柔らかな午後の光が差し込む、広々とした室内に、心を解きほぐされた。
時間も。
今、じゃなくて、ここで暮らしていた当時の時の流れが、静かに。
こんなベッドルームで一日の始まりと終わりを迎えられるなんて、、、。
想像の中で、ベッドに潜り込む。
春には、この窓から、桜が綺麗に見られるのだそう。
そして麻衣さんが貸してくれた、辻原登著「抱擁」。
この作品の舞台となっているのが、なんと、この旧前田侯爵邸!
時は、昭和12年の東京。
前田家の小間使いとして働くことになった18歳の「わたし」は、5歳の令嬢、緑子の様子に不安を覚える。
彼女は、見えるはずのない誰かを見ているのではないか、と。
激動の時代と、静謐なお屋敷内の出来事が、じわりじわりと絡み合ってくる。
「高天井、シャンデリア、深々とした絨毯。目もくらむばかりの調度品の数々が、
高窓のステンドガラスから差し込む光の帯の中に、浮かびあがっています。」
行ってきたばかりの洋館が、ありありと目に浮かび、
怖ろしいほどの臨場感の中で、読み終えました。
そう、何か、呑み込まれそうな怖さと、恍惚とした余韻が混じり合う、読後感。
読んでから行くか、行ってから読むか?と、もし問われたら、
行ってから読む、もしくは、その場で読むのを、お勧めしたいと思います。
洋館内に、素敵なカフェもありますので。
この階段を、幼い少女が駆け降りる場面が、忘れられない。