畠山鈴香被告に無期判決…「衝動的で計画性が認められない」

 秋田県藤里町の連続児童殺害事件で、殺人と死体遺棄罪に問われた畠山鈴香被告(35)=写真=に、秋田地裁は19日、無期懲役(求刑死刑)の判決を言い渡した。予想された極刑を「衝動的な犯行」などと回避した“サプライズ”判断に、法廷内は一時騒然。被害児童の遺族は泣き崩れた。被告は閉廷直前にいきなり傍聴席の遺族に向け土下座して謝罪する一方、即日控訴した。



 逮捕から655日目。わが子を含めた幼い2児を殺害した鈴香被告に対する注目の判決。冒頭で藤井俊郎裁判長が「被告人を無期懲役に処する」と言い渡した。

 報道陣が速報を伝えるべく一斉に法廷を飛び出す。殺害された米山豪憲君=当時(7)=の母、真智子さん(41)は傍聴席でハンカチで顔を覆って号泣。父の勝弘さん(41)は顔を紅潮させ厳しい表情に。だが被告だけは無表情のままだった。

 争点だった長女の彩香ちゃん=当時(9)=に対する殺意や、豪憲君殺害時の責任能力は認定。裁判長は「極めて身勝手で短絡的」「非道極まりない」と厳しい言葉を投げつけ、「死刑も十分考えられる」とも。

 しかし「衝動的で計画性が認められないことなどを考えると極刑はちゅうちょせざるを得ない」。その他に、母子家庭の不安など被告を責められない事情で精神の安定を欠く状況があった▽豪憲君殺害時に彩香ちゃん殺害を明確に認識しておらず、記憶を保ちつつ連続殺人をした場合より悪質性は減じる▽彩香ちゃん殺害は比類なき残虐性があるとは断じられない-などと「極刑回避」の理由を列挙した。

 白のブラウスに黒いジャケット、ズボン姿の被告。判決中はほぼ無表情だったが、断罪の言葉が続くと目元や鼻をしきりにぬぐい、落ち着きを失った様子も。裁判長から「全生涯かけて贖罪(しょくざい)を」と諭されると、消え入りそうな声で「はい」と答えた。

 「判決は以上です」という裁判長に、被告は突然「1ついいですか?」。そして「米山さんに謝罪してないので」と驚きの行動に出た。

 傍聴席にいた豪憲君の両親の方を向き、スリッパを脱ぐと土下座。「大事なお子さんを奪ってしまい申し訳ありませんでした…」。涙ながらに額を床につけ謝罪した。その間約20秒。真智子さんは目をつぶり顔を背けて無視。勝弘さんもぼう然と座ったまま視線を向けることはなかった。

 被告は昨年10月の公判で「極刑にして」と述べていたが、有期刑(最長30年)を求めた弁護側は即日控訴した。検察側も控訴する方針だ。


★日記には「豪憲君には罪悪感がない」

 判決公判で土下座謝罪した鈴香被告だが、公判中の昨秋に記していた日記には「豪憲君には罪悪感が彩香に比べてほとんどない」「ご両親にしても、何でそんなに怒っているのか分からない。まだ2人も子供がいるじゃない」などとも記していた。

 「死刑を願っています」とつづる一方で「母と弟が待っていてくれる」と“生”を願う記述も。公判を毎回傍聴した被告の母親と弟はこの日も傍聴席に。被告の退廷時に母親が近くまで駆け寄る一幕もみられた。


■秋田の連続児童殺害事件
 秋田県藤里町の藤里小4年、畠山彩香ちゃん=当時(9)=が平成18年4月9日に行方不明となり、翌10日に自宅近くの川で水死体で見つかった。5月17日には2軒隣の同小1年、米山豪憲君=当時(7)=が失跡、翌18日、自宅から約8キロ南の川岸で絞殺体で発見された。県警は6月、彩香ちゃんの母親、鈴香被告を豪憲君の遺体を遺棄した容疑、次いで殺害容疑で逮捕。彩香ちゃんを橋から突き落として殺害したとして7月に再逮捕した。県警は当初彩香ちゃん死亡を「誤って川に落ちたとみられる」と発表、捜査批判が相次いだ。



◆渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)
 「被告の心の内側を注視して死刑を回避したのは、市民の良識としては分かりにくく疑問だ。将来、同種事件が起きたとき、市民が裁判員として真相解明や量刑判断に取り組めば、市民感覚が判決に反映され、社会のモラルの回復にも役立つだろう」



◆ノンフィクション作家、吉岡忍さん
 「全体として犯行に至る過程と犯行時の心理状況を重視した判決で、結果の重大性に基づいた厳罰判決が出る現在の傾向に対し、ある種の問題提起をしている。死刑が求刑されているほかの事件にも影響を与えるかもしれない。ただし、この判決では犯行の背景にあるとされる被告の性格形成の過程がよく分からない」