こんな視覚支援では困る | kingstone page(旧)

こんな視覚支援では困る

 大昔の話です。

 ある自閉症のお子さん。クラスが違うのであまり関わることは無かったの
ですが、私のクラスへよく遊びに来ていました。私のクラスには、子ども達
の好きなものを置いておこうと思って「鉄道ジャーナル」や「鉄道ファン」
を用意していたので、それを目当てにやって来ていたのです。

 いつも休憩時間が終わる頃、担任さんが中庭から私に大声で呼びかけられ
ます。

担「kingstone先生!○○君、いますかあ」
私「ああ、いるよお」
担「じゃあ、帰るよう言ってくださいい」
私「OK!」

 そのお子さんは、当時、特に視覚支援はされていませんでした。
 私は、お子さんに担任の写真を見せます。彼はじっと見て、何事か理解
してクラスへ戻って行きました。たぶん声かけはしていなかったと思いま
す。こんなことを繰り返していました。

 後年、別の地域で「自閉症の子どもたちとプールへ行こう」というボラ
ンティア活動をしている時、ある回から彼が参加しました。彼の学校では、
たぶんどのクラスでもスケジュールや視覚支援が行われるようになってい
た頃だと思います。

 ところが、その活動の時、彼にスケジュールなど見せて伝えようとして
も、目をそむけて見てくれません。何を提示しても見てくれません。

 私は困ってしまいました。

 自動販売機のジュースを飲むのが好きだ、という情報はありました。

 そこで自動販売機の写真を提示しつつ(と言っても彼はほとんど見て
くれていませんでしたが)彼の背中をそっと押して(後ろからでなく横
からです)自動販売機の方へ誘導して行きました。遠かったので、私の
心はかなりあせっていました。しかし力づくにならないようには気をつ
けていました。(この「押して行く」というのはお勧めしません)

 やっと自動販売機の前につき、彼にお金を入れたりしてもらったと思
いますが、とにかくジュースが飲めました。

 それから、彼はこちらが提示する視覚支援物(スケジュールや写真)
を見てくれるようになりました。

 ここからは想像です。
 彼は「嫌なこと」「とくにやりたくもないこと」ばかり視覚支援され
ているのではないか。(そういうのは支援とは呼ばないですが)だから
「見るのも嫌」状態なのではないか。

 まったくの想像ですが。


 視覚支援は「本人の好きなこと」から始めないと。
 ハルヤンネさん風に言えば「得する体験」ですね。

 そうしていれば「とくにやりたくもない」ことでも、付き合ってくれ
る場合も出てきます。子どもって(自閉症のお子さんに限らず)基本的
につきあいがいいですから。

 でも視覚支援する側は「ひょっとしてやりたくもないことをやらせて
るんじゃあないか」とかつねに考えておく必要があると思います。で、
本人さんが「いや」と表現したり「拒否」した場合は、いろいろ考えな
いと。

 繰り返しますが「嫌なこと」「とくにやりたくもないこと」ばかりの
視覚支援は「支援」でなく単なる「強制」です。