オーガニックコットンと原発20km圏内 | 御用聞き、世界を渡る

オーガニックコットンと原発20km圏内

1泊2日で福島に行ってきました。宮城県はケニアに行く前に東日本大震災のボランティアで東京から何度も往復し、ケニアから帰って来てからも行きましたが、福島県に行くのはおそらく3年以上ぶり。ずっと気になり、ケニアでも「FUKUSHIMA」という名前を知っている人がいるほど知名度は上がっていますが、原発事故以降、私にとって近づきたくて近づけない場所になっていました。

今回参加したのは、旅行会社「リボーン」のエコツアー「天ぷら油リサイクルバスで行く!ふくしまオーガニックコットンプロジェクト①」。先々週、社長と知り合い、今後この会社の仕事をお手伝いさせていただくことになったため、下見も兼ねて参加しました。


1日目オーガニックコットンプロジェクト「種まき」

1日目、いわき市に到着して、まずは種まき。のはずが、渋滞で到着が遅れたため、まずは腹ごしらえ。農家の方々お手製のとってもおいしい山菜の天ぷらとカレーで出迎えていただきました。内陸部のこのエリアは3月11日よりも1ヶ月後の4月11日の巨大余震で大きなダメージを受け、1ヶ月間ほど水道から水が出なくなってしまったそうです。3月11日では被害が小さかったため海岸部の住民を支援していた農家の人々が、4月11日以降は断水により苦しめられる。農作業をしながら彼らの話を聞いていると、今ボランティアをしていてもいつ自分がボランティアを求める身になるか分からない怖さを感じました。


種まき


農作業は、地元の人々の適格な指示と一瞬でバケツリレーを始められる日本人特有のチームワークの良さで非常に和気あいあいとした雰囲気の中で実施できました。


今回参加させていただいた福島オーガニックコットンプロジェクトは、福島に活気と仕事を生み出すために、3つのNPOが連携して「いわきおてんとSUN企業組合」を作り、地域住民とともに、コットン栽培や、Tシャツやコットンベイブなどの製品を作っているものです。

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この会社の代表理事を務める吉田さんには、2日目もガイドをしていただき、避難者の受け入れで人口が急増しているいわき市と水俣市の共通点やプロジェクトの趣旨などの大変興味深いお話をしていただきました。

現在スポーツ異業種ネットワークのNPO化に携わっている私としては、NPOから会社を立ち上げるにあたってNPOの会員からの疑問の声やさまざまな意向を踏まえつつも、理念を大切に動き続けている姿に背中を押していただいたような気持ちになりました。


スウェーデンの民主主義

宿泊は、いわき市の施設である湯の岳山荘。「リボーン」では参加者同士の学び合いを大切にしていますが、この夜行われたスウェーデンからの参加者レーナ・リンダルさんによる講演とディスカッションもとっても勉強になりました。

スウェーデンでは、選挙の投票率が80%を越え、政策に関する議論が人々にとって当たり前のこととして行われているそうです。その理由は、子どもの頃から授業の中でディスカッションを行ったり、模擬選挙を全校生徒でしたりと民主主義の基礎を学べる教育システムになっているからとのこと。この話を伺っていると日本がなんて遅れている国かという気持ちになります。そこで、あえて「そんな国で育ったレーナさんから見て日本の良さは?」と尋ねたところ、「お互いの調和を大切にしているところ。スウェーデン人ははっきり意見を言うため他人を傷つけることもある」という答えが返ってきました。日本の強さと日本の弱みは表裏一体ですね。

※レーナさんのスウェーデンツアー http://reborn-japan.com/overseas/9775


2日目 コミュニティ発電施設と原発20km圏内視察

コミュニティ発電施設については、これも「いわきおてんとSUN企業組合」の事業であり、住民とソーラーパネルづくりから一緒に行っているそうです。太陽光を農作物栽培と発電の両方に利用するソーラーシェアリングを始める現場も見せていただきました。
太陽光発電をした電力は既存の電線に送り、販売もしていますが、供給過多により販売できないこともあるとのこと。「電気が足りないから原発を再稼働させる必要がある」という主張と矛盾する現場の声を聞くことができました。

ソーラーシェア


発電施設を離れ、いよいよ原発20km圏内に向かいます。吉田さんのガイドでバスを進めていきましたが、私が1番ショックだったのは、Jビレッジの横を通った時です。Jビレッジについては、日韓ワールドカップ前に家族で訪れ、その時ワールドカップで来るアルゼンチン代表選手の写真が貼ってあったことや、その後サッカー部の合宿でも利用したことは今でもよく覚えています。手入れの行き届いた芝のサッカーピッチが何面も並ぶ様子は圧巻でした。


Jビレッジ
懐かしのJビレッジ


しかし、現在その周りに並んでいるものはサッカーゴールではなく黒い大きなビニール袋です。20個以上の袋が整然と並べられている場所がたくさんありました。これは、畑を除染する際に剥がした表面の土を入れたいわば大きな土嚢のようなものです。放射線を直接浴びた土を袋に入れることで畑が綺麗になるという理屈なのでしょう。しかし、私はその光景を見て納得ができませんでした。汚染された土を袋に詰めただけで何が解決するのか?この黒い袋は放射線をなくす魔法の袋なのか?この袋は今後どこに運ばれるのか?大きな疑問が心に残りました。


土嚢
カバーのかけられ黒い袋

半壊
壊れたままの家と黒い袋

時計
震災の時間で止まったままの時計



私はこれまで原発の廃止や再稼働について特にはっきりとした意見を持ってきませんでした。それは、賛否をはっきりと述べられるほどの知識や体験もなく、賛成派にしても反対派にしても何か目に見えない力に動かされているような近寄りにくさを感じていたためです。

しかし、太陽光で発電しても使う場所がないという電力供給過多な状態が起きていることや、不気味な黒いビニール袋が今後の行き場所も分からず積まれている現状。他のエリアは片付いているのに原発20km圏内にはまだまだ半壊・全壊した家が片づけられず残っている状況など今回実際に見たものは、原発の恐ろしさを感じさせるには私にとって十分なものでした。



1泊2日のツアーでしたが、非常に内容が濃く、学びの多い2日間でした。