短編「ゆめはなび | Mono/Sizmic

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即興短編小説とillust達

「あなた、見て。ほらまた笑ってる」
妻が息子の寝顔を見て、小説を読んでいる私に話し掛ける。

「さっきから随分楽しそうだなあ。僕もこのぐらいに初めて見たような記憶があるよ」

___翌朝、息子が不機嫌そうな顔を
して起きてきた。
「おや?どうしたんだい。今朝は随分とご機嫌がよろしくないみたいだね」

新聞を広げている私の間に息子が割り込んできた。
「昨日ね、せっかく楽しい夢を見たはずなのに、何も覚えていないんだ…」
「せっかくパパにお話してあげようと思ったのに!」

広げていた新聞を閉じ、息子を膝の上に乗せてゆっくり話し始める。
「それはね、"夢花火"というものなんだよ」
「ゆめはなびぃ?」

「ああ、花火は見たことあるよね?」
「うん!去年の夏休みパパとママと一緒に見に行ったのを覚えているよ!」

「楽しかったかい?」
「うん!とーっても長い花火とか、
金色に光るのとか、ぐるぐる回るやつとか!すっごい楽しかった!

「次の日おねしょしちゃうくらい楽しかったものな」
「それは忘れてよー!」
「あはは。ごめんごめん。じゃあその時の花火を思い出して、絵に描けるかい?」
「そんなの無理だよ…だって沢山の花火を見たし、すぐ消えちゃうじゃないかぁ」
大事にしている怪獣のヌイグルミをぎゅっと抱き締め、膝の上でぐずる。

「そう。花火はね、輝くのが一瞬だから、とても貴重で美しいんだ」
「いつも同じ花火ばかり見れても飽きちゃうだろ?」
「夢もそれと一緒でね、楽しい夢を見ている時はとてもワクワクしたり、
怖い夢を見ている時はドキドキするよね?」

「うん。怖い夢は嫌だ。でも楽しい夢はいっぱい見たい!」
「それは神様が打ち上げた花火なんだよ。短い間、ほんの一瞬しか見れないけれど君の人生を豊かにしてくれる、そんな花火なんだ」

「でもなんで一瞬だけなの?なんで覚えていないの?」
「それはパパも楽しい夢の中ならずっと見ていたいな。でも、怖い夢がずっと続いたら嫌だよね?
それに、現実の世界にも、もっと楽しい事が待っている。夢の
世界よりも凄い事がもっと待っているかもしれない」

「でも、みんなちゃんと寝て、元気にならないと、せっかく楽しい事が待っているかも知れない明日が台無しになってしまうだろ?」
「うん。眠たいまま学校に行くのは嫌だ。つまらなくなっちゃう」

「その為に、寝ている時も皆が楽しめるように神様が打ち上げてくれる花火なのさ」
「お布団に入るのが楽しくなるだろ?」

「そうなんだー!今日も楽しい夢花火見れるかな!?」
「それは神様の気分次第だね」

昼食のお弁当を作り終えた妻が息子を
膝から優しく下ろす。
「さ、夢のお話はお終い。早くしないと二人とも遅刻しちゃうわよ?」
「今日も楽しんで、行ってらっしゃい!」

photo:01



illust by WATASHI

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