僕が中野に住んでいたころの話なんだよ。
僕の住んでいたアパートは、
丸ノ内線の中野富士見町が最寄り駅だったんだ。
そのころ僕はバイトらしきものをしていて、
帰りが結構遅かったんだよ。
もう帰ってやることっていったら、
酒飲んで飯食って、
そして寝るだけってな生活だったんだよ。
帰りに中野富士見町の駅を出て、
中野新橋方面に向かって歩くと、
駅からほんの少し行ったところに、
焼き鳥屋があったわけ。
今もあるのかな?
帰りにそこでつまみの焼き鳥数串と、
飲み終わった後に食べる、
釜飯を買って帰るのが僕の習慣になっていたわけ。
通りに面したところに、
釜飯を作る厨房があってね、
実際に大将が釜飯を作るのが見られるんだよ。
そこで釜飯ができるまでじっと待ってるわけ。
いろいろな釜飯があったけど、
僕はシャケの釜飯をいつも買っていたんだよ。
ある日のことその店でいつものごとく、
焼き鳥数串とシャケ釜飯を注文して、
大将が面倒臭そうに釜飯を作る様をボンヤリ眺めながら、
忠犬ハチ公みたいに待っていたんだよ。
そうしたら小さなお子さんを連れた、
若いお母さんがやってきて、
「わ~、美味しそう。私もお願いできますか?」
ってなことをいったわけ。
当然大将は、
「はい、どうぞ」
になるわけ。
するとその若いお母さんが、
「それじゃうなぎ釜飯」
って剛毅なことをいったわけ。
すると大将が、
「うちはうなぎを割くところからやっちゃうから、時間がかかっちゃうよ。30分以上かかるけどいいですか?」
っていった。
若いお母さんは、
「あ、いいですよ。それじゃ家で待ってますから、30分ほどしたらまたきます」
って帰っていった。
僕はうなぎを割くところが見られるかもしれないんで、
ワクワクして釜飯の厨房をさらに凝視していたら、
大将が女将さんを呼んで、
耳もとで何かをゴニョゴニョいったんだ。
すると女将さんが脱兎のごとく駆け出していっちゃった。
それから5分ぐらいしたかな?
女将さんがコンビニの袋を下げて、
ゼーゼー息せき切りながら帰ってきたんだよ。
それを大将に渡して、
店のほうに戻ったわけ。
大将が面倒臭そうにコンビニの袋から取り出したものは、
真空パックのうなぎの蒲焼きだったんだよな。
僕も30歳近くの大人として、
それをどうするのかは訊かなかったよ。
そうこうしているうちに僕のシャケ釜飯が出来上がって、
僕はアパートに帰っちゃった。
ただ僕が帰るまで、
大将はうなぎを割かなかったんだよね。
そんなことを今急に思い出しちゃったから、
忘れないうちに書き留めとこうと思ったんだよ。
これまた線が太くて、
きったねえ漫画なんだよな。
ねっ、ドドド~ッてな線の太さでしょう。
グルメ漫画だけど、
全然旨そうじゃねえんだよな。