key-nagiさんのブログ

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小説を書いてます。主にblog活動はこちらで行っているのでよかったら見に来てください><

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-蛍雪さんが入室しました。

-千里さんが入室しました。

-天衣さんが入室しました。

-蓬さんが入室しました。


「ちゃてぃなぅ」

《ちゃてぃなぅ!》

【ちゃてぃなぅ~】

[ちゃてぃnow]

「あ、今日は蓬(よもぎ)さんも来てるんですね!」

[Oh! おヒさしぶりです。雪さン]

《ほんとだ、蓬だ》

【おぉ、よもぎ、おひさしぶり】

[みなさンもお久しぶりですヨ]

「ここのところあんまり見かけませんでしたけど、何してたんですか?」

《幼女監察》

「千里さんには聞いてません! ていうかあなたはほとんど毎日inしてるじゃないですか。あと監が恐い。せめて観にして下さい」

【ちり、へんたい。だめ、ろりこん! よもぎぃーなにしてたの?】

[えぇ、べつに大したことじゃナイです……ちょっとした里芋狩りですヨ!]

「……っ!?」

《た、確かに大したことじゃないが……かなり気になるっ!》

【おいも?】

[あう、あれ? おいもじゃナイです……間違えちゃいましタw]

「…………ですよねーw」

《しっかりしろよなw》

【えと、じゃあ、ほんとはなに?】

[えぇ、アレです……]

《アレとは?》

[えっと、確か]

「確か?」

[……よ、よ、黄泉帰り]

「も、もの凄く大したことだったあああっ!」

《kwsk》

「っていうかそんなの素人が普通に休暇気分で出来るもんなんですか!?」

【いや、できない。黄泉の国にいけるのはしんだひとのたましいだけ】

《……あ、あま。お前、何か時々変なことにやたら詳しくないか? しかも漢字……》

【えっへん><】

[うー、えっとぉー]

「英語でいいですよ(^ω^)」

[I went home to see my family.( ・´ー・`)どやっ]

「ああ! 里帰りですかwww」

[そう! それですヨ!]

《なるほど、里芋狩りと黄泉帰りで里帰りかぁ……ってならねぇよ! 何でこの二つなんだよ! つうかネイティブのくせに英語しゃべったくらいでどや顔するなよっ!》

[最近TVで見ましタ]

「あはは(;^・ェ・)」

【よもぎってどこのくにのひと?】

[イギリスですヨ。父がイギリス人、母が日本人とイギリス人のハーフでス]

「確か、今は日本の大学に留学中なんですよね?」

[いぇす。日本は美しくて穏やかでいい国ですネ!]

《へぇー、イギリスかぁ。そういえば、あまもハーフだったよな?》

【うん、はーふだよ】

「えっ、そうなんですか!!!」

《お前、知らなかったの?》

「初めて聞きました……」

[わたしもネ]

《俺も》

「どういうことですかっ!?」

《いや、試しに言ってみたらホントにそうだっただけで……》

「さも私は知っていましたよ? みたいな口を聞いておきながら知らなかったんですかっ! しかもそんな血液型当てるみたいな軽いノリでハーフであることを見破るなんてっ……チャットで!!!」

[しかし驚きましたネ、天依サンもハーフだったなんて]

【にしし><】

《はっ! まさか雪……お前までっ!?》

「……残念ながら僕は純日本人ですよw」

《そういう俺はハーフ》

「っ!?」

《じゃない(・ー・)どやっ》

「ややこしい改行しないで下さいw」

「あ、そういえば」

「本題を忘れてました」

「みなさん」

「突然ですけど」

「ゲームしませんか?」





ふう、相変わらず皆めちゃくちゃだなぁ。ここらで少しチャットメンバーの紹介をしておく。

じゃあまず最初に千里さん。性別は、一人称とか言動からして多分男性(チャットだから断言はできないけど)。趣味はアニメ、ゲーム、マンガ、幼女監……観察。

って、字を直したところでそれはそれで問題なんだけど……。前に聞いた時は学生って言ってたから、高校生か大学生なんだろうけど《女性に年齢を尋ねるなんて失礼よ!》とかふざけてごまかされた。まぁ、この人はアレだ。みんなのムードメーカー的存在。


