駆け抜けた青春の残像 赤い暴行 | 不思議戦隊★キンザザ

駆け抜けた青春の残像 赤い暴行

今夜も地下室の狭いライブハウスで、ビッグになることを夢見ながら演奏しているバンドがいる。最近デビューしたデビルである。

 

 
左からサガラ、ジェームス、不二人、アキ


メンバーはボーカル&ベースの高橋不二人(ふじと)、ギターのサガラ、もうひとりギターのジェームス・ハント、ドラムのアキであった。なぜボーカルの不二人がベースを担当しているのかというと、不二人はもともと永ちゃんに憧れてバンドを始めたからだ(それともポール・マッカートニーだったかな)。そんで、ライブハウスで演奏している曲はオールディーズというか、ロカビリーというか、まあハッキリ言うとキャロルっぽい。なぜなら、この頃の不二人はキャロルに心酔していたからだ。
ちなみにギタリストの片方がジェームス・ハントという名前(芸名?)だが、伝説のF1レーサーではないので勘違いしないように。って、画像みたら勘違いする隙もないけどな。

 

こっちのハントの方が全然ロックやんけ


おっと、どうでもよいことばっかり書いちまって全然進んでないや。


客席にはそこそこファンがいる。しかしビッグになるにはまだまだだ。俺らはこんなところで燻っている器じゃねえんだ。擦れた声で歌うステージ上の不二人は、誰よりも攻撃的だった。
ライブを終えたメンバーは近くのカフェへしけこみ、乾いた喉をビールで潤した。本当なら楽屋へ流れ込んできた女の子たちの中からいい女をピックアップして、それもひとりじゃねえぞ、何人ものいい女だ。いい女を何人も侍らせて、お高級なクラブで高い酒をグイグイ飲みたい。それがロックスターってやつだろ?
しかし現実はまだ妄想に追いついていない。不二人はカフェを出て、公衆電話で女に電話をかけた。


女はすぐ近くに住んでいるとみえて、「会いたい」などと我儘をいう不二人を迎えに来た。女は女子大生で、高校時代から不二人の恋人らしい。女の下宿屋に転がり込んだ不二人は、さっそく女にのしかかり、コトを始める。


言い忘れましたが、この映画は日活ロマンポルノです。セックスシーンが多いです。


Tシャツは着たままで、でもパンツは脱いで蠕動する不二人を見ながらマダムは思った。「こんなのが見たかったんじゃない!」
そうは思っても、まあ、せっかくやってんだから見なきゃ損だよな、という気持ちも少しあったり、そんでこの頃の不二人さんはまだ19歳だからなんかカワイイな、とか母性本能をくすぐられたりして、しっかり見た。


しかしロマンポルノなのでセックスシーンが無駄に長い。おっぱいは見えるけど、下半身は規制があって見えない。といっても別にこれは不平不満などではなく、なんつーの?もう動きが決まってんじゃん、こういうのって。だから見てる側としては中弛みするんだよね、面白みがなくて。隣に座ってたガミタ=サンなんて、コトが始まる度に寝落ちしてたもん。マダムもほとほと飽きてたけどね。


やっと終わって、不二人がいそいそとティッシュで何かを拭いたりしてると(生々しいなー)、女が「好きな人ができたから、もうあんたとは会えない」とつれないことを言う。大阪から不二人を追って上京するため東京の大学に入り、大学に通っているうちに新しい出会いがあったのである。


よくある話である。どちらかが新しい社会を知ってしまうと、それを知らない相手に不満を覚えるものだ。デビルは全然売れないし、デビューはしても狭いライブハウスでの演奏が精一杯。夢だけはデカいことを語るが、じゃあお前そのためにどうすんの?何すんの?と突っ込まれたら、口ごもる以外ない。全然成長してないねって言われても、狭い世界でバンドやってる野郎に大人になれって説教する方が間違っている。

 

曲作り、練習、レコーディング、ライブ。こんなことを繰り返して、どうやって大人になれってんだよ!俺だってもっと大人になりたいよ!
この状況をどうにかして打破してえんだよ!でも出来ないんだ。どうすればいいのか、俺だってわからないんだ。不二人は出口のない焦燥感を抱えている。


不二人のことばっかり書いたが、他のメンバーもそれぞれ、同棲中の女と風呂場でやったり、ナンパした女と2回もやったり、とにかく律儀にひとりにつき一回は絡みがあって、なるほどロマンポルノとはこういうものか、とマダムは感心しなかった。ただただ退屈だった。


