チョコあげる、と言ったら清田はまるで犬みたいに走ってきた。お腹が空いた時用に買っておいた、小さくて四角い、個分けされたチョコレート。3、4個取って手のひらに落としたら、歯を見せて笑って、さんきゅーと言った。
「・・・・・・ん?なんだよ、その顔」
カサカサと包みを外して、清田はチョコを口2放り込む。不思議そうな顔をして首を傾げ、私を見下ろしていた。視線を外すために横を向いたら、覗き込んでくるのでまた目を逸らす。頬杖までして、私は顔を隠した。
「急になんだよ、ほんと。お前がくれるっつったんだろうが」
なぁ、と清田が名前を呼ぶ。それから、すぐ目の前にまで顔を近付けてくるせいで、上手く顔を隠せなくて困った。
耳まで熱くなってくる。清田が名前を呼んでいる。振り向けなくて、視線だけそっちを向いた。
「・・・・・・顔、近い」
「あん?そんなん今更だろ」
「・・・・・あんたはさ、なんでそんな単純なの?」
「・・・・・・・ケンカ売ってんのか」
言いながら目を細める清田の顔は、少しも怒っていない。
「チョコ、もっと食べていいよ」
袋ごと差し出すと、ますぐにた笑った。歯を見せて、子どもみたいに明るい顔。今度は両手で表情を隠すように、私は頬杖をつく。清田は包みをガサガサと外しながら、また一個チョコを口に放り込んだ。
「おいしいかね」
「ん、甘ぇ」
「あんま甘くない方がい?」
「いや、俺、甘いの割と好き」
「ふーん」
「もっとくれ」
「いいよ。でも鼻血には気をつけてね」
「おう」
チョコを頬張る清田は、ただのお徳用の個分けされたチョコレートなのに、嬉しそうに放り込んでいる。その顔を見ながら私は、熱い頬を隠しながら、あることを考えていた。



かわいいひと


このチョコでそんなに喜ぶなら、本命チョコを渡した時に清田は、どんな顔をしてくれるんだろう。






2009/02/06
イメージはモノブライトの『アナタMAGIC』です。