次に天衣さん。なぜか名前意外はほとんどひらがなで、やわらかく簡潔な文章を好む。女の子っぽい。っていうか多分ほんとに女の子だと思う。なんとなく幼い感じがするし。そして今日発覚した事実、ハーフ(らしい)。

趣味は……なんだろ。あ、何かよくわからない知識をいっぱい持ってる。怪物とか、幽霊とか、それっぽい世界のことについて。……好きなのかな? みんなの癒しキャラ的存在。


で、最後に蓬さん。この人は……まぁ、いい人だったよ。以下略(ry

……ダメ? うーん…………一言で言うと馬鹿だ。バカ。日本語が苦手とかそういうの差し引いてもバカなんだ。でもバカって言うのは流石にひどいかな……そうだ、天然! 天然なんだよ、うん。人よりちょっと頭の中の構造がめでたい。

これだけ褒めるところが見つからない人って珍しい! 逆にけなさないのが難しいレベルだと思う! 性別は不明。年齢は20前後。みんなのトラブルメーカー的存在。


と、まぁ、誰得? みたいな自己紹介ならぬ他人紹介をしてみたわけなんですが……なかなかどうしてカオスなメンバーだ。

純ロリコン、ハーフ幼女、ハーフ馬鹿。うわ、ハーフ馬鹿って半分だけ馬鹿な人みたいだ。……ハーフ率たけぇ。

もともとはネトゲで知り合った千里さんと二人で細々と世間話をしているだけのチャットだった。そこに千里さんが天衣さんや蓬さんを連れてきて賑やかになって。

他にも何人かよくチャットする人もいる。皆変わってるけど基本的にいい人ばっかりだ。

社会復帰する日なんてこないと思ってたけど、今こうして高校に通えてるのもみんなのおかげなのかもしれない。

幸か不幸か部活にも無事に入部することができたし。……無事? うん、まぁ。いまのところは…………

そして今、まさに僕はその高校で部活動をしている真っ最中なのだ。そう、談笑部の部室で。






「氷柱君、ゲームをしよう」

「ゲーム……ですか?」

白先輩が何の前触れもなくそんなことを言い出したのは、日本が梅雨入りし空気がじめじめしてきた6月の初めのことだった。


談笑部員の僕と白先輩は、まだ少し肌寒かった4月の風とも、すっかり暖かくなって爽やかに感じられる5月の風とも何の縁を持つこともなくインドアな生活を満喫していた。

このくそ暑い中、先輩は今日もホットであの甘い香りのする飲み物を飲んでいる。今日の味はメロンみたいだ。

この二ヶ月間、部活中にしたことといえば学校の宿題、白先輩との談笑、チャットetc……ほんとに何もしない部だなぁとか思っていた矢先のことだったので、白先輩の言葉に少しながらも困惑する。

「いきなりどうしたんですか?」

「君はオンラインゲームをしたことはあるかい?」

「いや、そりゃまぁ、ありますけど」

「なら話は早い。ゲームはもう既に君のPCにインストールされてるから」

「なっ、いつの間に!」

あ、ほんとだ。デスクトップを確認すると見覚えのないアイコンが一つ増えている。もともと先輩が用意したパソコンだから別に問題はないのだけど。

「あとは自分でアカウントを作っておいてくれ」

相変わらず勝手だなぁ。

「それはいいですけど……でも何でいきなりゲームなんですか?」

「依頼だよ」

そう言って白先輩はマウスを操作し始める。しばらくして僕のパソコンに1通のメールが届いた。

「読んでみて」

「えー、なになに……『さくらちんひさしぶりー! 元気にしてた? あたしは超元気だよ! もちろん夜のほうも……』」

「そ、そこは別に読まなくてもいいっ!」

……じゃあ自分で読んでくださいよ。

続きはこうだった。

『さっそくなんだけどさー、また頼みたいことがあるんだぁ。うちらのゲームサークルね、今【SEVENTH HEAVEN】ってネトゲやってるんだけど、知ってる? あれ超面白くてさー、皆凄いハマっちゃってるわけ』

