大きいことは、いいことだ! パシフィック・リム | 不思議戦隊★キンザザ

大きいことは、いいことだ! パシフィック・リム

昨年末から一部の映画ファンの間で囁かれてきた怪獣映画。曰く「デル・トロが怪獣映画を作っているらしい」「巨大ロボットと怪獣が戦うらしい」「いまさら巨大ロボット?」「ガイジンにそんな映画を作らせて大丈夫か?」
一部の映画ファンは期待半分諦め半分な複雑な気持ちで、しかし封切られたらきっと映画館へ行っちゃうんだろうな~という悲しい性(さが)を持て余しながら、まるでクリスマス前の良い子のような気持ちで怪獣映画の続報を待った。


それはいきなり全貌を現した。youtubeに予告編が上げられ、我々は息を飲んだ。
「これは・・・・・鉄人28号だっ!」
マダムは巨大ロボット(人間が搭乗するのでMSか)を見て、デザインのダサさにガッカリした。ガッカリしながらも、上映公開日を指折り数えた。そして、見た。


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あれ?なんか郷愁を感じるな

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郷愁の元はコレか!


2013年8月11日午前7時。太平洋の深海から突如現れた謎の巨大生命体によって、まずサンフランシスコ湾が襲撃された。打つ手のないまま3つの都市がわずか6日間で壊滅、人類は絶滅の危機に晒される。人類に残された道は“絶滅”するか“戦う”かのふたつしかない。

そんな中、環太平洋沿岸(パシフィック・リム)諸国は、PPDC(パン・パシフィック・ディフェンス・コープ)を設立、専門家たちの英知を結集して人型巨大兵器“イェーガー”を開発する。だが、人類をあざ笑うかのように、巨大生命体は次々と海底から姿を現し、破壊を繰り返す。巨大生命体の侵攻を食い止めるため、そして人類存続のため、モリ・マコ(菊地凛子)ら選ばれたパイロットたちは“イェーガー”に乗り込んでいくのだった……。


パシフィック・リムにとって、あらすじなどどうでも良いのでつるっとコピペさせてもらった。
そう、この映画で大切なのはあらすじなどではない。怪獣と人型巨大兵器イェーガーのデカさこそ、真髄なのだ。


映画が始まってすぐ、海から巨大なKAIJUが現れる。KAIJU(アックスヘッド)は、サンフランシスコ湾にかかるゴールデンゲートブリッジを、事もなげに破壊する。そこからは息つく暇もなく、上陸したアックスヘッドが暴れまわる。街が破壊され、自動車がぶっ飛び、人々は叫びながら逃げまどう。なんというカタルシス!
ドアタマからいきなりクライマックス並みの大迫力!これこれ!これだよ!!これが怪獣映画ってもんだ!!!


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キタキタキタキターーーーー!


出し惜しみしないKAIJUの暴れっぷりに観客は大喜びだ。もちろんマダムも大喜びだ。怪獣をモンスターとは呼ばず、ちゃんと「KAIJU」と呼んでいるのにも感動だ。「KAIJUが現れました!」ってなニュース映像の挿入なども、正統な特撮の様式美を踏襲している。もうこの時点で「パシフィック・リム」の素晴らしさを、マダムは確信した。
次々現れるKAIJUは、個体全てに名前が付いているのだが、そこにデル・トロ監督の愛を感じる。監督の怪獣に対する愛は、「雑草という名の植物はありません」という昭和天皇の名言を思い起こさせる。
さながら「怪獣という名の怪獣はいません」ってな感じか。チキショー!分かってるじゃねえか!


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特撮では欠かせないニュース映像


人類にとって最強の敵、KAIJUが現れたとなっては、我々人類も一致団結しなければならない。人類は環太平洋沿岸防衛軍(カッケー!)を組織し、人型巨大兵器「イェーガー」を建造する。イェーガーはモビルスーツ仕様なので人間が搭乗して操縦する。イェーガーの最大の特徴は、この操縦方法にある。
ただ単にシステムを操作してマシンを動かすのではなく、パイロットの神経とイェーガーの動作回路を接続し、パイロットの動きに合わせて巨大ロボットを動かすのである。回路システムは脳に直結する。接続することを「ドリフトする」と言う。


つまり、接続によってパイロットとイェーガーは文字通り一体になるのである。そしてパイロット同士もイェーガーを媒体として、お互いに繋がるのである。お互いの脳神経が繋がるワケだから、それぞれが持っている感情や記憶といったセンシティブな部分も共有せざるを得ない。
本当に信頼し合ってなければ、イェーガーの操縦は難しい。どちらかが少しでもネガティブな感情を持ってしまうと、もうひとりのパイロットの心情に干渉してしまう。イェーガーパイロットは、肉体的にも精神的にも強靭でなければならないのだ。
イェーガー最大の特徴であるこの操縦方法は、イェーガー最大の弱点であるともいえよう。


さてパイロットが搭乗するのはイェーガーの頭部である。パイロットが搭乗した後、頭部と胴体が合体する。
いわゆる、「パイルダーオン」である!


