最近、書店で見つけた東北大の小林隆教授の本に、福井、長野、群馬、栃木、福島を結ぶ線から北の地域は、相続について単独相続型で、それより南は分割相続型と書かれていました。

 

 戦後の均等分割(均分)相続制の中で、北日本は長男を中心とする単独相続を基本に考え、南は民法のとおりの均等分割を基本に考えるようです。

 この本では他の研究者の論文を引用しているので、多くの研究者がこのように言っているのかもしれません。

 法律の仕事を長くしていますが、これまで聞いたことがありませんでした。しかし、北の遺産分割調停で長男以外の代理人になった際に、何か含むところのあるよう粘着質的な質問を繰り返され、気分が良くなかった経験があります。

 

 単独相続の地域になる背景として、本家・分家の序列が強く、地域(ムラ)の代表者も寺の檀家総代も世襲性が強いとのことです。封建的ということになります。田中角さんも小沢さんもここでした。

 こういう土壌には少なくとも室町時代にさかのぼる極めて古い伝統があるということです。場合によっては弥生時代に遡るのではといわれ、私は、北は縄文地域、南は弥生地域と適当に考えています。

 

 福井、石川、富山の三県は準-関西文化圏と考えていたのですが、遺産分割に関しては単独分割の北日本圏に属するそうです。

 

                         能年玲奈さん

 

 これより南の地域は、逆に、分割相続、本家・分家の序列なし、地域(ムラ)の代表者や檀家総代は選挙で選ぶ文化とのことです。

 関西の、明るさを帯びた対話について、私は情緒的なものと考えていました。この本によれば、関西の丁寧な挨拶や会話は、発達した論理的なものとのことです。

 

逆に、東北では、体調がどうとか、何処に出かけるとか、具体的で短い挨拶のあとは、「やーや」「まんず」などの感動詞、更に「しまった」の意味の「ありゃー」「あやー」「やったー」などの表現があり、北日本の感情表現は、多様とも未整理とも言われています。「じぇじぇじぇー」も多様な、気分の表現の一例のようです。

 北日本で訴訟に関わるときには、この地域の人のこだわりを頭に入れて臨んだ方が良さそうです。素朴なところなどと単純に考えるとまずいことになります。

 

 同じ本によりますと、「身内に対する尊敬表現」を持つ方言域は、新潟、福井、石川、富山および関西以西だそうです。食卓で家族に何か取ってもらうときに「おおきに」「済みませんネ」などと言うことでしょう。

 

 宮城以北、群馬、長野、愛知は、身内尊敬はなく、「他者尊敬表現」をもつ地域で、外部の人に「お疲れ様です」「…なされますか」などと言うことらしいです。

 

 千葉、栃木、群馬、静岡とこの中の首都圏は、以上のどれでもなく、「丁寧表現だけの地域」になっているそうです。尊敬語を使わず「…でございます」と言うということでしょうか。

 

 面白いのは、以上の尊敬表現も丁寧表現も使わない地域があるらしいことです。福島の南半分、茨城、栃木だそうです。

 水戸藩はこの真ん中と思います。徳川の御三家でありながら、朝廷との対立になったときは朝廷方に付くという密命を受けた藩で、柔軟性や変化を考える余地がなく、誰の風下(かざしも)にも立たないということなのか、他に理由があるのか、隣の福島も相当な気位と思うのですが、その辺はこの本には書かれていません

 

 結局、挨拶や応対には幅があるということで、他の地域に行ってよそよそしい対応をされても、心構えがあれば少し楽になります。