*
-蛍雪さんが入室しました。
-千里さんが入室しました。
-天衣さんが入室しました。
-蓬さんが入室しました。
「ちゃてぃなぅ」
《ちゃてぃなぅ!》
【ちゃてぃなぅ~】
[ちゃてぃnow]
「あ、今日は蓬(よもぎ)さんも来てるんですね!」
[Oh! おヒさしぶりです。雪さン]
《ほんとだ、蓬だ》
【おぉ、よもぎ、おひさしぶり】
[みなさンもお久しぶりですヨ]
「ここのところあんまり見かけませんでしたけど、何してたんですか?」
《幼女監察》
「千里さんには聞いてません! ていうかあなたはほとんど毎日inしてるじゃないですか。あと監が恐い。せめて観にして下さい」
【ちり、へんたい。だめ、ろりこん! よもぎぃーなにしてたの?】
[えぇ、べつに大したことじゃナイです……ちょっとした里芋狩りですヨ!]
「……っ!?」
《た、確かに大したことじゃないが……かなり気になるっ!》
【おいも?】
[あう、あれ? おいもじゃナイです……間違えちゃいましタw]
「…………ですよねーw」
《しっかりしろよなw》
【えと、じゃあ、ほんとはなに?】
[えぇ、アレです……]
《アレとは?》
[えっと、確か]
「確か?」
[……よ、よ、黄泉帰り]
「も、もの凄く大したことだったあああっ!」
《kwsk》
「っていうかそんなの素人が普通に休暇気分で出来るもんなんですか!?」
【いや、できない。黄泉の国にいけるのはしんだひとのたましいだけ】
《……あ、あま。お前、何か時々変なことにやたら詳しくないか? しかも漢字……》
【えっへん><】
[うー、えっとぉー]
「英語でいいですよ(^ω^)」
[I went home to see my family.( ・´ー・`)どやっ]
「ああ! 里帰りですかwww」
[そう! それですヨ!]
《なるほど、里芋狩りと黄泉帰りで里帰りかぁ……ってならねぇよ! 何でこの二つなんだよ! つうかネイティブのくせに英語しゃべったくらいでどや顔するなよっ!》
[最近TVで見ましタ]
「あはは(;^・ェ・)」
【よもぎってどこのくにのひと?】
[イギリスですヨ。父がイギリス人、母が日本人とイギリス人のハーフでス]
「確か、今は日本の大学に留学中なんですよね?」
[いぇす。日本は美しくて穏やかでいい国ですネ!]
《へぇー、イギリスかぁ。そういえば、あまもハーフだったよな?》
【うん、はーふだよ】
「えっ、そうなんですか!!!」
《お前、知らなかったの?》
「初めて聞きました……」
[わたしもネ]
《俺も》
「どういうことですかっ!?」
《いや、試しに言ってみたらホントにそうだっただけで……》
「さも私は知っていましたよ? みたいな口を聞いておきながら知らなかったんですかっ! しかもそんな血液型当てるみたいな軽いノリでハーフであることを見破るなんてっ……チャットで!!!」
[しかし驚きましたネ、天依サンもハーフだったなんて]
【にしし><】
《はっ! まさか雪……お前までっ!?》
「……残念ながら僕は純日本人ですよw」
《そういう俺はハーフ》
「っ!?」
《じゃない(・ー・)どやっ》
「ややこしい改行しないで下さいw」
「あ、そういえば」
「本題を忘れてました」
「みなさん」
「突然ですけど」
「ゲームしませんか?」
*
ふう、相変わらず皆めちゃくちゃだなぁ。ここらで少しチャットメンバーの紹介をしておく。
じゃあまず最初に千里さん。性別は、一人称とか言動からして多分男性(チャットだから断言はできないけど)。趣味はアニメ、ゲーム、マンガ、幼女監……観察。
って、字を直したところでそれはそれで問題なんだけど……。前に聞いた時は学生って言ってたから、高校生か大学生なんだろうけど《女性に年齢を尋ねるなんて失礼よ!》とかふざけてごまかされた。まぁ、この人はアレだ。みんなのムードメーカー的存在。