SEVENTH HEAVEN、最近ネットでよく聞く名前だ。何でもMMORPGの無料オンラインゲームで、グラフィックの美しさとそれに似つかわしくない動作の軽さ、そして何よりもそのストーリーが評価されている作品。

直訳すると7番目の楽園、天国。第7天、ユダヤ教では天国の最高位とされている。セブンス・ヘブンなんて種類のカクテルまである。アメリカの映画や、多くのミュージシャンが自分の曲にその名前を使用していることでも有名だ。


『それでさ、近いうちにゲーム内でイベントがあるんだけど、クリアするには結構な人数が必要みたいでさ、よかったら協力してくれない? できれば5人くらい集めてほしいんだけど。できるだけ経験者がいいなぁ。イベントまでにある程度レベル上げておいてもらいたいんだ。お願いします(>人<)』


「と、いうことだ」

「はぁ。依頼ってこれだけですか?」

「うん、それがどうかした?」

「いや、何と言うか。ただ一緒にゲームしようって誘っているようにしか思えないんですけど」

「その通りだよ。別に私は危険な事件を解決したいわけじゃない。趣味でやるぶんにはこれくらいがちょうどいいんだよ。変な薬で体が縮んで麻酔銃でおっさん眠らせて操ったり、いちいち名探偵と呼ばれたじっちゃんの名にかけて生きるのは疲れる」

「具体的すぎて誰を例えてるのか丸わかりなんですけど」

「それに私がコ〇ン君や金〇一になったら間違いなく一話に一人は死者がでるじゃないか」

「名前出しちゃったっ!」

「彼らが死に神だと言われても私は何の疑いも持たない」

「それは言っちゃダメです!」

「とにかく、今私達に必要なのは残りのメンバーだ。ネット生活に慣れた、それもネトゲ廃人になっても困らない社会のクズのような優れた才能を持つゴミ達が必要なんだ!」

「ほ、褒めながらこの上ないくらいに人をけなしてるっ! 白先輩も物凄い才能持ってますね!」

「いやあそれほどでも」

「褒めてねぇよ!」

「ということで氷柱君」

「何ですか」

「今日の君の活動内容はメンバー集めだ。今すぐ取り掛かりたまえ」

「はぁ……」

こうして今日も僕は白先輩のいいなりになる。部員という体のいい雑用と言ってもいいんじゃないだろうか。

「わかりました」





「と、いうわけなんですが」

《なるほど》

【うむ】

[ふむふむ]

「みなさんいかがでしょう? 暇つぶし程度に考えてもらって構いませんから」

《つうか雪、おまえ……》

「?」

《俺達のこと、社会のクズで優れた才能を持つゴミだとか思ってたんだな……》

「そ、そんなことないですよっ……!」

【……そうなの、ゆき?><。】

[雪さン……]

「違います! 勘違いしないでください! 僕は二人をそんな目で見てないですよ!」

【そっか、よかった】

[安心しましたヨ]

「もう、二人ともはやとちりしないでくださいよ(´・_・`)」

【にしし><】

[すみませン(;゜ー゜)]

《ちょ、おまえら、おれは!? 何で誰も突っ込まないの!?》

「だって千里さんは……」

【ちりは……】

[千里さンは……]

《……お、おれはっ!?》

「【[クズだもん]】」


《ぬぅおおおおおおお!!!!!》

《いいんだ……》

《どうせ》

《俺なんか……》

《俺なんか……ク、クズ……うわぁああああああああん》


「あーあ泣いちゃいましたね」

【ちり、こども】

[こういうところがクズなんですよネ]

《おまえらっ! ちょっとでもフォローしろよっ!》

「はいはい。じゃあ今晩9時にゲーム内で逢いましょう」

【りょ】

[いぇっさー]

