低迷する日本経済を新たな成長軌道に乗せるためには自由化によるイノベーションが求められるところです。
日経新聞に連載されているイノベーションは今回から第四部として、このような自由化による取り組みが掲載されていますので紹介・引用いたします。

以下、4月1日の日経新聞「イノベーション」より

イノベーション 開拓者たち ①

超円高の緩和や復興需要の本格化などで、新年度に入った日本経済にほのかな明るさがともり始めている。
今後、確実な持続成長へ導くためにも数多くのイノベーションが必要となってくる。
第四部ではその開拓者たちを取り上げる。
初回は電力

東京都足立区の雑居ビルの一室。
無数のモニターに映し出されるのは、電気の需給を示す様々なグラフだ。
本社を置く省エネサービスのエナリスは、電力会社と同じように、顧客が使う電気と供給する電気の量を同じに保つサービスの体制を有する。
社長の池田元英(43)は2000年の電力自由化後、国内で新たな試みを実現してきた。

池田の経歴は異色だ。
就職した東海銀行(現三菱東京UFJ銀行)を2年で退行。
「直接的に世の中の役に立ちたい」と政治の世界に。
前横浜市長の中田宏(47)などの秘書を務め、1995年に神奈川県議選に挑むが落選する。
県連幹部だった元財務相の藤井裕久(79)の薦めで日本短資(現セントラル短資)に27歳で再就職。
米国出張時に目に留まったのが電力売買市場だった。
ちょうど、国内では電力市場の自由化議論が進行。
社長に国内での電力取引会社の創設を進言し、電力売買の会社を立ち上げた。

正確に需給を管理

自由化後、池田は大口顧客に電気料金の引き下げを提示して回る。
カギになったのが、電気の需要と供給をうまく管理する技術だ。
顧客が使う電気の量が、前日の想定から大きく乖離(かいり)すると、電力会社に高いペナルティーを払わなくてはならない。
より正確に需要を算定する技術は、現在の省エネサービスにも生きている。

池田は03年、大口顧客だった松下電器産業(現パナソニック)に籍を移す。
電力会社から電気を買わずに自ら電源を集め、工場の電気を賄う国内初の仕組みを作った。
電力会社からの購入に比べてコストは17%下がった。
その後、独立。
エナリスの省エネサービスは、前の日に顧客の電力使用計画をつくり、実需が超えないように管理して、使用量を減らす。
今春からは、利用が増えると顧客の照明やエアコンを遠隔操作し、自動的に電気使用量が減るような仕組みも整えた。

需要と供給をぴたりと合わせる作業は電力会社が独占してきた。
需要がどれだけ膨らんでも、余りある電源を持った電力会社は電気の量を自在に増減して調節できた。
しかし、その前提は東日本大震災後に大きく揺らいでいる。
原子力発電所は軒並み運転を停止し、再稼動のメドは立たない。
燃料価格も上昇するなかで、効率的に、そしていかに安くエネルギーを確保するか。
従来は注目を浴びなかったエネルギーサービスが広がっている。

マンションに着目

家庭、それもマンションに目を付けたのが1級建築士の資格を持つ上農康弘(60)だ。
割高な家庭用の電気料金に比べ、大口の電気料金は単価が安い。
マンション全体で電気をまとめ買いし、安い単価で各戸に配るビジネスモデルを編み出した。

熊本市内に設計事務所を開設していたが、04年にアイピー・パワーシステムズを創業する。
当初は7人ほどの小所帯。
課金などの手間を省くため、通信機能を付けて遠隔地から検針できるメーターを自ら開発した。
大手デベロッパーのマンションに採用を働き掛けたが、「ベンチャー企業は相手にされず、けんもほろろだった」。
倒産寸前まで追い込まれた。

風向きが変わり始めたのは2年ほど前から。
新築マンションでは戸別の電気料金が5%以上安くなる。
東京電力が計画する料金引き上げで共用部の電力コストが上昇するケースもあり、ここ半年の問い合わせは10倍以上に増え、11年度の売上高も3割以上伸びた。
現在、首都圏を中心に200棟のマンションの住戸に電力供給。
大手のデベロッパーも次々に追随する。

上農がメーターの自作にこだわったのは、コストだけの問題ではない。
「家庭用市場も自由化された米国では無数の料金メニューが作られている。
日本でも自由化が進めば、メーターのデータが貴重になる」。
新市場を作ったイノベーターは、さらに次の市場へイメージを膨らませる。

震災後、電源のあり方を巡る議論が熱を帯びている。
経済産業省の委員会では、2030年の電源構成比を巡り、現在10%程度の再生可能エネルギー(水力を含む)を最大35%まで増やす想定が浮上している。
太陽光や風力などの自然エネルギーの比率が増えれば、日照や風の有無で電気の供給量は大きく振れる。
需要を自在に増減したり、蓄電池の家庭への設置が進んだりと、基幹エネルギーである電力の利用環境は進みそうだ。
                                          =敬称略
                                       (宇野沢晋一郎)

上記は4月1日の日経新聞「イノベーション」より引用いたしました。

効率的な電力の管理と利用という分野の取り組みが既存の電力会社にどれだけの影響力を行使出来るか、ということでもあると思います。
ただ、今後スマートグリッドという考え方で、いろんな方面からのアプローチが可能になって来ることが予想され電力事業そのものの変革を促すことを期待したいものです。

今日は以上です。