改正出会い系サイト規制法について、自主的な勉強会をきっかけにエントリーとしてまとめていたものがありました。ただあまり対外的にお見せするのも勿体無いかなと思い、ある時期から公表を差し控えていました。

しかし、mixiやモバゲータウンに対して、警察からの削除要請があったというニュースがあり、非常に強いショックを受けております。私自身は警察のターゲットになるような立場にはいませんが、このようなことが起きたことは、日本のインターネット全体における危機だと思います。なぜなら、巨大サイト運営企業に対してだけでなく、中小サイト、2ちゃんねるのような個人運営サイトはもちろん、個人の表現の場に対しても警察からの「指導」という言論統制がまかり通ることになることを意味するからです。

今回のエントリーによって、「出会いにつながる悪いサイトがあるから」という極めて安直な印象論を理由に、過剰な規制を肯定するような風潮に警鐘を鳴らす、一つのナレッジとして機能したいと考えています。

以下、自分が昨年秋に書いた内容です。

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出会いを誘う書き込みへの社外モニタリング機関として、EMA(モバイルコンテンツ審査・運用監視 機構)が機能しはじめていますが、今後は出会い系サイト規制法の改正により、警察が中心的な役割を占めるのかもしれません。

先日、パブリックコメントを募集していた、インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律(出会い系サイト規制法)における「「インターネット異性紹介事業」の定義に関するガイドライン案」及び「インターネット異性紹介事業者の閲覧防止措置義務(いわゆる削除義務)に関するガイドライン案」について、警察庁による結果と修正が発表されました。


結果はほとんど変わらずで、警察庁の示すガイドラインに基づいて運用がなされることになります。

しかしこの定義ガイドラインの示す範囲がなかなか強烈であり、日本のネット界に大きな影響を与える内容となっています。


「インターネット異性紹介事業」とは?

出会い系サイト規制法上の定義
異性交際(面識のない異性との交際をいう。以下同じ。)を希望する者(以下「異性交際希望者」という。)の求めに応じ、その異性交際に関する情報をインターネットを利用して公衆が閲覧することができる状態に置いてこれに伝達し、かつ、当該情報の伝達を受けた異性交際希望者が電子メールその他の電気通信を利用して当該情報に係る異性交際希望者と相互に連絡することができるようにする役務を提供する事業

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ガイドラインでの解説
これを言い換えると、「インターネット異性紹介事業」とは、次の①~④のすべての要件を満たすものということになります。

① 面識のない異性との交際を希望する者(異性交際希望者)の求めに応じて、その者の異性交際に関する情報をインターネット上の電子掲示板に掲載するサービスを提供していること。

② 異性交際希望者の異性交際に関する情報を公衆が閲覧できるサービスであること。

③ インターネット上の電子掲示板に掲載された情報を閲覧した異性交際希望者が、その情報を掲載した異性交際希望者と電子メール等を利用して相互に連絡することができるようにするサービスであること。

④ 有償、無償を問わず、これらのサービスを反復継続して提供していること。


ここで一番重要なのは①の定義です。
① 面識のない異性との交際を希望する者(異性交際希望者)の求めに応じて、その者の異性交際に関する情報をインターネット上の電子掲示板に掲載するサービスを提供していること。

○ 「面識のない」とは、「インターネット異性紹介事業」をきっかけとして知り合うまで、お互いに全く関係のなかった、見ず知らずの関係であることをいいます。

○ 「異性との交際」とは、男女の性に着目した交際、すなわち相手が男であること又は女であることへの関心が重要な要素となっている感情(性的な感情)に基づく交際をいい、性交等を目的とする交際に限りません。

○ 「交際」とは、つきあい、まじわりのことであり、他人と知り合い、交流する行為全般をいいます。直接対面して行うもののほか、電話、手紙、電子メール等の手段による会話、文通等の対面しないで行うものも含みます。

○ 結局、「異性交際希望者」とは、性的な感情に基づいて面識のない異性と知り合うことを希望する者となります。

○ 異性交際希望者の「求めに応じ」とは、サイト開設者がサイトの運営方針として、「異性交際希望者」を対象としてサービスを提供していることを意味します。個々の利用者(書き込み者及び閲覧者)が実際にどのような意図をもってそのサイトを利用しているかにはかかわりません。
ここでいう「運営方針」については、
 ・サイト開設者が示している規約やサイト名その他利用案内、告知等のサイト上の記載等
 ・サイトのシステム(例えば、書き込みをした者の性別を表示する機能の有無等)
 ・利用者の規約等違反行為に対するサイト開設者の措置

等の事項から判断することになります。

なお、異性交際目的での利用を禁ずる規約等に反して利用者が異性交際目的で利用している実態がある場合でも、サイト開設者が異性交際を求める書き込みの削除や当該投稿者の利用停止措置を行っていれば、当該サイトは、基本的には「インターネット異性紹介事業」に該当しませんが、当該書き込みを知りながら放置するなど、サイト開設者がその実態を許容していると認められるときは「インターネット異性紹介事業」に該当する場合があります。

○ 「異性交際に関する情報」とは、「異性交際希望者」が不特定又は多数の異性の注目を集めるために記載する、自分に関する情報、交際を希望する相手の条件に関する情報、交際の方法(電話番号等の連絡方法に関する情報、実際に出会うための日時・場所に関する情報もこれに当たります。)に関する情報等をいいます。