《おまえら、俺を放置するなっ!》


-蛍雪さんが退室しました。

-天衣さんが退室しました。

-蓬さんが退室しました。

《ま、まじかよ……おまえらなんて、おまえらなんて……》

《う、うっ……》

《大好きだああああああああああっ!!!!!》

-千里さんが退室しました。

-天衣さんが入室しました。

【ちり、つんでれ><】

-天衣さんが退室しました。




《遅いなぁ、あいつ》

【うん、おそい】

-蛍雪さんが入室しました。

《お、きたきた!》

「ちゃてぃなぅです!」

《ちゃてぃなぅ!》

【ちゃてぃなぅ~】

「今日は千里(せんり)さんと天衣(あまい)さんだけですか?」

【うむ】

《お前が来るの遅いから暇だったんだぞ!(-.-;) もっと早く来いよな、雪》

「すいませんw 今日は色々ありまして」

【ところでゆき、ぶかつはきまったの?】

「あっ、そのことなんですけど」

《もちろんあれだろ、ゲーム同好会とか幼女保護部みたいなところに入ったんだよなwww》

「……自分の趣味で考えないでください」

【なにぶ?】

《ロリコン部》

「ちょっと、千里さんは黙ってて下さい!」

《今のはだな、ロリコンと昆布をかけているわけでだな》

【おお、とろろこんぶみたいなものか?><】

「天衣さんも食いつかないで下さい!」

《ロリ昆布ってなんかエロくね? トロトロのヌルヌルの幼女だぜ?》

【おぉ、えろい。ちり、えろい!】

《うしししw》

「もうやだ、この二人……それに、ちりじゃないし……」

《まぁそう言うなって。お前も好きでここに来てるくせにツンデレだなぁw ……それにお前も違うし》

「え?」

《何でもない》

【で、ゆき。なにぶはいったの?】

「あ、そうそう、実は」

《デブ》

「……」

【ころぶ?】

「……」

《あそぶ!》

「……」

【そらをとぶ!】

《俺は波乗り派だがな!》

【む、私だってふらっしゅはだぞ】

《何、フラッシュだと!? お前なかなか渋いな……(・д・)》

【えっへん><】

「二人とも……最初から話聞く気ないよね? 僕、そろそろ落ちようかな…………」

《あぁー! うそうそ! ごめんごめんちゃんと聞くから!》

【ごめんなさい、ゆき】

「はぁ……まぁいいんですけど。とりあえず談笑部ってところに入部しました(・∀・)」

《断層部!? また何かえらく変わった理系な部活動だなぁ》

「……わざとですよね?」

【ちり、ちがう。だんそーだ。おんなのひとがおとこのひとのかっこするやつ】

《そっか! あま、お前天才だ》

【むふふ><】

《そしてお前は変態だな、雪》

【へんたーい】

「だから……わざとですよね?」

【……だってぇ~】

《……なぁ?》

「?」

《談笑部って、何?》
【だんしょーぶってなに?】


「……あはは…………やっぱそうなりますよね orz」






あぁ、やっぱり今日は胃が重い。もう午後になるのにいっこうに食欲がわかない。白先輩に飲まされた謎の飲み物と、昨日遅くまでチャットしてたせいだ。

「霜月、どうしたんだ? さっきから全然箸が進んでないみたいだが」

クラスメイトの棗君が少し心配そうな顔をして尋ねてくれた。今は昼休みの昼食の時間。

「うん、まぁ、ちょっと。今日はあんまり食欲がなくて……よかったら僕のぶんも食べてもらえる? このままじゃ傷んじゃうし」

「いいのか? わるいな」

「ううん、そんなことないよ。それに僕の手作りだから味は保障できないけど」

「いただくよ。……うむうむ……うまいっ! 冷めてるのにふわふわで、味がよくしみている。こっちのサラダもうまいな。お前、よく料理するのか?」

「そういうわけでもないけど。こっちに来てからはずっと一人なわけだし、料理くらいできたほうがいいと思って去年からこつこつ練習してたんだ」

「へぇ、なんか凄いな」

「そんなことないよ! まだまだたいしたものも作れないし、ほとんど毎日同じメニューだし」

「そこがすごいんだよ」

「……え?」

「毎日続けていることがすごいんだ。普通なかなかできないと思うぞ」

「そうかなぁ、慣れればそうでもないよ?」

「俺なら慣れるどころか、3日ともたないな。やっぱり凄いよ」

「えへへ……ありがと」

