「自分自身であれ」


あれは、1979年か、80年のことだ。
GEの取締役に初めて就任した私は、3日間の取締役の研修旅行でシアトルに居た。
取締役の会議に出たのは、あれが初めてか、2回目だったと思う。

その後、取締役が集まったパーティーで、コカ・コーラ元会長のポール・オースティンに話しかけられた。
彼は控えめで、礼儀正しい人物だ。

ともかく、彼は私の糊のきいたシャツや、会議でずっとおとなしかったことに気付いていたのだろう。
私はよそ行きの香りで取り澄ましていた。

「ジャック、本当の自分を忘れてはいけない」
と、彼は言った。

私は、バツの悪さをごまかすように、
「ありがとう」
と、答えたが、彼の真意は分かっていた。
私はそれまでずっと、自分らしく振舞ってきた。
誰か他の人間のようなふりをしたのは、あの会議の時だけだ。
何も言わずに大人しくしていたことなんて、それまで一度もなかった。
彼の言葉に、私は、はっとした。

次の会議では、前よりも発言するようになったと思う。