アイツの事はなんでも判っていると思い込んでいた。
地味で
垢抜けなくて
家政婦にしか使えない様な奴
そして
俺の事を大好きで信じ切っている奴
だから知らない
CMで見せたあの姿も
普段のあの姿でさえ
あんなスッキリしたショートも
明るすぎない茶髪も
無駄のない綺麗なボディラインも
ほのかに施されている化粧も
ところどころ見える肌のハリも
そして、アイツに見せた「女」としての色香も
ライブの為に滞在しているホテルにアイツも宿泊していると知って、コンタクトを取ろうとした。
だが、思いの外アイツの外野のガードが固く(一体何の仕事でいるんだ?)、でもアイツの事だからこのビーチにいればふらふらとやって来る自信はあったんだ。
案の定夜のビーチにアイツは一人でやってきた。
ほらな。
アイツの事は一番知っているんだ。
そう思い、声をかけようとした時
携帯を取り出して電話を掛けようとしている姿
その表情が目に飛び込んできた
微笑むその表情を俺は知らない
「・・・・・・ッ!ショータロー!?」
「・・・ッ!お前、今・・・・誰に電話かける気だったんだ!?」
突然のショータローの乱入に驚いたものの、キョーコはすぐに我に返り掴まれた手を振りといだ。
「ちょ・・・ッ離してよ。アンタには関係な・・・・ッ!」
「まさか敦賀じゃないだろうな!」
断言された言葉にぎょっとなった。
どうして今、敦賀さんの名前が出てくるのよ・・・・ッ!
「は?何言って・・・・」
「CM撮影の時、アイツと地下駐車場で会っていただろ」
「・・・・・・ッ!」
一気に記憶がフラッシュバックしてくる。
あ、あの時!?
あの時は・・・・・・・
蓮に捕まって、深いキスを何度も・・・・・・
「・・・・・・ッッッ!!!み、見ていたの!?」
「見られたくねーなら、アンナところで不謹慎な事するんじゃねーッ!」
「不謹慎の代名詞の様なアンタに言われたくないわよ!」
真っ赤になって怒鳴りつつもキョーコの思考は別の所に飛んでした。
敦賀さん~ッ!何が「人の気配に敏感だから大丈夫」よ!
思いっきりセンサー壊れているんじゃ・・・・いや・・・でも・・・待って・・・もしかして・・・・
思わず考え込んでしまうキョーコにショータローは更に苛立ちを深めた。
「バカじゃねーの」
先ほどとは違い、深く低い声に思わずキョーコも顔をあげた。
予想に反して自分を見るショータローの真剣な顔に、一瞬目を見開いた。
「ショー・・・・」
「遊ばれてるだけなのがわかんねーのかよ」
「わかっているわよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
あ、いや違うわね・・・「わかっていた」?
当時は身体だけの関係でもでも今は(一応)恋人な訳だし。
そんな(蓮が聞いたら怒りそうな)事をキョーコが考えているとはつゆ知らず、あまりにも間髪入れずにあっけらかんと言われたキョーコの言葉にショータローの方が衝撃を受けていた。
てっきりもっと動揺するとか、ムキになるとか、固まるとかの反応があると思ったのだ。
なのに、この平然とした返しに思わずこちらが固まってしまう。
そして、次に沸いたのは苛立ち
以前のCM撮影の時もそうだった。
自分を全く意識していないこのキョーコの態度が許せなかった。
自分を見ていないキョーコの視線が許せなかった。
何か、こいつを動揺させてやりたい
俺を意識させてやりたい。
「わ、わかっているなら・・・・ッ!これ以上みっともない事になる前にさっさと手をひけ」
「何言っているのよ。手を引いたくらいで逃げられるものですか!引くなら全身全力で・・・・でも無理かしら・・・」
「はあ?アイツがそんなにお前になんか本気になる訳がねーだろ!」
「確かに加減ってものを知らないから、あまり本気になられても困るのよね・・・・」
「いい加減にしろ!アイツはこの俺を差し置いて、抱かれたい男NO1なんて称号を持っている奴だぞ!お前の他に女なんていっぱいいるに決まっている!」
「他に女がいっぱい・・って・・・・そりゃあ回数は減ったけど総合時間はあまり変わっていないと思うし・・・」
「お、お、お、お前なんかがアイツを満足させられる訳ねーだろ!」
「は?!冗談じゃないわよ!敦賀さんを満足させていたらこっちの身が持たないわよ!」
勢いづいたショーの売り言葉に買い言葉、
思わず真っ赤な顔で叫ぶキョーコ
その言葉は核爆弾並の威力を発揮した事は間違いなく
「な、な、な、何を言っているんだお前はーっ!!さっきから!!いつの間にそんな破廉恥な女になったんだーッ!!!」
「破廉恥が服着ている様なアンタには言われたくないわよ!」
キョーコにしてもなぜ、今更ショータローがここまで突っかかって来るのか、全くわからない上に迷惑この上ない。
せっかく蓮に電話するところだったのに、こんな状況で電話なんてしたら、一体何が起こってしまうか・・・