自分では当たり前のことだと思っていたから、改めて人に言われてみるとちょっと照れる。

「ところで、部活のほうはどうだ? どこかいい部は見つかったか?」

「え!? ……あ、うん。それが…………」

「?」

「見つかったには見つかったんだけど、何て言うか、その……」

「何部にしたんだ?」

「……ぅぶ」

「え?」

「談笑部に、入部した」

「……」

「……」

「だんしょう?」

「談笑」

「……」

「……」

「それって、何する部なんだ?」





放課後、帰宅の準備を終えた後、棗君と別れの挨拶を交わしてから林へと向かう。

やっぱり、談笑部なんて言っても誰もわからないよなぁ。僕だって活動内容が「談笑」、「商談」ってことくらいしか知らないし。そもそも白先輩が作った部だからわかるわけもないんだけれども。

そうこう考えているうちに部室前までたどり着いた。こうして外から見ると、普通のキャンプ場にありそうなペンションみたいだなぁ。もともとアウトドア部のものだったらしいけど。

問題を起こしたとはいえ、なんだか気の毒になってきた。今ではその内装は、アウトドアとはほど遠いインドアの極みとなっているのだから。

「失礼しまーす」

小屋に入ると同時に、今日もまた甘い匂いが鼻に入ってきた。昨日のはバニラみたいな香りだったけど今日のは苺のようだ。一体どれだけの種類があるのだろうか。

「お、きたか」

パソコンに向かってキーボードをカタカタとタイプしていた少女がこちらを一瞥する。この細くて白くて黒い少女こそが談笑部の部長であり創立者、紗蔵 白先輩だ。

「あれ、何だか昨日と部屋のレイアウトが変わってますね?」

「ああ、そのことか」

昨日はこちらに背を向けるかたちで座っていた先輩。今日は何故か机の向きを反対にして出入口のほうを向いて作業をしている。

こっちのほうがむしろ自然なはずなんだけど、何故か違和感がある。やっぱり最初に見た後ろ姿が印象的だったからだろうか。独り言、というかアフレコしてたし……あ、そういうことか。

「先輩、昨日のアレが恥ずかしかったから今日は誰が入って来てもすぐに気が付くように机をこっち向きに直したんですね」

「な、何を言ってるんだ君はっ! そんなわけないだろ…………そ、そもそも……全てが完璧な私に、見られて恥ずかしいものなどないのだよっ。まったく……」

そうは言うものの先輩の頬は真っ赤に染まり、それを必死に隠そうとバタバタしているのもかえって怪しい。

「ほんとですか?」

「うん」

……うむ、そういうことなら。
「やはり、来たか」

「……っ!?」

「欲しければ力ずくで奪ってみろ」

「ちょ、君、やめ、やめっ……」

「今宵の我が魔刀は血に餓えておるぞおおぉ!」

「やめてええええええー!!!!」

その後、取り乱して悶える白先輩をなだめるのに10分ほどかかってしまった。先輩は「くくっ、これが黒歴史か。ふふ……ふはは……」とか言って壊れていたが、どうやら落ち着きを取り戻したようで、テーブルの上におかれたカップを手にし、甘い香りを放つ飲み物を口へと運ぶ。

「別に……恥ずかしくないんだから…………」

「はいはい、そういうことにしておいてあげますよ」

「……む、なんだその言い方は。まるで私が嘘をついているみたいな物言いだな。せっかくツンデレサービスまでしたのに」

ネタと本気の境界があいまいな人だなぁ。

「それはそうと、聞きたいことがひとつ。この部って具体的になにをすればいいんですか?」

友人に活動内容を聞かれても答えられない部活動なんて怪し過ぎる。ていうかやだそんな部活。

「んー、そうだなぁ……そもそもこの部は私一人でやっていくつもりだったから、団体行動の計画を立てるという発想がなかった」

じゃあ何で僕を入部させたんですか。あれ? っていうか……

「部活動って原則として3人以上の部員と顧問が必要じゃなかったですか?」

「ああ、それなら心配ないよ。残り二人は私の友人に名前だけ貸してもらってる。顧問は理事長が直々に引き受けてくれた」

「へぇー」

先輩にもちゃんと友達いたんだ。

「話を元に戻すが、基本的には私も毎日チャットしてるだけだったんだ。それがある日、チャットで仲良くなった人にある頼み事をされてだな、その場のノリで引き受けたところ、その、なんだ……なかなかに評判がよくて」