さてメンバーがあっちでコマし、こっちでコマしている間に、不二人はひとりの女子高生と知り合いになる。といっても不二人から声をかけたのではなく、女子高生が不二人に声をかけたのだ。女子高生はマリといった。マリはデビルのファンであった。

 

マリ役の紗貴めぐみさんは、これがデビュー作だそうだ


マリは不二人と一緒にレコード店に入り、デビルのデビューアルバム「ダーティシティ」を探す。が、ない。マリは店員に聞いてみた。
「デビルのダーティシティはないの?」「少々お待ちください」
店の奥に引っ込んだ店員を待っていると「きゃー!本物よ!」という声がレコード店に響き渡った。続いて「カッコいいー」「サインくださーい」という女子どもの黄色い声が。不二人が振り向くと、視線の先に内田裕也がいた。

 

死神博士?


女子どもの黄色い声は不二人に向けられたものではなかったのである。内田裕也は大物である。不二人も知らないわけではない。というか、ギョーカイでは大先輩だ。不二人は裕也にあいさつした。そのときの不二人が、マリには卑屈に見えた。
「あたし、内田裕也って大っ嫌い!!」
同感である。マダムも内田裕也は大嫌いである。

 

そこへ奥に引っ込んでいた店員が戻って来て言った。「デビルのアルバムは全然売れないから返品した」


アルバムは売れずライブの予定もない。金もない。事務所から支払われた印税は、たった16円だ。バカにしてんのか?
マネージャーはデビルの宣伝に金がかかったと弁解するが、だったら宣伝の仕方が下手なんだよ!俺らは事務所の言う通りにやってんだよ。俺らが売れないのは事務所の責任じゃねえか。売れるまで我慢しろっつったって限度があるぜ。ライブさえやらせてくれりゃブレイクする自信はあるんだ。
それをなに?先に曲を作れだと?レコード出さなきゃライブやっても意味がないと?そんなクソみたいなギョーカイの決まりごとなんて知ったこっちゃねえよ。
思うように音楽活動もできない飼い殺しの現状に、メンバーは苛立ちを募らせていく。


気晴らしをしようと思っても、金がないから気も晴らせない。腹が減っても、金がないから食いたいもんも食えない。なぜ金がないか?売れてないからだ。・・・・と、苛立ちはループする。
そんな不二人に、マリはソフトクリームをおごったり、食事をおごったりする。開業医の娘なので無駄にカネを持っているのである。


なんでこんな小娘が金を持ってて、メジャーデビューしてる俺が素寒貧なんだよ。しかもマリは自分で稼いだ金じゃねえだろ。医者の親父から貰ってんだろ。
女子高生の小遣いのおこぼれに与ってる自分に腹立つわあ。ほんま、世の中不条理や。

不二人はマリをホテルに連れ込み、無理やり犯した。


-略-


デビルは1979年に実際にデビューしたロックバンドである。第二のキャロルを目論んだレコード会社が、それぞれスカウトして作った所謂「商業バンド」であった。それでも、作詞作曲はメンバー自身が担当していた。
ボーカルの不二人は当時、関西でバンド活動をしていたところをスカウトされた。しかしスカウトされたのは不二人ひとりである。つまりバンドとしてスカウトされたのではなく、不二人だけが引き抜かれたのである。まあ、それほどフロントマンとして目立っていたのだろう。

 

※ちなみに不二人の実兄はACTIONの高橋ヨシロウ(特撮好き)である。祖父については実業家でビール王、日本プロ野球史で最弱伝説を誇る(笑)高橋ユニオンズのオーナー、高橋龍太郎という噂があったが、それは本当だろうか?

 

デビルのデビューシングル「Bye Bye」


デビルはソニーが設立した(※)SMSレコードの第一弾アーティストとして、鳴り物入りでデビューした(らしい)。宣伝にも本当に金を使ったようだ。が、レコード会社の思惑とは裏腹にデビルは思ったほど売れなかった。

これがロマンポルノ出演の理由だろうか?だとしたら切ねえなあ。
この映画に出演した翌年、デビルは解散した。約3年の活動で、シングルを3枚、アルバムを1枚出した。

 

※22/06/02訂正

SMSレコードはソニーではありませんでした。渡辺プロ、西武百貨店(現:そごう・西武)、音響機器メーカーのトリオ(現:JVCケンウッド)の3社共同で設立したレコード会社ということです。

ぽつをさん、ご指摘ありがとうございました!


