熱でいっぱいになる


――いつか迎えに行くから、その時は俺についてくる?


その言葉がどれだけ僕を救ってくれたことだろう

愛してくれた事だろう

君の言葉が僕の全てだった


それも君は知っていて

それでも君は溶けていく


「今更君以外の人を愛するなんて、あまりに滑稽すぎて、僕は笑うしかないんだよ」


それも知ってる

そう云って君も笑う


分かってるだろう? 来るべきときが来たんだよ


だから


橙が、一本の線を描く

あまりにも儚くて、あまりにも切なくて、優しすぎる愛の光



俺といた景色を忘れないでね



その言葉に、僕はまた涙が溢れ出す



俺がいた景色を忘れないでね



涙が止まらなくなる





君がすき

大好きで、大好きで、死にたくなる――生きたくなってしまう


それは今でも変わらない


でも


僕は暮れ行く君に誓うんだ



僕は僕の愛を見つけるよ

君がくれたこの世界で、僕は生き続けるから




だから君は

僕のいない世界の裏側を、精一杯照らしてください


君の光を必要とする人たちの傍で



「いつでも繋がってるんでしょう?」



悪戯に笑って、僕は瞳を閉じた




そう遠くない先、君は暮れてしまう

そこで僕は、幸せになれるだろうか?


分からないけれど


どうか

君も僕も、幸せになれますように


君が暮れるまで

僕は心溢れるほど、祈りを捧げて、泣いて、笑おう



最愛の半身、

君は僕の太陽でした


君が暮れた世界でも――どうか、僕は僕であれますように