次に天衣さん。なぜか名前意外はほとんどひらがなで、やわらかく簡潔な文章を好む。女の子っぽい。っていうか多分ほんとに女の子だと思う。なんとなく幼い感じがするし。そして今日発覚した事実、ハーフ(らしい)。
趣味は……なんだろ。あ、何かよくわからない知識をいっぱい持ってる。怪物とか、幽霊とか、それっぽい世界のことについて。……好きなのかな? みんなの癒しキャラ的存在。
で、最後に蓬さん。この人は……まぁ、いい人だったよ。以下略(ry
……ダメ? うーん…………一言で言うと馬鹿だ。バカ。日本語が苦手とかそういうの差し引いてもバカなんだ。でもバカって言うのは流石にひどいかな……そうだ、天然! 天然なんだよ、うん。人よりちょっと頭の中の構造がめでたい。
これだけ褒めるところが見つからない人って珍しい! 逆にけなさないのが難しいレベルだと思う! 性別は不明。年齢は20前後。みんなのトラブルメーカー的存在。
と、まぁ、誰得? みたいな自己紹介ならぬ他人紹介をしてみたわけなんですが……なかなかどうしてカオスなメンバーだ。
純ロリコン、ハーフ幼女、ハーフ馬鹿。うわ、ハーフ馬鹿って半分だけ馬鹿な人みたいだ。……ハーフ率たけぇ。
もともとはネトゲで知り合った千里さんと二人で細々と世間話をしているだけのチャットだった。そこに千里さんが天衣さんや蓬さんを連れてきて賑やかになって。
他にも何人かよくチャットする人もいる。皆変わってるけど基本的にいい人ばっかりだ。
社会復帰する日なんてこないと思ってたけど、今こうして高校に通えてるのもみんなのおかげなのかもしれない。
幸か不幸か部活にも無事に入部することができたし。……無事? うん、まぁ。いまのところは…………
そして今、まさに僕はその高校で部活動をしている真っ最中なのだ。そう、談笑部の部室で。
*
「氷柱君、ゲームをしよう」
「ゲーム……ですか?」
白先輩が何の前触れもなくそんなことを言い出したのは、日本が梅雨入りし空気がじめじめしてきた6月の初めのことだった。
談笑部員の僕と白先輩は、まだ少し肌寒かった4月の風とも、すっかり暖かくなって爽やかに感じられる5月の風とも何の縁を持つこともなくインドアな生活を満喫していた。
このくそ暑い中、先輩は今日もホットであの甘い香りのする飲み物を飲んでいる。今日の味はメロンみたいだ。
この二ヶ月間、部活中にしたことといえば学校の宿題、白先輩との談笑、チャットetc……ほんとに何もしない部だなぁとか思っていた矢先のことだったので、白先輩の言葉に少しながらも困惑する。
「いきなりどうしたんですか?」
「君はオンラインゲームをしたことはあるかい?」
「いや、そりゃまぁ、ありますけど」
「なら話は早い。ゲームはもう既に君のPCにインストールされてるから」
「なっ、いつの間に!」
あ、ほんとだ。デスクトップを確認すると見覚えのないアイコンが一つ増えている。もともと先輩が用意したパソコンだから別に問題はないのだけど。
「あとは自分でアカウントを作っておいてくれ」
相変わらず勝手だなぁ。
「それはいいですけど……でも何でいきなりゲームなんですか?」
「依頼だよ」
そう言って白先輩はマウスを操作し始める。しばらくして僕のパソコンに1通のメールが届いた。
「読んでみて」
「えー、なになに……『さくらちんひさしぶりー! 元気にしてた? あたしは超元気だよ! もちろん夜のほうも……』」
「そ、そこは別に読まなくてもいいっ!」
……じゃあ自分で読んでくださいよ。
続きはこうだった。
『さっそくなんだけどさー、また頼みたいことがあるんだぁ。うちらのゲームサークルね、今【SEVENTH HEAVEN】ってネトゲやってるんだけど、知ってる? あれ超面白くてさー、皆凄いハマっちゃってるわけ』