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パイルダーオーーーーン!!


まさか21世紀の新作映画でパイルダーオンが見られるとは思わなかった。
他にもワクワクするシーンは多々あり、主人公が搭乗するイェーガー「ジプシー・デンジャー」は、戦闘中にロケット・パンチ(※1)をかますわ、チェーン・ソード(※2)を振り回すわ、瞬きをするのが勿体ないくらいにネタの宝庫だ。


※1:ロケット・パンチ
マジンガーZが装備している武器の名称。肘から先がロケット噴射でぶっ飛ぶ。映画では「エルボー・ロケット」という名称だが、日本語吹き替え版では「ロケット・パンチ」とのこと。そのまんまじゃねえか。
マジンガーZがTV放映されていた当時、ロケット・パンチは斬新な武器として大流行した。アニメのように腕を飛ばすことのできる玩具が一世を風靡したが、ロケット・パンチを発射したまま、マジンガーZの腕を失くす児童が続出するという悲劇を生んだ。
ちなみにジプシー・デンジャーのロケット・パンチは直接飛ばず、ロケット噴射で伸縮するパンチであった。


※2:チェーン・ソード
和名では蛇腹剣。柔と鋼を兼ね備えた剣。通常は刃がバラバラの鞭状態だが、何かをどうにかするとバラバラだった刃が糸で吊ったようにシャキーーンと整列し、剣状態になる。うまく説明出来ないが「くたくた動物」と同じ原理である。


日本製初期型イェーガー「コヨーテ・タンゴ」に至っては双肩にキャノン砲を装備しており、誰がどう見ても某連邦軍のガン・キャノンであることは明白だ。


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あれれ?またもや郷愁が

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やっぱコイツか


ロシア製イェーガー「チェルノ・アルファ」の元ネタはザクだそうだ。ははあ、無骨なデザインがそれっぽいかも。モノアイだし。


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ロシアっぽいわあ

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ザクIIもカッコいいよね

なんつって、そんな細まけーことはいいんだよ!こんな元ネタなんて知らなくても、十分楽しめる怪獣映画なんだ!
「パシフィック・リム」の目玉は、何といっても臨場感溢れるバトルなんだぜ!
ストーリーも単純明快、難しく考える必要なんてないぜ!俺らは感じるだけでいいんだ!Don't think! Feeeel!


イェーガーは個体ごとに武器を装備しているが、基本的には武闘派だ。操縦するパイロットの動きにシンクロするので、戦い方は非常に人間的である。戦闘を前にして「よっしゃ、いっちょやってやるか!」ってな何気ない仕草(拳を掌に軽くパンチする)に胸が躍る。大地に降り立ったときの重量感も素晴らしい。ヘリの照明で照らしだされるのは傷だらけの胴体だ。これこそ百戦錬磨の勲章だ。機敏に動きまわるKAIJUめがけて突撃、至近距離からヘビー級のパンチを喰らわす。うわあ、カッコいいなあー!超爽快だなあー!


香港に上陸したKAIJUオオタチ(体長63メートル!)を迎え撃つシーンが、最高にカッコいい。
高層ビルの間を、左手に持った武器を引きずりながら歩くジプシー・デンジャー。後ろ姿に闘志がみなぎっている。武器はガトリング砲でもロケットランチャーでもない。なんと大型タンカーだ!!なにコレすげえ!!とんでもねええええ!


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このシーンにはシビレまくり


ジプシーは大型タンカーをバットのようにブン回し、オオタチをド突く!うわああああ!カッコいいいいいいい!


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行けえええええーーーー!


レザーバック戦も熱い。沖で闘うストライカーの助っ人に駆け付けたはいいが、レザーバックにブン投げられてぶっ飛ぶジプシー。橋梁をぶっ壊しながら着地、体勢を整えたのちレザーバックに向かって助走、そのままジャンピング左フック炸裂!連打連打!どわあああああっ!かっけーーーーーーーー!!


