妖婆!死棺の呪い!! | 不思議戦隊★キンザザ

妖婆!死棺の呪い!!

時は19世紀、ロシアではまだ革命の気配が微塵もなく、いまだヨーロッパの片田舎に甘んじていた古き良きフォークロアの時代である。
キエフの修道院では夏休みを目前とし、修道院の前庭に整列していた修道士たちは、院長の説教をそわそわしなから聞いていた。まるで小学生と校長先生のようであるが、修道士たちはヒゲを生やしたおっさんなのである。


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原作はゴーゴリ


まぁ、そんな事はどうでもよくて、どうやら夏休みは実家へ帰れるらしいのである。いくらおっさん修道士といえども、厳しい修道院から解放されることは嬉しいらしく、いい年をこいたおっさんどもが、院長の話の終わるのをウキウキしながら待っているのである。おっと、「厳しい修道院」と書いたが見たところ全く厳しそうではなく、むしろおっさんどもが天真爛漫ってな雰囲気であった。


で、校長先生の説教が終わると、おっさんどもが「わっ」ってな感じで、例えば萩尾望都の寄宿舎シーンみたいな、でも美少年でも吸血鬼でもなくおっさんなんだけど、まぁあれだ、同じ方角の者どもと一緒にワイワイと帰途につくのである。
しかしそこはおっさん、途中でおにゃにょこに手をだしたり、ナンバー・スクールの校歌みたいな歌を歌ったり、まことにフリーダムなのである。ところがフリーダムし過ぎて、帰る途中で日が暮れてしまった三人組がいた。帰る途中といっても徒歩なのであるから通常は宿場町の飲み屋に泊まりながらの帰途なのだろうが、この三人組は宿場町にさえ辿りつけていないのであった。


いくらのほほんとしているといっても、ロシアの片田舎である。山奥である。まだ野蛮な時代なのである。三人は野宿を覚悟する前に必死で灯りを探した。そして一軒のあばら屋を見つけ、戸を叩きながら叫びつづけた。迷惑至極である。あばら屋から婆さんが出てきた。三人が泊めて欲しい旨、婆さんに頼むと、婆さんは三人を別々の部屋へ案内した。この映画の主人公、ホマーが案内されたのは家畜小屋であった。煩い臭いといっても泊めてくれるだけありがたい。そう思って藁の上に横になった途端、婆さんが静かにやってきた。


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歳をとると性別を軽く超えるな


驚くホマー。そりゃ驚くわな。可愛いおにゃにょこならいざ知らず、夜這いの相手が婆さんなんて。
「いやいやいや。無理ッス!ぜってー無理ッス!」と断るホマーに、更に近寄る婆の影。「あわわわわ」と逃げるホマーだが、とうとう婆にガシッっと掴まれ、気が付いたらなんと空を飛んでいた!婆はなんと魔女だったのである!箒を肩に担いだ婆がホマーを股にはさんで飛ぶという、ちょっと我々の想像を絶する魔女スタイルである。


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箒って担ぐものなの?


ひとしきり空を飛んでやっと地上に降り立ったホマー、そのまま婆を惨殺。婆を惨殺したはずが、何故か死体はうら若き美女であった。


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あれ?かわい子ちゃんじゃねーか


悪夢のような夜から解放されたホマーは這々の体で修道院へ戻り、そのまま部屋へ引き篭もっていたが、ある日、院長に呼ばれる。なにやら遠い村の娘さんが「私への祈祷はキエフの修道院のホマーってひとにお願い」ってな、妙な遺言を残して死んでしまったという。そんで、遠い村からわざわざ村人がホマーを迎えにきたってワケである。だがホマーは娘さんとは全く面識もないし、そのうえホマーは神学生ではなく哲学科の学生なのである。それなのになぜ自分を名指ししたのか皆目分からない。「ちょ、俺、その女しらねーし、坊主でもねーし、無理っすよ。つか、なんで俺?」との疑問を抱えながら、迎えに来た村人の馬車に乗せられ、村まで連行されるのであった。


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ドナドナ中


貧しい村からやってきたのであろうか、馬車はオンボロであった。オンボロの馬車がロシアの田舎道を進む。この映画のタイトルが「妖婆 死棺の呪い」だとは思えないほどの長閑さである。
さて、途中の居酒屋に一晩泊まって(というか飲み明かして)やっとこさ辿りついた小さな村。亡くなったのは村長さんの娘さんらしい。


村長は「古い教会で3晩祈祷を捧げてくれ」とホマーに云いつける。そのかわり終わったら破格の褒美をやるってんで、ホマーは受け入れた。棺に入れられている美女は、実は自分が撲殺した婆かもしれない。ちょっとドキドキしながら教会に入るホマー。外から鍵がかけられる。


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ヤな予感


小さな村にお誂え向きの古い小さな教会、ど真ん中には棺が安置されている。中身はあの婆の化けた美女に違いない。ホマーはとりあえず書見台に聖書を置いた。で、まぁ、お約束の展開になるのだが、祈祷を初めてしばらくすると棺の蓋が開いた。ビビったホマーは、チョークで結界を描いた。

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あっ!目を覚ましたぞ!

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よっこらしょっと


棺から美女が起き上がる。ホマーを探しているようだ。無表情な顔でキョロキョロする美女。結界の中で縮こまり顔面蒼白のホマー。美女はとうとう棺から降り、ホマーを探して教会内を徘徊し始める。しかし結界に守られているホマーには気付かない!


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いい表情だ!