SEVENTH HEAVEN、最近ネットでよく聞く名前だ。何でもMMORPGの無料オンラインゲームで、グラフィックの美しさとそれに似つかわしくない動作の軽さ、そして何よりもそのストーリーが評価されている作品。
直訳すると7番目の楽園、天国。第7天、ユダヤ教では天国の最高位とされている。セブンス・ヘブンなんて種類のカクテルまである。アメリカの映画や、多くのミュージシャンが自分の曲にその名前を使用していることでも有名だ。
『それでさ、近いうちにゲーム内でイベントがあるんだけど、クリアするには結構な人数が必要みたいでさ、よかったら協力してくれない? できれば5人くらい集めてほしいんだけど。できるだけ経験者がいいなぁ。イベントまでにある程度レベル上げておいてもらいたいんだ。お願いします(>人<)』
「と、いうことだ」
「はぁ。依頼ってこれだけですか?」
「うん、それがどうかした?」
「いや、何と言うか。ただ一緒にゲームしようって誘っているようにしか思えないんですけど」
「その通りだよ。別に私は危険な事件を解決したいわけじゃない。趣味でやるぶんにはこれくらいがちょうどいいんだよ。変な薬で体が縮んで麻酔銃でおっさん眠らせて操ったり、いちいち名探偵と呼ばれたじっちゃんの名にかけて生きるのは疲れる」
「具体的すぎて誰を例えてるのか丸わかりなんですけど」
「それに私がコ〇ン君や金〇一になったら間違いなく一話に一人は死者がでるじゃないか」
「名前出しちゃったっ!」
「彼らが死に神だと言われても私は何の疑いも持たない」
「それは言っちゃダメです!」
「とにかく、今私達に必要なのは残りのメンバーだ。ネット生活に慣れた、それもネトゲ廃人になっても困らない社会のクズのような優れた才能を持つゴミ達が必要なんだ!」
「ほ、褒めながらこの上ないくらいに人をけなしてるっ! 白先輩も物凄い才能持ってますね!」
「いやあそれほどでも」
「褒めてねぇよ!」
「ということで氷柱君」
「何ですか」
「今日の君の活動内容はメンバー集めだ。今すぐ取り掛かりたまえ」
「はぁ……」
こうして今日も僕は白先輩のいいなりになる。部員という体のいい雑用と言ってもいいんじゃないだろうか。
「わかりました」
*
「と、いうわけなんですが」
《なるほど》
【うむ】
[ふむふむ]
「みなさんいかがでしょう? 暇つぶし程度に考えてもらって構いませんから」
《つうか雪、おまえ……》
「?」
《俺達のこと、社会のクズで優れた才能を持つゴミだとか思ってたんだな……》
「そ、そんなことないですよっ……!」
【……そうなの、ゆき?><。】
[雪さン……]
「違います! 勘違いしないでください! 僕は二人をそんな目で見てないですよ!」
【そっか、よかった】
[安心しましたヨ]
「もう、二人ともはやとちりしないでくださいよ(´・_・`)」
【にしし><】
[すみませン(;゜ー゜)]
《ちょ、おまえら、おれは!? 何で誰も突っ込まないの!?》
「だって千里さんは……」
【ちりは……】
[千里さンは……]
《……お、おれはっ!?》
「【[クズだもん]】」
《ぬぅおおおおおおお!!!!!》
《いいんだ……》
《どうせ》
《俺なんか……》
《俺なんか……ク、クズ……うわぁああああああああん》
「あーあ泣いちゃいましたね」
【ちり、こども】
[こういうところがクズなんですよネ]
《おまえらっ! ちょっとでもフォローしろよっ!》
「はいはい。じゃあ今晩9時にゲーム内で逢いましょう」
【りょ】
[いぇっさー]
《おまえら、俺を放置するなっ!》
-蛍雪さんが退室しました。
-天衣さんが退室しました。
-蓬さんが退室しました。
《ま、まじかよ……おまえらなんて、おまえらなんて……》
《う、うっ……》
《大好きだああああああああああっ!!!!!》
-千里さんが退室しました。
-天衣さんが入室しました。
【ちり、つんでれ><】
-天衣さんが退室しました。