「凄いじゃないですか! どんな頼み事だったんですか?」

「……」

「ん?」

「……べ、別になんでも——」

「欲しければ力ずくで奪ってみろ……」

「ちょっ!?」

「さぁ、始めようじゃないかっ! 己の持てる全ての力を…………」

「らめええええええ!!!!」

あぁ、やっぱり……

「ゲームの声優ですか」

「…………うん」

氷柱君はいじわるだ、鬼畜だ、悪魔だ、変態サド男だと散々罵りながら、白先輩が目に涙を浮かべて不満をぽろぽろとこぼす。

「……まぁそんなこんなで色んな頼み事をされて、それを引き受けてるうちに今の談笑部の骨組みが出来上がったわけだ」

「なるほど。それはわかりましたけど僕は何をすればいいんですか?」

「もちろん、チャットだよ」

「え、それだけですか!?」

僕は白先輩の意外な答えに驚きを隠せない。

「それ以外に何かある?」

「いや、何かって言われてもあれですけど……商談とか言ってたのは?」

「大丈夫、基本的に商談は私がうける。君には依頼の内容を解決するために尽力してもらうことになるだろい。だから普段は自分がしたいことをしてもらってかまわないよ」

ほらっ、と言って先輩は一台のディスプレイを指差す。机の上におかれたその黒い箱はパソコンだった。

「今日からこいつが君専用のマシンだ。可愛がってやってくれ」

「いいんですか!? こんな高そうなパソコン使わせてもらって……」

「大丈夫だ、問題ない!」

「……理事長に買ってもらったんですね?」

「うん、理事長は……まぁ、いいやつだったよ……」

「さっきからちょくちょく小ネタ混ぜるのやめてもらえませんか!」

「リジチョウノカタキヲトルノデス!!」

「あああぁぁめんどくせぇ! この人ここにきて予想以上にめんどくせぇ!」

「最近の若者はすぐに何事も面倒臭がるからよくない」

「誰のせいですか!」

「ゆとり教育の産物だよ」

「……っ! 白先輩がまともな事言った!」

「リ○バスのPSP版は天使ちゃんの中の人が新キャラで出るみたいだな」

「会話に脈絡がなさすぎます! やっぱりまともじゃない……」

「天使ちゃんまじ天使。天使ちゃんの髪の毛をくんかくんかすーはーしたいハァハァ……ハァハァ……」

「リト○スは!? 何でこの流れで天使ちゃんメインの会話になるんですか!」

「あ、モンハンやらなきゃ。新キャラ狩るの楽しみだぜ!キリッ」

「僕は今無性にあなたを狩りたい」

「氷柱君」

「……なんですか?」

「好きだ」

「……っ!!」

「嘘だ」

「…………」

「<ゝω・)綺羅星ッ☆」

「…………」

こうして今日の部活は、白先輩と日が暮れるまでわけのわからない話をするという、それはもう本当に談笑部らしい活動だった。




「高度な情報伝達が可能になった現代において、極論的に言えば、この場所にいるのが私一人でも談笑は可能なんだ。ネットにはもはや現実以上に多くの人々が存在すると言っても過言ではない。世界中のあらゆる人達とチャットを通して会話することができる。そして……」