「と、とにかく!これ以上かまわないでよ。こっちだって忙しいんだから・・・・ッ」
「おい!ちょっと待てって!」
「離して!」
逃げようとするキョーコの腕を慌てて掴んだ
その時
「触るな。俺のモノだ」
キョーコとショータローの間に入り込んできた黒い魔王・・・・ではなく、意外な人物に二人は同時に息をのんだ。
100歩譲ってこれが東京ならばまだ認められたかもしれない。
だが、ここは最南端の地域、沖縄なのだ。
東京からは車はもちろんの事、新幹線さえ通っていない南国の地なのだ。
という意識の前に、やはり驚きで反射的に声が出るのは仕方がない事で
「つ、敦賀ぁッ!?」
「な・・・・なんで!?」
同時に声をあげた二人の片方・・・ショータローを睨み付けたのも一瞬、すぐに蓮はクルリとキョーコの方に向きを変えて、ぎゅっと抱きしめた。
「あ・・・・あの・・・」
「会いたかった・・・・」
あまりの状況に困惑しつつも、心から響くその声に一瞬とまどいを忘れてキュンと胸が締め付けられた。
なんでここに、とか、どうして、とか、色々突っ込む所はあったにしても、今感じている蓮のぬくもりがすべてだと感じれば、残るのは愛おしさだけ。
「敦賀さん…」
「本当に・・・君は俺に初めての感情を色々教えてくれるよ・・・・」
そう言って、さらに抱きしめる腕の力をぎゅっと力を入れる。
その強ささえ今のキョーコにはときめきにしかならないのだから、我ながら毒されているのかもしれない。
でも
会いたかったのは自分も同じで
欲しかったのは自分の方だと言いたいぐらいだと・・・・
まあ、言えないけど
でも・・・・・
「おい・・・・おい!こっちを無視するな!なんなんだお前はいきなり!」
思いっきり腕の中でお互いのぬくもりと香りを堪能している最中に割り込まれたお邪魔声。
・・・・・・そうだった・・・・
じゃっかん・・・いや、かなり忘れたかった事を思い出させられて、うんざりとしてきた。
蓮はキョーコを離そうとはせずに、首のみその声の主に視線を投げつける。
「暖かくなると虫が湧くというけど、強力な殺虫剤でも持たせるべきだったな」
ギロリとにらむ視線に「芸能界一の紳士」の欠片などみじんも無い。
「ね?キョーコ。虫よけも必要だろ。今夜はしっかり防虫してあげるから」
蓮のにっこりと笑う言葉にやっと我に返ったのと、うっかりいつも癖で反射的に口に出ていたのはどちらが先か。
「み・・・見えるところはダメだすからね!ドラマの撮影が始まるんですから!」
「見えるところで無ければ、牽制の意味がないだろ」
「じゃあ見えないところにいつもアレだけ付ける意味も無いのでは!?」
「・・・・・・ッ!!お前ら何を言っているんだーッ!!」
破られた第三者の声に再び我に返った。
そうだ・・・まだいたんだったっけ・・・
「・・・・といか、アンタ・・・・」
「全く、芸能人たるもの場の空気を読むのも大事だというのに、君は人の気持ちに加えてそれさえ読めないのか?」
「は!?お、お前・・・ッ!本気な訳ないだろ?どうせ遊びだろ!?そんな地味で色気のない女・・・ッ!お前が相手にする訳・・・ッ!」
ショーの言葉に腕の中のキョーコが一瞬ピクリと反応したのが判った。
「地味」で「色気のない」
この言葉がキョーコの心にどれだけ楔を打っていたのか、自分はよく知っている。
そして
「・・・地味で・・・色気のない・・・ねぇ?」
クスリと薄く笑う蓮の顔に、腕の中のキョーコが一気に青ざめた事は判らなかったし、気付いても気にしなかっただろう。
「地味」で「色気のない」
この言葉が今キョーコにとってどれだけ関係のないものか、誰よりも自分が一番よく知っているのだから
「不破君・・・君も存外小さい男だね?」
「は?」
「女の色気は”ある”ものじゃない”つける”ものだよ?」
「・・・・・ッ!」
「ああ、そうだったね、君小さいんだった」
「は?」
にっこり笑ってキョーコからするりと離れると、蓮は怪訝な顔をするショータローに近寄りそっと耳元に顔をよせた。
「・・・・・君のゴム・・・君が使い余していた大きいサイズの方でも、俺には窮屈だったし」
「・・・・・・・・ッ!!!!!!」
ショータローは一瞬呆けた後に、噴火するのではないかというくらい真っ赤な顔になった。
何か言葉を紡ごうとしていたが、結局何も言わずに・・・言う事が出来ずに、足音荒くその場を去っていったのだった。
「・・・・・・・・・なに?あれ・・・・・」
呆然とするキョーコにはもちろん蓮がショータローに何を言ったのかなど、聞こえなかった。
聞こえなかった方が衛生上いいだろう。
「敦賀さん・・・何言ったんですか?」
振り返った蓮は人差し指を口元にあてて、悪戯気にクスリと笑った。
「秘密だよ。男同士の・・・・ね?」
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