黒板とチョークが当たる心地よいリズムが教室に響き渡る。
心地よい日の光が差し込む窓際の席で
僕はいつもの様に手を見つめていた。
小指からそっと握り締める動作が好きで
幾度となく開いては握りしめていた。
頭の中を空っぽにした瞬間
後ろの席から小さく五角形に折りたたまれたメモ用紙を渡された。
「これ、住野から」
暇な授業の時など、仲の良い友人からくだらないメモが渡ってくる。
大概こういうのは下らない担任の悪口やクラスメイトの噂話だ。
なるべく音を立てない様に開けると予想外の事が書いてあり、
一寸僕の鼓動を早めた。
「手、綺麗だね」
住野とは普段会話らしい会話
をした事が無かった。
二人で会話をしたのは、
前に一度、修学旅行のバスの中で隣の席になった時ぐらいだった。
その時に彼女と話した内容は
好きな漫画とか小説の話だった。
クラスの中でも大人しい方の部類に入る彼女が
楽しそうにクスクスと笑ながら話す横顔を見て、軽く僕の胸を締め付けたのを覚えている。
修学旅行以来、特に話す事もなく、なんとなく機会を伺ってはいたのだがこんな風に向こうからコンタクトを取られると思わなかった。
"みてたの?おかしかった?"
殴り書きで書いたノートの切れ端を、見様見真似で五角形に折り
後ろの席に住野に戻す様に渡した。
____「へー!なんかちゃんと青春してるんですね」
「どういう意味だよ。そりゃ僕にだってあったさ」
「どんな雰囲気の彼女だったんですか?」
「黒髪が綺麗な娘でね、後ろで一つに纏めていたんだけど、うなじがとても艶っぽくてね、和服が似合いそうなお淑やかな娘だったなあ」
「で、その後付き合いだしたと?」
「いや、結局一回僕の家で遊んで、その後余り進展もなくてね。高校も別の学校に行ってしまったからそれきりだよ」
「彼女のペンを持つ手が美しくてねぇ。様になってたなあ」
「好きだったんですか?」
「好意は持ってたな。でもそれが好きだという感情かはわからない」
カランっと氷が音を立てる。
空いたグラスをコースターから外し、チェイサーを乗せる。
「あれ?もう飲まないんですか」
「うん。なんか今日は喋りすぎたよ。僕らしくない」
「たまには良いと思いますよ。昔の事なんて話す機会少ないですから」
「まあね。でもそろそろ帰ろうかな」
「また、お話して頂けるの楽しみにしていますよ」
席を立とうとしたところ、カランカランと店の黒く塗られた木製の扉が開いた。
途端、外の喧騒が店の中に響き渡る。
喧騒と共に現れたのは黒髪を後ろに纏めた小綺麗なスーツを着た女性だった。
「すいません、今日二名で予約をしている"住野"と申しますが…ちょっと早く来てしまったんですが宜しいでしょうか?」
_____続く。
以前の話は…「二丁目の男~第二章~エピローグ
「二丁目の男~プロローグ~」
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