もうね、全編こんな感じ。最初から終わりまで脳味噌沸騰状態。「カッコいい!」以外の形容が思い浮かばない。

更にキャメラワークも素晴らしく、「この角度から見たいなあ」と思った通りに魅せてくれる。下から上から横から斜めから、遠目から近距離から、全ての「美味しい映像」が堪能できる。

KAIJUもイェーガーも高層ビルと同じ程のデカさなのだが、下から見上げるアングルでは思わずスクリーンを見上げ、まさに「巨大ロボットを目の当たりにしている」体験ができる。いやあ、いいなあ。楽しいなあ。


ところで主人公たちより存在感があるのが、個性派揃いの脇役だ。まず生物学者のニュートン博士。こいつは全身に怪獣タトゥーを入れている重症の怪獣オタクだ。おしゃべりで(内容は怪獣のことのみ)落ち着きがなく、深く考えずにすぐ実行。果てはKAIJUの脳神経とドリフトし、KAIJU出現の謎を解くカギを手に入れる。


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煩いけど良いヤツ


数理学者のゴットリーブ博士は、ニュートンとは正反対。いつもきっちりと英国人ぽくジャケットに身をつつみ、厳つい表情は笑うことがない。がちゃがちゃ煩いニュートンを嫌っているが、最後にはニュートンと協力しKAIJUの秘密を探る。


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気難しいけど良いヤツ


闇商人のハンニバル・チャウは、予算不足のK研究所(対KAIJU研究所、イェーガーの管理もここ)に莫大な寄付をする代わりに、仕留めたKAIJUを独占している。こいつがまたいい感じに趣味が悪くて最高。最後はライジュウの幼獣に喰われる。


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ファッションセンスがイカしてる


この喰われっぷりが、「原子怪獣現わる!」でレドザウルスが人間を捕食するシーンにそっくりなのだ!

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かなり凶暴なレドザウルス


KAIJUとはいうものの、日本の怪獣とは外見が少々異なる。日本の怪獣はスーツなのであまり機敏に動けないし、しっかりと大地を踏みしめている安定感がある。しかし「パシフィック・リム」のKAIJUは、怪獣というより爬虫類、あるいは恐竜に近い。
98年に公開されたエメリッヒ監督の「GODZILLA」のゴジラもそうであったが、アメリカが考える怪獣の原型は、やはりレドザウルスなのだ。(デル・トロ監督はアメリカ人ではなくメキシコ人だが)


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パシフィック・リムにはクトゥルフも入ってる


レドザウルスを撮った、というか、レドザウルスを創造し、美しいストップモーションでその姿をフィルムに収めたレイ・ハリーハウゼン御大こそ、アメリカの「特撮の父」であろう。御大は奇しくも今年の5月に亡くなったが、御大の残した功績は本多猪四朗と同じくらい大きいものだ。
ストップ・モーションで恐竜や怪物に命を吹き込んだレイ・ハリーハウゼン、世界で一番凶暴な怪獣、ゴジラを生みだした本多猪四朗。どちらも偉大なる特撮の父だ。神だ。


パシフィック・リムのエンド・クレジットで、なんとこの二人へ献辞が捧げられていた。


最後の最後でマダム号泣。デル・トロの野郎!やってくれたな!あんたマジで最高だぜ!!


拝啓 ギレルモ・デル・トロさま
映画を観る前までイェーガーのデザインがダサいと思っていましたが、バトルの臨場感とイェーガーの巨大さに感動し、デザインなど問題ではないことを実感いたしました。むしろ、懐かしささえ感じて号泣した次第です。
ロボットは無骨でいい。ダサくてもいい。巨大ロボットが動く、殴る、バトルする。それだけで嬉しいんだ。
もうずっと忘れていた純粋な気持ちを、この映画で思い出したような気がします。本当にありがとうございました。


以上、「パシフィック・リム」について、今回は書きたいことがいっぱいあるのに、いっぱいありすぎて上手く書けませんでした。もしかしたら後日、加筆、あるいは新しい記事を書くかも知れません。書かないかもしれないけど。
ああ、そうそう。出撃シーンとかバトルシーンで必ず流れるテーマ曲も素晴らしいということも付け加えておこう。特撮映画にテーマ曲はつきものだ。パシフィック・リムはテーマ曲も含めて、特撮のスタンダードになるだろう。




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原子怪獣現わる!(前篇)
原子怪獣現わる!(後篇)
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