彼女は急に真剣な顔をしてこちらを見つめる。不思議な力を持つ目だ。今にも目を反らしたくなるのに、いつまでも見ていたくもなる。

「そしてさっきの話に戻ることになるが、私はチャットを通して様々な依頼を引き受けている。『だんしょう』という言葉をひっくり返してごらん?」

「……うょ…………し……んだ?」

「違う違う」

そう言って彼女はまた笑った。

「そうじゃないよ、『だん』と『しょう』に区切るんだ。そうするとどうなる?」

「……しょうだん?」

「正解! つまり『商談』だ。談笑部は『談笑による商談』を引き受ける活動をしているのだよ。チャットを通して顧客から依頼を受け、それを解決する。それがこの部の活動さ」

彼女の話を聞き終えた時、上手く言葉を発することができなかった。もちろん、言っていることは頭では理解できた。インターネットのチャット機能を使って様々な依頼を引き受け、それをこなす。それが談笑部。

でも、それをあっさり受け入れるには、僕には人生経験が不足しすぎていた。同世代の、それもこんな美少女が、日々学校の部活動と称して世界中の人々と取引をしているだなんて。あまりにも現実と掛け離れている。

「信じられない?」

「正直、ちょっとよくわからないです」

「まぁ、無理もないさ。私だって君と同じ立場ならおそらくそうなる。でもこれは事実。それだけは揺るぎないことなのだよ」

「事実……ですか」

「基本的には……そうだなぁ。ネット上の私立探偵のようなものだと思ってくれて構わない。商談といっても、語呂がよかったからその言葉を使っているだけで、そこに得に深い意味はないよ」

「それって、報酬とかは貰ったりしてるんですか?」

「うん、まぁ、一応仕事だから」

「このことは学校側には?」

「もちろん公認だよ。そのために作らせた部室だし。というか小屋だけど」

「えっ!?」

学校公認? それに作らせたって……一体どういうことだろう。学校がそんなことを許すとも思えない。まさか、理事長の弱みでも握ってるんじゃ……

「ふふ、安心しろ。君が思っているようなことはしてないよ」

「うっ」

どうやら考えが顔に出てしまっていたらしい。急いで俯き顔を隠そうとするも、頬は朱くそまる一方である。こんな簡単に人を疑うなんて恥ずかしいことをしてしまった。

「まぁ、わからなくても無理はない。それじゃあここでヒントだ、私の名前は紗蔵 白(さくら はく)」

紗蔵 白。白ってちょっと珍しい。それに、こんな黒髪なのに白って……でも、綺麗な名前だぁ。そっかぁ、紗蔵先輩か。……ん? 紗蔵?

「……えと、それって」

「うん、つまりはそういうこと。私はこの学校の理事長、紗蔵 光(さくら ひかる)の姪なんだ。叔母に頼むと二つ返事で了承してくれた」

「姪!? 叔母!?」

「うん、私の母の妹」

なるほど、そういうことか。この学校の理事長は少し変わっている。年齢不詳、少なくとも40は越えてるはずなのに、全くその面影を見せないほどの美貌の持ち主。入学式の挨拶でも

『堅いことは気にせず、学生時代にしかできないことを思いっきりやりなさい。後の人生で自分の青春を心の底から謳歌できるように』

とかなんとか、そんな感じの挨拶だけして後は帰ってしまったほどなのだから。そんな人柄のせいか生徒からの支持は厚く、交遊関係もなかなかに広いらしい。

紗蔵先輩の時も

『叔母さま、新しい部を作ってほしい』

『どんな?』

『談笑部』

『なにすんの?』

『談笑、商談』

『おもろい?』

『めちゃめちゃ』

『おっけー』

『さんきゅー』

みたいなノリだったらしい。さすがにそれはどうかと思うけど。まぁでもそれだけ自分の姪に、絶対的な信頼をおいているということなのだろう。

「とまぁ、談笑部の説明はこんなところだ。じゃあ君はここにサインを」

「書きません」

「…………」

「…………」

「なぜ?」

「…………」

困った。ここまで聞いてみたものの断る理由が見つからない。それどころか、ちょっとだけ楽しそうだなぁとまで思ってしまった。

「ははぁ~ん、なるほどねぇ」

「な、何がですか」

「さっきまで頑なに入部を拒んでいた手前、ここであっさりサインなんかしちゃったら自分の威厳がなくなってしまう! でも、談笑部、ちょっと楽しそうだなぁ……とか思っているんだろう」

