60th Eビジネス研究会(2005.10.21開催)のレポートをお届けします。


『ネット時代の新星、ドリコムの新規事業立案と事業展開の実際』
~次々と生まれる新規事業の実例を解析する、

                ブログ・検索エンジン・RSSネット広告~
株式会社ドリコム 代表取締役 内藤 裕紀 氏

セミナー詳細 http://www.e-labo.net/seminar60.html


60回目の今回は、株式会社ドリコム代表取締役の内藤裕紀氏を迎えて、
ドリコムの新規事業立案と事業展開、そしてRSSを使った今後のビジネス
についてお話いただきました。


  ■ドリコムの誕生と急成長


 ドリコムは2001年11月、当時まだ大学3年生だった内藤氏によって設立
されました。第一期の決算では、売上が4万円、経常利益がマイナス531万
円からスタートし、2003年4月に売上が約7,000万円に達した頃から、よう
やく会社らしい姿になったといいます。 その後、業績は順調に推移し、
今では「ネット界の新星」といわれるまで急成長を果たしたわけですが、
そのきっかけとなったのは、2003年に参入したブログ事業でした。同年8
月には、日本初のブログポータルサイト「Myblog.jp」をオープン、10月
には日本初のブログコンテスト「Blog of the Yeah!2003」を開催、12月
にはRSSリーダーの機能とブログ更新サービスをリリースし、一躍日本の
ブログ界の主役となったのです。


 さらに2004年に入ってからは、一層サービスの充実が図られました。3
月には、日本初のソーシャルブックマークサービス「Myclip」をオープン
し、月間約2億ページを提供。6月には、はじめて他社へのブログシステム
提供も始めました。提供先はGMOをはじめ、オリコン、GDO、Goo-netなど
現在13社に及び、サービス開始からわずか2年あまりで約55万人(ドリコ
ムブログを含む)の会員数を獲得したのです。この数字は、日本のブログ
ベンダーの中では、もちろんトップの実績です。


  ■ある教授との運命的な出会い


 このように、ブログ事業の拡大を図る一方、2003年、内藤氏にある運命
的な出会いがありました。それは、立命館大学の教授との出会いだったそ
うです。その教授は、アマゾンドットコムのようなレコメンデーション処
理の技術を保有しており、文部科学省に助成金の申請をするにあたり、内
藤氏に協力を求めました。結果、3年間で1億3,000万円の助成金を受ける
ことができ、さらなる事業拡大が可能になったのです。


 その後、ドリコムはこのレコメンデーション技術を使って検索事業に参
入。2004年4月には、日本初のニュース検索サイト「News&BlogSearch」を
オープンしました。さらに、同年はインターネット広告事業にも参入し、
サイバーエージェント社と共同で、グーグルアドセンスに近い形のコンテ
ンツ連動型広告サービス「BlogClick」をリリースしました。これは、
グーグルとは対照的に個人メディアに特化したサービスです。


  ■利益を生む仕組みをどう作るか


 では、ドリコムの新規事業立案における中心人物である内藤氏は、日頃
どのような視点でEビジネスを捉え、事業の立案を行っているのでしょう
か。その原点は、内藤氏が初めてブログというものに出会った大学時代に
まで遡ります。


 当時、インターネット系の雑誌「Yahoo Japan」で、アメリカのブログ
事情を知った内藤氏は、直感的に日本でも必ずブログが流行る日が来ると
確信したといいます。そこで、この新市場に参入するにあたり手本とした
のは、中学時代に英語の教科書で勉強した「リーバイストラウス」の思想
でした。


 19世紀のアメリカでゴールドラッシュの話を聞いたリーバイストラウス
は、人と同じように金鉱へ金を掘りに行くのではなく、小さな衣料品店を
開き、金を掘る人のための作業着を作って大成功を果たしました。これが、
いわゆるジーンズのはじまりです。


 つまり、内藤氏はブログが流行ることは確信していたものの、自社の現
状では、将来的に予想される会員数争いの体力ビジネスには到底太刀打ち
できないと感じ、戦略として、まずは各ポータルサイト向けにブログのOE
M用パッケージを作ろうと考えました。 さらに、この時点でこれからのブ
ログ事業の戦略と特徴を、以下のようなステージ別にまとめたといいます。


