第13回に、交通事故の負傷者が年間100万人近く、相談センターへの相談は約4万件と書きました。

 多くの事故では加害者が任意保険や自賠責保険に入っています。医療費の支払いもあるために、被害者は加害者側の保険会社に委任状等を出して請求することになります。

 治療の結果、後遺障害が残ったときは同じ保険会社に「自賠責損害調査事務所」宛ての後遺障害等級認定の申請をします。

 この調査事務所は保険会社の関連団体であることにちょっとした抵抗感があります。第○級というような認定が一旦されると、裁判所も主な基準にすることが多いため、「ちょっとした抵抗感」は消えません。

 東京には、第1、第2の二つの調査事務所があり、ここで全国の困難事案の調査も行うようです。

 調査事務所の上部団体は、「損害保険料率算出団体に関する法律」(昭和23年)に基づいた、職員数2200人の「損害料率算出機構」で、機構の役員構成を見ると、理事長は名大教授、理事は元警視総監、読売新聞役員、各損害保険会社社長、弁護士などとなっています。

算出機構の目的は、『損害保険業の健全な発達と保険契約者等の利益の確保を目的として設立され、会員である保険会社等から大量のデータを収集し、精度の高い統計に基づく適正な参考純率と基準料率を算出する・・』となっています。偏見かもしれませんが、役員構成もみれば保険会社のため・・とも読めます。

 銀行預金などと違って、傷害保険では傷害や後遺障害の程度を一つ一つ評価することが避けられず、これを第三者的なところが行うことになると、調停のような紛争になるために収拾がつかない・・と考えると、保険会社の関連機関が保険会社の支払い額を決める必要性もありそうですが。都合がよすぎるのではという気もします。


弁護士のKnowとHow(ノウとハウ)の記 (カワセミ 内田行雄氏提供)


 平成12年の資料では、自動車の任意保険の年間収入は3兆5000万円、保険金支払額は2兆2900万円(この他に保険会社の費用)、国が管轄する自賠責の年間収入は8620億円、自賠責の保険金支払額は7831億円(上記の任意保険との支払合計は3兆0700億円)となっています。交通事故についての補償はこのような規模になるということでしょう。

 保険会社の会計も赤字になっていることも口にされます。
 最近でも、私は、自賠責の後遺障害の認定が12級、裁判所の選任した公立病院の副院長の鑑定が8級、その後の本人の希望による自賠責への異議申立では12級、最終的に裁判所は12級として処理、という悔しい思いをしたことがありました。
 異議申立されたものは、全国で9か所の調査事務所での判断が困難な事案とともに、上部機関である地区本部、本部で審査を行うようです。審査は、「高度な専門知識に基づいて」、弁護士、専門医、交通法学者、学識経験者等の外部の専門家が参加し、かつ専門分野ごとの専門部会において審査を行うことになっています。
 私も最近まで知りませんでしたが、調査事務所、算出機構のいずれも医証などの書類のみでの審査で、被害者の健康状態を直接診断することは行ないません。単純に考えても、むちうち症などの神経症状は書類上の立証は困難で、ここで悔しい思いをする人が多いのではと思われます。公立病院の副院長が診断しても裁判所が書類審査を優先するのであれば余りに単純な泣き寝入りになります。私の場合、当事者に時間の余裕がなくて控訴を選択できませんでした。
 最近は、高次脳機能傷害とか、PTSD(外傷後ストレス障害)も傷害として扱われるようですが、これも書類だけで審査できるのか疑問です。
 調査事務所は、等級認定の他に、損害保険などの支払料率について研究するなど、損害保険の枠組みを作る仕事の比重も大きいようです。