裁判の傍聴について、法曹関係の人は大体分かっていることですが、それ以外の人のために概略をまとめてみます。

 東京地裁を歩いていると、以前は、刑事事件などで見るからにいかめしい雰囲気の人が居たり、強制執行の部では微妙な雰囲気の人(その筋の人から使われているという感じ)が廊下を埋めていたりで、近寄りがたいところもありました。

 その後、司法試験の合格者が2000人に増え(平成26年は1800)、また、強制執行の部が目黒に移り、法曹に興味をもった若い人たちを中心に、地裁1階の真ん中にある受付の机の上の事件簿を興味しんしんで囲んでいます。ずいぶんと明るい雰囲気になりました。オーム事件以降、東京地裁では一般の人は金属探知機をくぐることになりましたが、その堅苦しさを凌ぐ勢いがあります。

 裁判の傍聴は憲法で保障されているため、家事事件などを除き、裁判は全て公開されます。

 事件簿に「~請求事件」と書かれているのが民事事件、「~被告事件」と書かれているのが刑事事件です。ゼッケン、鉢巻、発語の禁止(隣の人と小声で話すことまで注意されることはありませんが)、メモは許されるが写真撮影は禁止というのがほぼ全国共通の決まりです。いざ傍聴してみると、刑事事件と民事事件ではかなり違うはずです。

 刑事事件は、法廷でのやりとりを基本とする口頭主義がかなり守られていて、検事の起訴状朗読、被告人・弁護人の認否・冒頭陳述、証人尋問、さらに論告・求刑、最終弁論、判決と続きますから、大体は傍聴で分かるはずです。

但し、争点や証拠の整理の打合せや、裁判員の合議の様子は伺い知れません。法曹の内部にいてもそういう経過が伝わってくることは先ずありません。

 刑事事件については新聞報道されることと傍聴で見られることが大体同じになるようです。
                                
 他方の民事事件で、分かりやすく公開されているのは証人尋問と判決だけです。そのために、全国の刑事事件110万件に対して民事事件は197万件(平成11年)、弁護士の仕事も多くが民事事件なのですが、民事事件の傍聴が面白いとはいえません。

 民事で傍聴して役立つのは証人尋問の技術かもしれません。ここでは、原告と被告(民事では被告人と言わない)が対立している問題について、決め手を得るために秘術を尽くします。

証人の説明では成り立たない事実を突き付け、そこを足がかりに全部を崩す・・というところが理想です。証人尋問のときに新しい証拠を出すことは認められませんが、証人や本人の「陳述の信用性をうための証」(弾劾証拠)は、尋問のときや後からでも出すことが民事訴訟規則で認められています。そういうものをちらつかせたりしながら、いい加減な証言は通りませんよという圧力をかけていくことになります(事前の対策を考えすぎる証人はこの新しいテーマに弱い)。
 関連性のない質問や、主尋問で出ていないことについて反対尋問で聞くことの禁止などのルールもあります。これは刑事事件の方が厳格になっています。

それでも、民事では事件に関係のある人が傍聴し、何について時間をかけて質問をしているのかが分かる場合でないと、傍聴の人は掴みどころがないままに終わるかもしれません。

 そのためか、裁判の傍聴記を何冊も出しているような人の本を見ても「怒鳴る裁判官」「寝ている裁判官」というような調子で面白おかしく書いているものもあります。私は寝ている裁判官を見たことはありませんし、これでは的を得た裁判の観察にはなりません。刑事事件では声を荒げることもあるようですが、被告人に世の中を見くびったような様子が見えたとき、そういうことではこれからも問題を起こすようになりますよと伝える意図とすると理由もあります。勿論、逆効果になるような酷い言い方ではないかというチェックも大切ですが。

 最後に、裁判所の建物内だけでなく、敷地内での写真撮影も禁止です。東京地裁の正門前の道路では報道の写真撮影がされています。建物裏側の入り口の前の映像も時々流れます。しかし、報道関係者以外は、裏の門を出たところの道路も裁判所の敷地に含まれ、撮影禁止だそうです。その先の弁護士会の敷地からでないと写真撮影できないようです。これは、中学生と傍聴のために行ったときに一度間違えました。要注意です。