恋こそ死に至る病 若きウェルテルの悩み | 不思議戦隊★キンザザ

恋こそ死に至る病 若きウェルテルの悩み

青年ウェルテルは裕福な家庭に生まれ、何不自由なく生活していた。金に余裕があれば、人生にも余裕が出来るってもんだ。馬車馬のように働かなくてもよいウェルテルは、美しい田舎道をぶらぶらと散歩し、気が向いたら画を描き、泉のほとりで休憩し、一杯飲み屋でホメロスを読むといった晴耕雨読な毎日を送っている。また、自分より貧乏な者たちに気前よく金を与えるが、これがエリート層にとっての唯一の義務である。いわゆるノブレス・オブリージュってやつだ。


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この優雅で呑気な生活に、ウェルテルは十分に満足していた。年下の少女、シャルロッテに出会うまでは。
ロッテを一目みた途端、ウェルテルの全身に稲妻が走り抜けた。恋に落ちてしまったのである。


ロッテは慈悲に満ち、優しく、控えめではあるけれどきちんとした教養もあり、機転のきく頭の良さを持った女性(まだ少女だけど)であった。

しかしロッテには婚約者がいた。だけど、そんな世俗的なこと、気にしたって仕方あるまい?ロッテの婚約者であるアルベルトも素晴らしい青年だし、ふたりの仲睦まじさは微笑ましいものだ。美しい精神と清らかな魂を持ったロッテに出会えたことこそ、ウェルテルにとっては最高の幸運なのだ。
ウェルテルは自分のお気に入りの場所、例えば泉のある広場、大木が大きな影をつくる教会の庭、美しい田舎道を、ロッテとふたりで散歩出来ることに、無上の喜びを感じていた。


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許されるのは手への接吻まで


これほどまでに魂が震えるほどの楽しさを感じたことが、果たして今まであったであろうか?
ロッテが自分に語りかけてくれる以上の幸福が、果たしてこの世に存在するだろうか?
ロッテは天使だ。いや、そんな安っぽい形容でロッテを語ることなんて出来ない。平凡な俺の、平凡な言葉などではとても語ることが出来ないくらい、彼女は素晴らしいひとなんだ。


ウェルテルの恋は加速してゆく。ウェルテルの理性は、徐々に崩壊してゆく。


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悩んでる悩んでる


ロッテを知らなかった頃の自分は、一体何を楽しみとして生きていたのだろうか?
美しい田舎道もロッテが隣にいないと、ただの田舎道に過ぎなくなってしまった。夕刻、ロッテと別れてひとり家路へ帰るときなんて、俺の胸は張り裂けんばかりだ。朝になるとなったで、ロッテに会えることにウキウキと心が弾む。だが、いつかは諦めなければならないと理解はしている。こう毎日毎日ロッテの傍にいると、きっと妙なウワサが立つだろうし、そうなったらロッテも困るだろう。

よく考えてみろよ、ロッテには婚約者がいるんだぜ?婚約者!!そうだ、ロッテはアルベルトのものなんだ!アルベルトより俺のほうが、絶対ロッテを愛してるのに、ロッテが俺のものになることは永遠に有り得ない。なんて残酷なのだろう!


ぼくだけがロッテをこんなにも切実に心から愛していて、ロッテ以外のものを何も識らず、理解せず、所有もしていないのに、どうしてぼく以外の人間がロッテを愛しうるか、愛する権利があるか、ぼくには時々これがのみこめなくなる。


ロッテを愛しすぎるあまり、ロッテの婚約者であるアルベルトを疎ましく思う。だがウェルテルは教養を持った青年だ。なけなしの理性を総動員させ、ロッテから遠く離れた地方への就職を決める。


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まだ悩んでる


公職に就いたはいいが、同僚のバカさ加減と上司の低俗な嫉妬に呆れ、すぐに嫌気がさし始める。いくら自分が高みを目指そうと思っても、周りがバカだと全部無駄だ。

俺はこんな場所で何をやってる?これが本当に俺が望んでいることか?毎日毎日上司の嫌味を聞いて、ただ俺のことが嫌いって感情だけで俺の仕事を否定しやがる。俺より階級が上だってだけで、低俗なバカのくせにデカイ面しやがって。あ~~ムカつくぜ!

(文章はこんなに下品じゃないけど、いつの時代もこんな風じゃない?)


公職を辞したウェルテルは、しばらく知り合いの公爵の屋敷で過ごす。だがウェルテルの心は満たされない。とうとう兵隊に志願しようとまで思いつめるが、公爵に止められる。

何をしても何を見ても誰と会っても、ウェルテルの心は満たされない。
ロッテを忘れない限り、心は満たさせることはないだろう。だけど、ロッテを忘れることが出来るか?出来るわけないじゃないか!
忘れることなんて出来ないし、ロッテを知らなかった頃には、もう戻れないんだ。


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思い出すのはロッテのことばかり


ひとり苦しんでいたウェルテルは、意を決してロッテのいる土地へ戻る。
ロッテとひとこと言葉を交わすだけでいい。彼女の愛らしい顔を眺めるだけでいい。彼女の傍にいられるだけでいいんだ。
ロッテを訪ねたとき、アルベルトは留守であった。ふたりは既に結婚し、一緒に暮らしていた。解っていたこととはいえ現実を目の当たりにしたウェルテルは、やはりショックであった。