○ 「インターネット上の電子掲示板」には、チャットのように、掲載内容が刻々と変化する形態の掲示板も含みます。



出会い系サイト規制法ガイドラインのキモとなる定義部分は、ずばり「異性との交際」についてです。上記ガイドラインに従うとこういうことになります。

異性交際=
相手が男であること又は女であることへの関心が重要な要素となっている感情に基づくつきあい、まじわり。

ガイドラインでは性的感情に基づくという言葉が頻繁に出てきますが、実はここで言う「相手が男であること又は女であることへの関心が重要な要素となっている感情」のことを性的感情と定義しているのであり、性交や性交類似行為を目的とした感情ではないのです。したがって、性的感情という言葉の定義は相手の肉体的側面にも着目したものでもありません。


性的感情=
  1. 異性に対する性的・肉体的接触やそれを欲求する感情とは関係ない
  2. 理由はともかく異性であることへの関心が重要な要素であればよい

あくまでジェンダーの違いへの関心が重要な要素となっていれば、それはすなわち「性的感情」であり、その感情に基づくつきあいやまじわりというものが「異性交際」に当たるのです。

この定義の広さは、後半部分で連発される「交際」にも直接響いてきます。一般的に「交際」と言うと、恋愛的目的や性的・肉体的な目的を持った人間的交流を指すことになるかと思いますが、ここで言うところの「交際」はもっと広いことになるのです。

ちなみにガイドラインへの回答で「性的感情」「異性交際に関する情報」という用語を頻繁に使って返答しているのですが、この定義が一般的な名詞として用いる語意よりも広い範囲になることは、ちゃんと調べている人しか分からないので、うまく言いくるめられている印象の回答となっています。

以上から、①の範囲に限って言うところのインターネット異性紹介事業者(出会い系サイト)の定義はこうなります。


インターネット異性紹介事業者(出会い系サイト)=
異性であることへの関心が重要な要素となっている感情に基づく交流に関する情報を、インターネット上の電子掲示板に掲載するサービスを提供している者

※②、③、④の定義は当たり前過ぎるので省略



広すぎる定義
やはりこの定義はいくらなんでも広すぎるのではないでしょうか。

例えば、女性向けマーケティングを行うため、相手の性差に着目したメッセージ配信を行うビジネスSNSやマッチングサイトがあった場合や、女性の歴史的・社会的な地位について研究している男性研究者たちが、研究対象として女性を募り、コミュニケーションのやり方等の研究の見地から交流を図るサイトがあった場合においても、「相手が男であること又は女であることへの関心が重要な要素となっている感情」と言い得るように思われます。

つまり、異性に対する社会学的、ビジネス的、科学的側面へ重大な関心を持つ交流サイトも、法規制の対象から外すことができないことになるのです。

そもそもこの定義には重大な欠陥があるように思われます。現代社会において、単純に性差に注目しているからといって、それが性的接触に直結するものではありません。性の持つ意味が、単純に肉体的なものだけでなく、社会的、産業経済的、生物科学的にも重要な意味を持つようになっているなど、極めて多様かつ高度な側面を持っていることを十分に想定していない定義であるように思われます。

ガイドラインは「異性交際目的での利用を禁ずる規約」を定め、運用していれば「インターネット異性紹介事業」からは除外されるとしている救済規定を置いていますが、そもそも「異性交際目的」の定義が広すぎるので、救済として機能していません。男女のビジネスユーザーのニーズをマッチさせることを目的としているサイトで、そのようなマッチングを禁止する規定を設けるわけがないからです。

(2009/4/2 注:やはりこの除外規定の実効性の無さが、mixiやモバゲータウンに対する警察の削除要請という形に反映されたわけです。例えば、裏でスタッフがイケメンキャラを動かす恋愛シュミレーション的なSNSがあり、絶対にオフラインに結びつかない「バーチャル恋愛」が楽しめたとしても、これは相手の性差に着目して成り立つ付き合いということになりますから、「異性交際」の定義に該当することになります。ですから、このような場で、バーチャルな恋愛を熱望するような投稿も削除している運営がなされていなければ、除外規定に当てはまらず出会い系サイトとして認定されてしまうのです。しかし現実問題としてバーチャル恋愛や恋愛ごっこ的なものまで削除しろというのは、出会い系サイトを通じ児童が被害を受ける事態を防ぐことを目的としていた法の制定趣旨(法第1条)からは大きく外れます。実際の被害者が生じることを防ぐのではなく、健全な恋愛道徳観の維持が法の目的と入れ替わってしまうからです。つまるところこのガイドラインを前提にすると、法の立法目的と法の規制手段がかみ合わないことになるのです。)


多くのSNSサイトや掲示板サイト、ブログサイトでは、男女間で会話がなされうるシステム(サイト内メール、スレッド投稿機能、コメント機能)を備えているものの、直接的な出会い系勧誘書き込みを禁止しているところが大半でしょう。ところが、男女で交流するオフ会をしましょうというものだけでなく、男女問わずビジネスマンの交流を図りましょうと呼びかけるものまで禁止対応としているサイトはほとんどないと思われます。

したがって、今回の出会い系サイト規制法ガイドラインの文言を読む限りでは、ネット上のコミュニケーションサイトのほとんどに影響が及ぶことになるのではないでしょうか。


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