「今のJリーグは力のない者にあわせる護送船団だ。このままではあかん」
神戸前社長の安達貞至(現副会長、72歳)氏はJ1有力クラブによる新たな「プレミアリーグ」を作ろうという構想を持つ。きっかけは4年前のワールドカップ(W杯)ドイツ大会だった。


 現地で観戦する前、日本代表の最年少を探すとDF茂庭照幸選手の24歳だった。アルゼンチンはメッシをはじめ、他の国には10代の主力が珍しくなかった。全出場チームの最年少をよく調べると、日本の24歳は最高齢。帰国して「W杯で活躍する10代選手を日本からも」という思いを、Jリーグチェアマンの鬼武健二(70)氏に伝えた。若手強化策を検討するプロジェクトが発足し、安達氏も加わったのは2009年だ。


 プロジェクトの結論の一つに、各クラブの保有選手を減らした上で日程を過密化することで、ユース選手など若手を起用しなければシーズンを乗り切れないようにする妙案があった。しかしJリーグ各クラブの社長が集まる実行委員会に拒否された。ユースまで強化が行き届かないクラブには不公平。それが理由だ。


 「その理屈だとレベルの高い取り組みはできない。ハードルを高くして新しいリーグを作ったほうがいい」。そう断言する安達氏は異端なのだろうか。取材を進めると「リーグの構成を考える時期なのかもしれない」と話す横浜マリノス社長の嘉悦朗(54)氏に出会った。「プレミアリーグも一つのアイデアですね」


 Jリーグ傘下の団体が一括管理する関連グッズ商品化権とテレビ放映権を、各クラブで扱いたいという要望が実行委員会で出たことはあるが、「人気クラブとそうでないクラブで差がつくのはおかしい」という反論で頓挫したという。「正論のようだが違うと思った。顧客本位の発想でもない」


 嘉悦氏は日産自動車の出身。経営破綻の間際から復活した「日産リバイバルプラン」にもかかわった。市場の変化に適応できるかで、ライバルとの勝負が明確につく自動車業界の論理が叩き込まれている。「素材メーカーや重厚長大型の産業からきた人は感覚が違うようだ」


 スタジアムの収容人数など当時としては高い参入基準を設けて発足したJリーグだが、横浜フリューゲルスが破綻した98年を境に「身の丈にあった経営」を奨励している。Jリーグ発足時にセレッソ大阪の社長だった鬼武氏は「かつてと比べて、社長たちから感じる熱が下がった」という。


 競争で強者を育てるより、護送船団で弱い者を守る発想が染み付いているのか。

「プレミアリーグ構想」を鬼武氏に聞くと、イングランドの先例についての知識が次々と返ってきた。「現状でいいと思わない。打破したい。だがプレミアリーグで選手は育つのか。お金は稼げるのか。時間をかけて検討したい」