ショートストーリー「機動禅師ゼンデラーノ2000GT」 | 手ぶloveの「諸行無常のソナタ」

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アル中地獄からの解脱と共に解き放たれた世界。
色即是空のことばたちが
縦横無尽に駆け巡る。哀愁の人間讃歌。手ぶらワールドへ
ようこそ!

機動禅師「ゼンデラーノ2000GT」

作.手ぶlove



「うっ…ん?…。こ、ここは?…」


亜太郎は記憶がないまま目を覚ました。

ここが何処なのか皆目見当もつかなかった。







「お目覚めかね?亜太郎くん。

いや、Mr.ゼンデラーノくん」


見知らぬ男が白衣を纏って

亜太郎の前に立っていた。




その男は大手椅子会社の

椅子開発研究所に所属するブライト博士だった。

「亜太郎くん、実はね…」


博士が事の真相を明かした。

驚くべきことに亜太郎は

坐禅を組まされた格好のまま

改造され、メカとなっていた。

何の了承もないままに…



亜太郎は愕然として言った。

「何だ!?この格好は!!

何の真似だ!?

どうなってんだよコレ!?

ボクをどうする気だ!?」


亜太郎は自分の身体が

仏像の如きレトロな造形と

近未来的な質感とが融合した不思議なフォルムへと変貌を遂げていいることに驚愕した。




全身がステンレスで覆われた

およそ人間とは思えないそのボディーは

眩いばかりのシルバーカラーに彩られて

所々がガンメタリック色に鈍く光っていた。


組まれた足と手は滑らかな曲線美を描き

周囲の景色が映りこむ程に輝いていた。

亜太郎はミケランジェロの彫刻のようなその造形美に違和感を覚えた。



まるで自分の身体が美術館に展示してあるオブジェか何かのようで

自分の身体だという感覚がまるでなかった。


事実、自分の意思で手足を動かすことは

完全に不可能だった。


「あんた一体ボクの身体に何をした!!」






博士はギラついた目を細めて言った。


「亜太郎くん。

君は今日から坐禅マスターだ。

もう二度と立つことは出来ない。

しかし、それが何だと言うのだろう?

君は坐ったまま時速230kmで走ることが出来る!

小回りの利く足回りはどんなに入り組んだ街並みも君の意のままに走行可能だ!!

君はあの達磨大使を超えたのだよ!!!」



意味が分からなかった。



亜太郎は地面から少し浮いているのに気づいた。

どうやら坐禅を組んだ足の下部にキャスターが

付いているようだった。




博士はカッと目を見開いて亜太郎に敬礼した。


「機動禅師ゼンデラーノ2000GT!

君に栄光あれ!!!」






亜太郎は疑心暗鬼だった。






(親父にも殴られたことがないのに…

このボクが…

達磨大使を超えた?

達磨…大使?

くそっ…

や、やるしかないだろ………

でも、何をどうしろと…)


当然そこには葛藤があった。

時代の波に呑まれ

謂れのない運命に翻弄されて

理不尽にも変わり果てた己の姿に戸惑い、

迷いが生じる。


生きる意味とは?

坐禅とは?

自分にとっての達磨とは?

えっ?


達磨……大使?


そもそも、この成れの果ては…

というかボクの人権はどうなる?



深い自問自答の末、

しばしの沈黙を破り

亜太郎は意を決した。



「亜太郎行きまぁ~~~す!!!」


背中に内蔵されたカスタム.ターボエンジンが

火を噴いた。

力強いスタートダッシュと

地面に吸い付くようなグリップ力とホールド感。

その抜群の足回りは想像を絶するものだった。


亜太郎はその驚異的なまでの走行性能に

驚きを隠せなかった。




ニュータイプ禅師誕生の瞬間である。


彼は動く禅寺として全国を駆け巡ったという。






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