教会の隅で恐れおののくおっさんと、フラフラと徘徊する魔女!ホマーの恐怖心が最高潮に達しそうになった時、一番鶏が鳴いた!!途端に魔女は力を失ったと見えて、吸い込まれるように棺へ戻った。教会の鍵は開けられ、村人たちがホマーを外へ連れ出す。


昨晩の恐ろしい出来事で元気をなくしたホマーだが、辛うじて自尊心は残っていたのか村人に弱みは見せない。それどころか、村人の奏でる音楽でコサックダンスを踊りだすありさまだ。「俺はコサック人だ!」とかなんとかっつって、自分で自分を鼓舞するホマー。

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コサックダンスで現実逃避


どうやらコサックという民族は誇り高い民族で、何かあったらとりあえずコサックダンスする、という認識でいいのだろうか?ひとしきりコサックダンスを踊ったホマーだが「教会内で夜を明かす」という現実に戻り、げんなりするのだった。


昨晩と同じく、教会内に一人残され、仕方がないのでチョークで結界を張るホマー。だんだんと夜は更けてゆく・・・と、棺の蓋がバーーン!と開き、死んでるはずの魔女が起き上がる。

さあ、お待ちかね!今夜も真夜中のライヴショウが始まるぜ!主役はもちろん棺に入った死美人だ!
棺はゆらゆらと揺れ始め、なんと宙に舞い上がる!


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棺でサーフ状態


魔女を乗せた棺はふわりふわりと宙を漂っていたが、教会内を円を描くようにぐるぐると廻りながら段々スピードアップしてくるではないか!最後はまるで音速だ!なにこれ遠心力?遠心力が働いているの?と爆笑しそうになったが、そうだ、これはロシアンホラー映画だったと思い出し、辛うじて正気を保ったマダムであった。


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絶賛高速回転中!


古い教会内を所狭しと音速で飛び回る棺、結界内で腰を抜かし恐れおののくヒゲを生やしたコサックのおっさん。ここは一番の見所である。が、今日も一番鶏の鋭い鳴き声でショウは幕を閉じた。


さて。鍵を開けて教会に入って来た村人は、倒れているホマーを発見。とりあえず外へ連れ出す。明るい戸外へ出てみんなあっ!と驚いた!なんとホマーの髪が、一晩で白髪になっていたのだった!


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俺、ヤバいかも


正気に戻ったホマーはこのままではヤバイと考え、村長に直訴する。「もう無理っす、あいつ魔女っすよ、俺、降りるっす」しかし村長は聞き入れない。

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やっぱ無理っす・・・

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だが、断る!


いやだっつってんだから、やめさせりゃいいのに、あれか?村長も魔女の仲間か?と疑うが、別にそういうワケでもないらしい。直訴でダメだしを喰らい、悩みに悩んでとうとう村から脱走を図る。が、村人に見つかり連れ戻されてしまう。村人が魔女の仲間か?と思ったが、別にそういったワケでもないらしい。


そんなこんなで3晩目。これを乗り切れば破格の褒美が貰えるんだ!しかし余りの恐ろしさにすっかりやる気の失せたホマー。げっそりしながらも結界を張る。そしてやっぱり魔女は真夜中に目を覚ます。よし、期待通りだ!しかし今夜は昨日までとは一味違うぜ!魔女が仲間を呼んだのだ!


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一体どんな怪物が・・・?


魔女の呼び声に答え、壁から天井からドアからわらわらと飛び出てくる愛らしい怪物たち!
その中でひときわ図体のデカイ一匹がいる。こいつこそ真のラスボス、悪魔ヴィーであった!!


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真ん中の微妙なヤツです・・・・


悪魔ヴィーはロシアの伝説に出てくる最強の悪魔らしく、何もかも見通せる悪魔の目から逃れることは出来ないという。ヴィーはホマーを指さして言った。「ここだ!ここにいるぞ!」・・・・。それが合図となり、怪物たちはホマーを襲った。


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討ち死


翌朝。村人たちは教会内でこと切れているホマーと、若い娘の代わりに老婆が棺に横たわっているのを発見したのだった。


-完-


日本語タイトルは「妖婆 死棺の呪い」であるが、原題は「悪魔ヴィー」である。日本語タイトルで妄想を膨らませ観賞すると、必殺肩すかしを喰らうことは必須だ。

原題の「悪魔ヴィー」は、最後に出てくるもったりした妖怪である。ロシアの小説家、ゴーゴリの「ヴィイ」が原作にあたる。


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瞼がすごいことになっている魔物です


ゴーゴリのヴィイはウクライナの民間伝承の妖怪で「地中に住む老人」、すなわちノーム、あるいはドワーフの類であろうと思われる。マダムもゴーゴリの短編集を持っているので読み返そうと思ったが、探しても見つからなかったので、このあたりでお茶を濁そうと思う。


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ゴーゴリさん


さて「妖婆 死棺の呪い」は、1967年のロシア映画である。魔女に連れられ空を飛ぶ合成シーンは、当時の特撮の苦心の跡といったところか。また、三人組が日の暮れかけた山奥で明かりを探すシーンは、背景がまんま書割で、まるで舞台を見ているかのような微笑ましさである。

この映画の見どころは、やはり空飛ぶ棺と、最後の怪物大集合であろう。怪物たちはそれぞれ恐ろしげな着ぐるみなのだが、制作側の限界が怪物の造形に見て取れて、愛おしいのである。


昔のロシア映画にハマる人の気持ちが理解できる映画であった。