映画インタビュー:「眉山-びざん-」主演 宮本信子さんに聞く 「私の節目となる作品になりました」

「眉山-びざん-」の撮影を振り返って語る宮本信子さん 故・伊丹十三監督の妻で伊丹さんの全作品の主演女優として活躍した宮本信子さんが昨年、さだまさしさん原作の映画「眉山-びざん-」(犬童一心監督)で10年ぶりに映画界にカムバックした。作品が5月4日、CSの日本映画専門チャンネルで放送されるのを機に、出演を決めた際の「新人のようにまっさらな気持ちで映画と付き合いたいと思った」との心境や、死と向き合いながら母娘の葛藤(かっとう)を描いた作品への思い、撮影エピソードなどを聞いた。【インタビュー・文・撮影 細田尚子】

 宮本さんは、84年の「お葬式」からスタートした一連の伊丹十三監督作品の主演女優としてさまざまな役柄を演じ分け、演技派としての印象を映画界に強烈に刻印した女優だ。「眉山-びざん-」で10年ぶりに映画に復帰したが、今回、どんな気持ちで臨んだのだろうか。

 「映画に対して新人のつもりでいようと思いました。過去に伊丹組で13年間に10本の作品に出演しましたけれど、自分が培ってきたもの、それはいったん置いておいて、まっさらな気持ちで映画と付き合いたいと、強くそう思いました」という。宮本さんの元には、10年間に多くの出演依頼が舞い込んでいたはずだ。この作品に出演する決め手は何だったのだろう。

 「だってこんないい役、滅多にありません。そう言ってもいいほど(龍子役は)絶対に演じたいと思ったのです。本当に出演したいものにしか出ない、そういうスタンスで仕事をしていますが、その中でも映画は特別。この役で、しかも舞台は私の本家のある徳島(宮本さんの父は徳島出身)で、(その奇遇に)びっくりしました。親せきは『(御先祖様に)呼ばれたんだよ』と言ってましたけど、そういうプライベートな部分でも感無量のところがありましたね。私の節目になる作品だなって、そういうのは後で振り返って言うことなんでしょうけど、現在既にそう思っています」と、自分と龍子を重ねる。


「眉山-びざん-」の1場面。(C)2007「眉山」製作委員会 撮影は06年8月、徳島で行われた。スケジュールの関係でクライマックスの「阿波踊り」のシーンから始まったという。犬童一心監督作品には初めて出演したが、監督の印象は?

 「怖い方だと嫌だわと思ったんですけど、そうじゃないとうかがっていたので、それは良かったんです(笑い)。ものの見方が優しい、愛情がある監督だなと最初からそう思いました。阿波踊りのクライマックスシーンは、監督の(演出の)刻み具合が本当に素晴らしいと感じました」と絶賛する。

 龍子のキャラクターは、江戸弁をしゃべるキップのいい女性。演じる上で気をつけたことは?

 「(原作を読んだ時に)龍子はたぶん父親に反発しながらも父のまねをしているんだと思いました。そういう背景を自分の中に収めて、自然と(動作や言葉に)出てくるように演じました。啖呵(たんか)を切ったり、肩で風を切って歩いたり、自然にそういうのが出てくるようになったらしめたもの。それが(演技をしていて)楽しく面白いんです。誰も知らない土地で子どもを産んで、(地元では)すごく反発を買ったと思うんですね。それが『大した女だね』と言われるようにまでなった。そのあたりを納得させる強さと優しさを龍子は持っていたと思います」と、“神田のお龍”こと龍子の人物像を解きほぐしてみせた。

 物語の主軸は、娘(松嶋菜々子さんが演じる咲子)が母を超える部分。その心の動きは「互いに反発し合っていた母娘が、(末期がんに冒された)母の弱さをどんどん見ていき、娘が母を乗り越えていく。乗り越えた瞬間に『あ、良かったよ』って、そういうのが素敵だと思います。お互いの歩み寄りがあって、(大沢たかおさんが演じる寺澤医師に対しても)愛する娘を託さなきゃいけないと、ふと素顔を見せる。その辺は、さださん、うまいですね。見る方がホッとする場面だと思います。(クライマックスシーンの最後に龍子が言う)『もう…十分楽しかった…ありがとう』というセリフは、すごく重みのある好きな言葉です」と繊細に演じたという。


「眉山-びざん-」の1場面。(C)2007「眉山」製作委員会 夫の伊丹十三さんの作品については「誰が見てもわかるエンターテインメント作品、しかもその裏には日本人論、普遍的な日本という社会を照らし出している。例えば『スーパーの女』(96年)にしても現在と12年前とあまり変わっていないと思います。日本映画が一番元気がなかった時にバーンって出てきて、毎年作って。出演していたのに、改めて見て笑っちゃうんです(笑い)。楽しくいい映画、面白い。伊丹映画って古くならないと思います」と語った。

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 昨年5月、伊丹さんが少年時代を過ごした愛媛県松山市に「伊丹十三記念館」を開館。今年2月末までに4万人が訪れたという。今回の「眉山-びざん-」の放送に合わせ、伊丹さんが生前、参加していた番組プロダクション「テレビマンユニオン」が制作した2時間のドキュメンタリー番組「13の顔を持つ男-伊丹十三の軌跡-」も放送されることになった。

 <宮本信子(みやもと・のぶこ)さんのプロフィル>

 1945年3月27日、北海道生まれ。63年に文学座付属演劇研究所に入所。翌64年に「三日月の影」で初舞台を踏む。67年、大島渚監督の「日本春歌考」で映画デビュー。84年の映画「お葬式」を皮切りに、「タンポポ」(86年)、「マルサの女」(87年)、「あげまん」(90年)、「スーパーの女」(96年)など一連の伊丹十三監督作品でさまざまなキャラクターを演じ、好評を博す。97年以降、映画から離れていたが、舞台やテレビドラマに出演。最近はジャズシンガーとして年に数回のライブを開くなど活躍の場を広げている。「眉山-びざん-」(07年)で「マルタイの女」(97年)以来10年ぶりに映画に出演した。


「眉山-びざん-」の1場面。(C)2007「眉山」製作委員会 ◇「眉山-びざん-」放送日程
5月4日(日)午後10時~

日本映画専門チャンネル ケーブルテレビ/スカパー!(Ch.707)/e2byスカパー!(Ch.239)

原作:さだまさし、監督:犬童一心、脚本:山室有紀子

出演:松嶋菜々子、大沢たかお、宮本信子、円城寺あや、他

2007年/映画・カラー/122分

*……「日曜邦画劇場」で放送。本編放送前後に、解説の軽部真一フジテレビアナウンサーと宮本さんの対談をお届けするほか、宮本さんの独占インタビュー「10年ぶりの映画出演。そこに秘められた想い。」も放送。また、伊丹十三さんの全容に迫るオリジナル番組「13の顔を持つ男-伊丹十三の軌跡-」(5月5日午前1時~)も併せて放送。宮本さんが公私共に最高のパートナーであった伊丹十三さんについて語る貴重なインタビューが楽しめる。

*……ヘアメイク:光倉カオル(be-glee)/スタイリング:石田純子(オフィス・ドゥーエ)/ロングジャケット、インナー:ユキトリヰインターナショナル(トリヰ)/ネックレス、イヤリング、リング:ジェムフローレス

【関連リンク】
「眉山-びざん-」公式サイト
http://bizan-movie.jp/


毎日より