赤髯王の呪い

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株式会社 ビーケーワン

1948年ロンドン。エチエンヌは故郷アルザス在住の兄から届いた手紙に驚愕する。ある晩、兄が密室状態の物置小屋の中を窓から覗いてみると、16年前 “赤髯王ごっこ”をしたために呪いで刺殺されたドイツ人の少女エヴァの姿があったというのだ。エチエンヌは友人から紹介された犯罪学者ツイスト博士に、当時の状況を語り始めるが…。『第四の扉』刊行以前に私家版として発表された幻のツイスト博士シリーズ第1作。アルザス=ロレーヌ作家協会賞受賞作。ほかに、短篇「死者は真夜中に踊る」「ローレライの呼び声」「コニャック殺人事件」収録。

ポール・アルテの出版物としては13番め、日本では5番めにあたり、現在(記事投稿日参照)では最新刊。
しかし実質的には処女作らしい。というのも元々は友人がコピーして私家版を作り、仲間うちで配っていたものだった。自費出版といえるほどでもないものだったらしい。
これを地元の文学賞に応募して入選。しかしここでも出版までには至らなかった。その後のことは巻末の解説に経緯が詳しく載せられている。

この作品の第一稿(つまりアマチュア作品として)では探偵役のツイスト博士は登場しておらず、カーが生み出した探偵ギデオン・フェル博士が使われていたらしい。版権上で無理があり、ツイスト博士が代役となったという。

これは大学のミステリ研やアマチュアサークルで、発表作品に日本の名探偵を登場させるようなものだろう。そんなエピソードも素人作品らしい。

肝心の内容はというと、コピーで私家版で済ませるには完成度が高すぎる。よくぞ出版にこぎつけたと思う。
しかしその反面、素人臭さというのも漂っていることは否定できない。
いくつも出てきた謎の殺人事件をこんな形で解答をしめし、はたして読者は納得するのだろうかという部分もある。
しかし推理そのものもはいたって論理的なので犯人がわかったときの気持ちよさはある。

ミステリで重要なのは提供される謎の面白さと解決したときの爽快感だが、それをどれだけのページ数で表現するかという読者の労力への配慮も必要だと思う。
そういう意味でも良いバランスに仕上っている作品だといえるだろう。