今回の報道があり、大変驚いている部分はたくさんあるのですが、いくつかバラバラに記事にしていきたいと思います。

まず、気になったのが読売新聞にあったこのコメントです。

インターネット・ホットラインセンターの吉川誠司・副センター長は「子供の利用するサイトとして交流サイトがEMAの認定を受けるのには疑問を感じる。このまま次々と認定サイトが増えればフィルタリングが実質的に機能しなくなるかもしれない」と懸念を示した。


ちょっと待ってください。インターネット・ホットラインセンターは民間のサイバーパトロール団体ではありません。警察庁の総務に事務局を置き、総合セキュリティ対策会議を通じて設置が決められた、100%警察業務の委託のみで経営が成り立っている組織です。

このことは総合セキュリティ対策会議の議事録を見れば明らかです。外部からどの程度出資を受けるか、民間としての永続性に留意していくかなど、明らかに警察庁からアウトソースするという視点で設置が決められた団体なのです。しかも運営上、警察のインターネット通報を独占的に受け持っており(パトロール業務を行う民間企業はたくさんあるのになぜか随意契約)、一方で民間事業者に関する受付などは一切受託していません。いわば警察庁の「子会社」なのです。

公権力の中心たる警察そのものと言える団体のNo.2が、民間のサイトの表現方針についてコメントすることは不適切としか言いようがありません。


しかも、「交流サイトがEMAの認定を受けるのには疑問を感じる」として、EMAの機能を全否定しています。


EMAへの見解は置いておくとして、公の場でここまで踏み込んだ発言をするネット関係者を見たことがありません(むしろEMAの審査が非常に厳しいという評価が圧倒的だと思います)。にも関わらず、業務の中立性について極めて慎重な立場を要する団体の有力者が、ここまで踏み込んで発言をするというのは異常としか言いようが無いです。組織の中立性に強い疑問を与えることになるのではないでしょうか。


インターネット・ホットラインセンターは、通報を受け付けて分類を行い、警察として対応が必要なものを振り分けるだけの組織です。コミュニケーションサイトについて知見を有する団体でもないですし、対象となるサイトに指導を行う権限も当然ありません。自分の権限外のことについて、組織の中立性にミソを付けてまでこのような発言をするのですから、吉川副センター長という人は、よほど自己顕示欲が強いのか、警察庁からのコントロールが効いているのかどちらかなのでしょう。

そしてよく読むと、「子どもの利用するサイトとして」「EMAの認定を受けるのには」「疑問」となっています。子どもが利用しないサイトであれば、EMAの認定を受ける必要性はありません。「子どもの利用しないサイトとして」認定を受けることはありえないのです。つまり前文は全く無駄な修飾節になるので、つまるところ彼が言いたいのは、いかなる事情のあるサイトであれ、コミュニケーションサイトがEMAの認定を受けるのは疑問という意味になります。

つまり、警察の削除要請という客観的事実からEMAの認定制度設計が疑問だと言うのではなく、「審査を受けることが自体が疑問」という踏み込み過ぎ、かつ、的外れなコメント(制度の不備ではなく、運営者の主観にコメントしている)になっているのです。そんなものを、あえて掲載することに記者の恣意を感じざるを得ません。

恐らく読売新聞の記者が、今回の記事を書くに当たって、有力サイトのことのみならずEMAと絡めた主観的論説を展開したかったのでしょう。だからこそのこの発言は打ってつけなのでしょう。ただ、副センター長発言はEMAが機能していないということを前提にして結論が成り立っているわけですが、EMAは表現そのものに基準を定める機関ではありません。あくまで運営体制をチェックする機関です。一方で警察の解釈に従えば、女性向けマーケティングのように、性差に着目したSNSでさえ、「出会い系サイト」に当てはまることになります。警察の考える表現基準は非常に広範であるにも関わらず、それを当たり前のように前提とし、そのような表現をカバーせずに認定を出したEMAが機能していないとする見解は、ロジカルに見ると非常に無理のある取り上げ方と言わざるを得ません。

また、通常の報道の仕方として、有識者からの賛論と反論を並べるのが通例ですが、警察のしたことについて、警察の「子会社」の有力者がコメントするのは賛論の取り上げ方として不適切です。このようなことをチェックできないデスクの能力にも疑問を感じます。


今回の件を通じて、インターネット・ホットラインセンターという組織のあり方が、色々と怖くなりました。恐らく警察としての姿勢を示唆したかったのでしょう。しかし、通報受付団体が警察のスポークスマンを務めるなんて前代未聞の事態です。そしてそんな危険な警察の姿勢に、表現の自由の最前線に立つ報道機関が、特ダネ欲しさに便乗するというのも異常としか言いようがありません。背筋の凍るようなニュースだと感じています。



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