不二人さんはデビルを解散したあと、DEVILS(デビルス)というバンドを新しく組み、メンバーを変えながらも精力的に活動を続ける。

不二人さんのルックスの良さと歌の上手さ、ステージパフォーマンスのカッコよさがいつしか話題を呼び、80年代の後半には「まだメジャーデビューしてない最後の大物バンド」という、すごいんだかすごくないんだか分からない噂が、あちこちで飛び交い始める。

飛び交う噂は、それだけではなかった。デビルスのメンバーは喧嘩っ早いばかりでなく、どいつもこいつも喧嘩が無駄に強い。目を合わせただけで殴られる。路上だろうが飲み屋だろうが関係なしにファイトするので、出禁になった飲み屋やらスタジオは数知れず。特に土曜日の新宿ローリング・ストーンは気を付けろ。不二人が酔っ払って暴れてるから。という、どっちかというと「あいつらまとめておっかねえ」という噂であった。

そんなデビルスが1989年、満を持してデビューした。さあ、ここからマダムの昔話が始まるぞ。

 

久しぶりに聴いたら涙でてきた(嘘)


マダムは当時女子高生、中学の頃から小煩い音楽にハマっちまって愛読書はロッキンf(笑)であった。そんで、そのロッキンfにデビュー前のデビルスがちょくちょく載るんだ。山奥のクソ田舎で鬱屈を溜めていた女子高生マダムは、ただならぬ雰囲気を漂わせていたデビルスに興味を持った。ただならぬ雰囲気とは、殺気である。

 

ね?なんかヤバそうでしょ


ファーストアルバムを買い、ライブに行った。会場は、いまはなき広島のウッディストリートというライブハウスであった。

 

ファンクラブに入ったらオマケが生写真だった


初めて目にするデビルスは最高にカッコよかった。不二人さんは超超セクシーだし、ギターの狂平さんは渋いし(惚れた)、Jimmyさん は元気だし、元リアクションのYUKIさんは貫禄あるし、DAXXさんは面白かった。エアロのように(というか、不二人さんは衣装もステージングもスティーブン・タイラー)派手でありながら、いぶし銀のカッコよさ。これが大人のロックかあ!とマダムは感銘を受けたのであった。

 

左から2nd、3rd、不二人さんのソロ
 
マダムは狂平さん(右から2人目)のファンだった
 
ごそごそ探してたら、こんなものまで見つけてしまった


そんで、ツアーの度に、まあ、追っかけちゃったりしたのである。追っかけといっても小遣いの少ない田舎の小娘なもんだから、通えるのは広島と博多、東京のみであった。ライブ当日は入り待ち出待ちは当たり前、ライブは常に最前を死守。そのうちメンバーの覚えもめでたく、ピックを貰ったり、名前を聞かれたりした。マネージャーの田村さんに「今日は来ちゃダメ」と言われない限り、ライブ後の打ち上げに出掛けるメンバーの後ろを、ちょかちょか付いてったりした。(今考えると結構うざいっすね・・・)

 

写真撮ったり、一緒に撮ってもらったりしたもんです


そんな蜜月(?)も、3年で終わった。デビルスが解散したのである。マダムは19歳になっていた。

 

デビルスを追っかけながら、マダム自身にもいろいろあった。この頃のマダムは現実逃避というか、消滅願望というか、逃亡願望を抱えていた時期なので、必要以上にハマってしまったのかも知れない。

デビルスという偶像に夢中になることで、とりあえず目の前の現実から安易に目をそらしていたのかも知れなかった。

 

映画の中の不二人は、飼い殺されてもビッグになりたいという欲望と、飼い殺しから解放されて自分の好きなようにやりたいというジレンマの狭間で揺れている。そして自分の年齢にも苛立っているように見える。

早く大人になりたいんだ。俺は、自分のケツくらい自分で拭きたいんだよ。その焦燥感に、時間を超えて共感する。

 

デビルスが解散して、マダムはもうバンドに夢中になることはなくなった。

しかし今でもデビルスは、マダムの中では一番のバンドである。

 


 

↓↓↓こちらの記事もどうぞ↓↓↓

はじめてのKISS  

秘境便り2014 初夏  

大正に生きた女神たち