 ・第1フェーズ……市場が初期の段階では、競合優位性が分からない 
  状態であるため、企画力とスピードで勝負する(R&D期間、BtoCに向
  けたサービス、製品化に向けた調査、ノウハウの獲得、自社の認知度
  アップ)。


 ・第2フェーズ……製品化フェーズ(リーバイスでいうところの製品力
  と提案力の追求)。ブログでビジネスをしたい会社に、サービスを提
  供する期間。BtoBへの製品化、システム導入中心、製品力と提案力で
  競合優位性を獲得。


  ■ブログサービスを定番化するために


 しかし、この事業戦略は、いわば今後のブログブームを前提に考えたも
のであり、内藤氏自身もブームは3年持たないだろうと予想していました。
そのため、ジーンズが金を掘る人のための作業着から若者のファッション
(文化)になったことで世界的に大ブレークしたように、ブログについて
も、それを「定番化」することが必要だと考えたのです。これが第3フ
ェーズです。


 あるビジネスが「定番化」するためには、次の二つの要素が必要だとい
います。一つは「既存のサービスにそのサービスが置き換わること」、そ
してもう一つは「消費者に新しい利用習慣が根付くこと」です。ブログに
ついて考えてみると、それに置き換えられるものは何かと考えたとき、企
業のホームページではないかという結論に至りました。


 そして、出来上がった戦略(第3フェーズ)は、製品の拡販フェーズと
して、提携による拡販、安価、簡易なサービスの提供、ASPをメインとし
たストック型ビジネスへの進化により、高い利益とNo.1のシェアを獲得す
るというものでした。また、第3フェーズでは、競合優位性の中に「価格
力」が入ってきたことも特徴で、これは主なターゲットとして考えていた
中小企業に対するマーケティング戦略といえます。こうした一連の戦略は、
現在のドリコムのBtoBビジネスにおけるフレームワークにもつながってい
ます。


 ■トラフィックを生むサービスを重視


 インターネットビジネスにおける事業立案について、内藤氏がモットー
とするのは「大事なことは走りながら考えないこと」だといいます。イン
ターネットバブルの頃、会社の事業戦略は「走りながら考えるもの」と答
える経営者が多かった記憶があると思いますが、全く逆の発想といえます。


 ドリコムでは、先の事業戦略について、2年前からその方針を変えるこ
となく、社員全員が目標意識を集中しています。また、こうすることによ
って、社員は現状を把握しながら先を見据えることができ、創造性も働き
やすくなるといいます。


 動きの速いIT業界では、一般的に2年後、3年後を見据えるのが適当だ
といわれます。例えば、ドリコムではCMSなどの新しいサービスにおい
て、今求められているのは価格力ではなく、顧客を持ってくる力、すなわ
ち「トラフィック力」が重要だと考えています。なぜなら、それが他社に
対する競合優位性を最も発揮するものだからです。しかし、トラフィック
を上げることには当然限界があり、それを解消するためには、他のメディ
アからトラフィックを誘導してくる仕組みが、BtoCのサービスでは必ず必
要なのです。


 その典型的な例がグーグルです。グーグルアドワーズとアドセンスは、
いずれも他社媒体に広告表示をすることによってトラフフィックを誘導し、
売上に結び付けることに成功しています。


  ■RSSによる今後のビジネス展開


 最後にドリコムのRSS事業に関連して、今後、RSSビジネスを成功させる
ためのヒントを内藤氏にお話いただきました。はじめに、RSSとは、簡単
にいうとブログなどを中心としたサイトの更新をルール化している技術の
ことです。RSSを使ってどういうビジネスができるかというと、例えば、
今まで メーカーで商品を購入していた人に会員登録をしてもらい、商品
のバージョンアップ情報を送ったり、メールマガジンを送ったりすること
が、RSSリーダーに登録してもらうだけでできるわけです。


 内藤氏は、RSSを使った、BtoCのビジネスモデルを考える上では、全く
新たなものを考えるよりも、典型的な広告ビジネス、ECビジネス、ユー
ザー課金の中に当てはめていく方が考えやすいといいます。中でもカギと
なるのは、RSSをブログのようなメディアと連携させることによって、相
乗効果を高めることです。


 新規事業の立案をする上では、ある程度いろいろなことにアンテナを張
り巡らした上で、「これはビジネスになるのか」と考えることが非常に重
要で、内藤氏は一日に何回かは、こうした時間を作っているといいます。

2005.10.21