次の日からまた、ウェルテルのロッテ詣でが始まった。毎日毎日、飽きもせずロッテのもとへ通うウェルテル。
一目だけでいい、ひとこと会話を交わすだけで良かったはずなのに、ロッテの傍にいればいるだけ、今まで以上に恋慕が募る。一緒にいるだけでいい、そう思っていたはずなのに、ロッテに対する渇きは日に日に募る。
どうすればいい?このままだと俺は、どうにかなってしまいそうだ。


ロッテが口を差し出すと、小鳥はとても可愛らしくロッテの美しい唇に接吻する。まるでその享ける幸福を感ずることが出来るように。・・(中略)・・ぼくは顔をそむけた。あんなことはしてもらいたくない。そんな、天使のような純真さと浄福の表現で僕の想像力を刺激してもらいたくない。


ある日、ウェルテルはひとりの狂人と出会う。狂人は、妄想上の姫様のために花を探しているところであった。しかし今は真冬である。花なぞ一輪も咲いていない。それでも狂人は姫様に花冠を捧げるため、寒空の下でありもしない花を嬉々として探しているのである。
「姫様は高価な宝石や金貨などより、俺の花冠を喜ぶんだ」と信じている狂人を、ウェルテルは羨ましく思う。


気の毒な男よ、しかしぼくはお前の憂鬱、お前の精神の狂気、お前がやつれてゆく狂気がうらやましくもあるんだ。お前は王女のために花を摘もうとして心楽しく出掛ける――冬のさなかに――そうして、見つからないと言って嘆いている。なぜ見つからないのか、お前にはわからない。・・・・・


しばらく経って、小さな田舎町に大事件が起こった。ひとりの男が、自分より階級の高い女を襲ったというのだ。男はあの時の狂人であった。結局未遂に終わったが、狂人はその場で射殺された。
この不吉な報を聞いたウェルテルは、狂人に同情する。恋の苦しさを知り、恋のために狂ってしまった哀れな男に同情したのだ。同時にロッテの残酷さにも、少なからず憎しみを抱く。

ロッテは俺が飲むことになるであろう毒を、微笑みながら調合している。俺にはそれが毒だと分かっている。しかし、ロッテがその毒杯を差し出したなら、俺は喜んでその毒を煽るだろう!


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もうどうにもならへん!


もう無理だ。もう駄目だ。ロッテが俺の手に入らないなら、ロッテの頸に接吻のひとつでも捧げることができないのなら、もう生きている意味なんてない。

ロッテだけが俺の生きがいなのに。俺はロッテのためだけに生きているのに!
それが許されないなら、俺の存在価値なんてこれっぽっちも残っちゃいない。


ウェルテルはピストルの銃口を自分に向け、引鉄を引いた。


-完-


1774年に刊行された本書は、瞬く間に大評判になった。恋に苦悩するウェルテルは若い青年たちの心を鷲掴みにし、ウェルテルを真似て自殺する者が続出。各国で翻訳され、あちこちでセンセーションを引き起こした。


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ゲーテさん


ウェルテルの激しい愛は、彼の自制心を失くし、理性を超越し、発狂寸前にまで迫る。常に感情的になり、冷静な論理的思考さえ出来なくなり、挙動不審な様子で支離滅裂な理論を展開する。
あれほど教養が高く理性的であったウェルテルが、なんという変わりよう!恋はいつだって残酷である。
そして最後には、カトリックでは固く禁じられている「自殺」という手段を選ぶ。
自殺した者は天国の門をくぐれない。自殺とは地獄への片道切符なのだ。告解の権利を永遠に失ってしまうため、地獄からの一発逆転を狙うことも出来ない。ウェルテルはそれを覚悟で、自らの死を決めたのだ。


・・・ぼくはどうしても――ああ、わかるだろう?それがぼくの魂の前に隔ての壁のように立っているのだ。――あの幸福――それを得さえしたなら身を滅ぼしてその罪は償ったっていい―――罪?


当時の欧州はカトリックを規範としており(現在でも根底はカトリック的なものだが)、文学においても例外ではなかった。魂の救済、理性、信仰が主な主題である。そんな世間にゲーテが投じた「若きウェルテルの悩み」。

ウェルテルは、ロッテとの魂の触れ合いや精神的な結びつきでは満足できず、肉体を伴った愛を欲する。つまり、性欲だ。これは性欲を赤裸々に描いた小説なのだ。だが、カトリック的にいうと性欲は罪だ。

ってことは恋=罪なのか?なぜだ?恋をすると欲望を持つのが当たり前じゃないか!熱烈に愛した誰かとともに愛し合いたいと考えることさえ罪なのか?そんなの間違っている!自然の摂理に反している!俺の考えが罪だというなら、それで結構!俺は罪人になっても構わない。ただし、俺の罪は誰にも裁けない。俺の罪は、俺自身で裁いてやる!

という、当時としては結構過激な小説だった。青年たちが熱狂するのも分かるってもんだ。


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ゲーテのミューズ


ちなみにゲーテの実体験がベースになっているそうだ。ゲーテが恋した相手の名は、シャルロッテであった。


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