里でもそろそろ落葉樹が秋の装いを始めた10月下旬のある日。この日もジンクスどおり絶好の探検日和に恵まれました。空には虹色の雲も現れ、思わぬ「瑞雲」の出現に隊員の意気もいや増すばかりです。


 この日の探検は、国道361号旧道の地蔵峠手前にある唐沢の滝を皮切りに、王滝村の清滝、新滝を探検し、「ひだみ」で舌鼓を打った後、御嶽神社里宮に参拝。上松町に下って、木曽八景の中で「風越の晴嵐」と称えられた風越山の湧水を引水している「和水」を調査。さらに南下して大桑村に入るころには日差しもだいぶ傾き、そろそろ心細さが漂いはじめるころ。


 一行は国道を外れて線路を横切り、木曽川に架かる阿寺橋を渡って阿寺川を遡上、いよいよ阿寺渓谷に入ります。唐沢の滝や清滝、新滝ではだいぶ進んでいた紅葉も、この辺ではまだこれからという感じでした。


 遡上するにつれて川幅も狭まり、渓谷らしさが増します。途中には、朽ちかけた姿を残す森林鉄道の鉄橋や河床の巨岩にポツンと残る橋脚などが往時を偲ばせます。


 阿寺渓谷には、千畳岩や甌穴、犬帰りの淵をはじめとする幾つかの淵や雨現、樽ヶ沢、六段と続く滝などの景勝地があります。木曽川との合流地点から砂小屋キャンプ場までの約7キロは、およそ2時間かけて歩くハイキングコースにもなっており、風景を堪能しながら歩くのも一興でしたが、あいにくこの日は時間がなく、車窓からの眺めだけで我慢しました。


 ところで、「甌穴」をご存じでしたか? 「ポットホール」と言えば何となく昔、地理か地学の時間に習ったような気がしますが、「甌穴」と書かれてもピンと来ませんでした。「おうけつ」と読むそうで、パソコンの辞書にも標準登録されていて、一発で変換できます。それはさておき、甌穴とは、河床のくぼみにとらえられた石が水流によって河床を削ることによってできた大きな穴のことだそうです。寝覚の床にもあるそうで、ものによっては天然記念物に指定されることもある珍しいものなんですね。


 上流に進むにつれて舗装もなくなり、道幅も狭まり、カーブが続き、前を尾張小牧ナンバーの自動車が走っていなければ、「この道で本当に大丈夫かなぁ」と心細くなるところですが、時折通る対向車にも勇気付けられる一行でした。


 そうこうしているうちに、前方に小屋のようなものが見え、近くには清水の湧き出ている水舟が。ここが、この日の探検の締め括る「砂小屋の冷水」(美顔水)です。由緒が書かれた立札には、「昔、この山を管理するため遠く尾張藩より派遣された役人達の奥方が、見違えるほど色白の美人となって帰って来るので、その理由を聞いたところ、この冷水を朝夕使っていたとのこと。そのためこの冷水を『美顔水』とも呼ぶ」と書かれています。
木曽路名水探検隊のブログ-美顔水


 ちなみに、ネットで「美顔水」を検索すると、上位にヒットするのは何やら怪しい化粧水ばかりで、砂小屋の美顔水はなかなか出てきません。正しくは「びがんみず」と読むのだとか。


 水は、斜面の奥の方からホースで引かれ、水舟に滾々と湧き出ていました。さっそく掬って口に含んでみるのですが、残念ながら馬鹿舌の私には妙味の区別がつきません。ただ、冷たくて美味しいという感想だけです。それでも、評判を聞き付けて訪れたのか、県外車が多く、ペットボトルに汲んでいるところを見ると、確かに名水なのでしょう。近くには看板に「吉報の水」と書かれた水場があって、やはり奥の方から同じように引水しているのですが、どう違うのか定かではありませんでした。
木曽路名水探検隊のブログ-吉報の水


水舟に流れ落ちる清冽な水を眺めながら、谷の上流に降った雨が、森林と大地に磨かれて、我々の肌や喉を潤す清水となって湧き出しているのだと思うと、自然の恵みのありがたさを感じずにはいられない気持ちになりました。(aki