5月18日に、昨年度の経済成長率が発表になるのに先立ち、GDP統計(国内総生産)というものについて復習しておきましょう。

経済統計は多数ありますが、それぞれ経済の一側面を捉えたものです。そうした中でGDP統計は、それらの統計を総合的に利用して、日本経済を全体として捉えた統計です。

GDP統計は、3つの作り方があります 。いずれも(統計上の誤差がなければ)同じ結果となります。第一は、生産者に「どれだけ作ったか」を聞いて合計する方法です。ここで「作った」とは売値から仕入値を引いた値で、「付加価値」と呼ばれるものです。財のみならずサービスも含まれます。

たとえば自動車の部品会社が30万円の部品を作り、自動車会社がそれを仕入れて100万円の自動車を作り、自動車販売会社がそれを仕入れて120万円で売ったとします。その場合には、部品会社の30万円と自動車会社の70万円(100万円マイナス30万円)と販売会社の20万円(120万円マイナス100万円)の合計である120万円がGDPだということになるのです。

第二の作り方は、買い手に聞いて合計する方法です。120万円の自動車が生産されて売られたということは、消費者に聞けば「120万円の自動車を買った」という回答が得られるはずなので、両者の合計は一致するはずなのです。

第三の作り方は、勤労者に給料を、企業に利益を聞いて合計する方法です。企業の付加価値(売上げマイナス仕入)から賃金を差し引いたものが利益ですから、給料と利益の合計をすればGDPが求まるのです。

第二の作り方として、買い手に聞いて合計すると記しましたが、買い手は多様です。同じ自動車でも消費者が買えば個人消費となり、企業が業務用に買えば設備投資になり、外国人が買えば日本の輸出になります。もっとも、単純にこれらの合計をGDPとする事はできません。輸入車を買った人がいると、日本国内で生産された自動車よりも大きな数字が得られてしまうからです。そこで、買い手の回答を合計した値から、輸入された分を差し引く事でGDPが得られるのです。

GDPの3通りの作り方の中で、これが最も注目されています。理由の一つは最初に発表されるからですが、更に重要なのは、「買い手がいるから作られる」ということです。農業国であれば、「とにかく生産して、余ったら翌年食べる」という事ですから、生産能力や農家の働き具合などが重要ですが、自動車等の場合には生産能力よりも需要動向の方が遥かに重要だからです。

景気を予想する際には、GDP成長率を予想するのですが、その際には「給料が上がるから個人消費は増えそう」「円安だから輸出が増えそう」といった方法が採られるのが一般的です。

GDP統計は、日本経済の規模を表す統計です。当然ながら各国に同様の統計があるので、各国の経済規模の比較などを行なうことが出来ます。その際、日本のGDPを為替レートを用いてドル建てに換算するため、為替レートが変動すると各国のGDPの順位が変動する事もあり得ます。たとえば日本の場合にはGDPが米国と中国に続く世界第三位ですが、円安が進むと四位のドイツ、五位の英国などに抜かれる可能性もあるわけです。

GDP統計を用いた国際比較の今ひとつは、財政赤字等のGDP比です。「日本の財政赤字は韓国より大きい」と言われても、そもそも経済規模が日本の方が遥かに大きいのですから、財政赤字の一国経済に対する重さはわかりません。そこで、財政赤字額をGDPで割った値を比べることによって、日本経済にとっての財政赤字の重さと韓国経済にとっての財政赤字の重さを比べる事ができるのです。もちろん、財政赤字のみならず、貿易赤字等々の比較についても同様です。

外国と比べるのではなく、過去の日本のGDPと比べることも重要です。前年に比べてGDPがどれだけ増加したかという増加率を「経済成長率」と呼びます。経済成長率には二通りあり、単純に前年のGDPで割った値を「名目経済成長率」、名目経済成長率からインフレ率を差し引いた値を「実質経済成長率」と呼びます。単に「経済成長率」という場合、実質経済成長率のことを意味する場合が多いようです 。

P.S.
本稿は、TIWへの寄稿文(http://www.tiw.jp/investment/analyst_column/gdp/)を加筆修正したものです。


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