「なっ! ち、違いますよ!」

くそっ! なんでこんなに鋭いんだこの人! プロだ。人をいじめるプロだ……的確に痛いところをついてくる。

「変な意地を張らずにさっさとサインすればいいのに」

「嫌です」

「……何が欲しい、金か? 体か?」

「人聞きの悪いことを言わないで下さい!」

「探せ、この世の全てをそこにおいてきた!」

「ワン〇ース!? 欲しくないですよ! いや、でもちょっとだけ欲しいかも……てか結局探すのは僕じゃないですか!」

「オレ、この戦いが終わったら結婚するんだ」

「死亡フラグ立てて同情引こうとしないで下さい!」

「よし、ネトゲのレベル上げを手伝おう。初期ステータスから完ストまででどうだ?」

「そんな廃人じゃないです!」

「ならば君の彼女になろう」

「……なっ!」

「冗談だ」

紗蔵先輩はそう言って、また人の悪そうな笑みを浮かべる。いや、どちらかというとおもちゃで楽しそうに遊ぶ子供のような顔だ。……どっちにしろたちが悪いけど。

この後、談笑部部室にて、数十分にわたってこんな感じの会話、もとい論争……いや。

『談笑』が繰り広げられた。






そして結局、僕は半ば無理矢理談笑部に入部させられることになった。

「最初から素直に入部してればよかったのに」

「別に今でも入りたいなんて思ってないですよ……」

「まぁまぁ、そう拗ねるな。あと、私のことは白と呼んでくれ。あまり苗字で呼ばれるのは好きじゃないんだ。私も君のことは氷柱君と呼ばせてもらうよ」

「……わかりました。白、先輩」

「うん、素直でよろしい」

いきなり白先輩が髪の毛をくしゃくしゃ掻き乱してきた。

「……ちょ、何するんですかっ!」

「うん、いい顔だ」

「はい?」

「君はどうやら表情が堅すぎるみたいだからね。もっと力を抜いてみたらどうだ」

「…………」

……そんなつもりは全くなかった。少なくとも僕自身は、うまくやれているつもりだった。あの頃から、少しは変われたつもりだった。普通に、年相応の生き方が出来ていると思っていた。

それなのに……何も変わってないじゃないか。彼女と、風樹と出会う前の僕から何も成長していない…………やっぱり、相変わらず他人との間に壁を作ってる……これじゃまるで……彼女との出会いが、意味を持たなかったかのようだ…………そんなの、嫌だ。

「氷柱君?」

「……すいません、何でもありません」

「何か気に障る事を言ってしまったかな? それだったら謝る、すまなかった」

「そんなことないです! ……白先輩は、何も悪くありませんから」

「何か理由があるのかな?」

「……言いたくありません」

「そうか」

先輩はそれ以上深く追求してはこなかった。何も言わずに、さっきまで自分が飲んでいた飲み物と同じ物を作ってくれた。

あったかくて、あまい。ものすごく。

普段なら飲まないような飲み物だったけど、気づけば僕は一口、二口とそれを自然と口に運んでいた。先輩がいれてくれたその飲み物は、とても優しい味だった。

そして、それを飲み終えると、先輩はまた話しはじめた。

「氷柱君」

「はい」

「君の過去に何があったのか私は知らないし、君が教えたくないのなら無理に聞き出す必要もないと思う」

「すいません」

「……でもね」

でも、と先輩は続ける。先輩の口から出てくる言葉から、作為的なものは少しも感じられなかった。諭すようでも、あやすようでもなく、ただただ、自分の気持ちを吐き出しただけ。そんな言葉だった。

「それでも私は君のことをこのまま放っておくわけにはいかないんだ」

「……なんで、ですか?」

「これから先、この部に所属するからには、きっと楽しいことばかりではないと思う」

白先輩は何を言ってるんだろう。一体、何を僕に伝えたいのだろうか。

「危険なこと、苦しいこと、辛いこと、悲しいこと。君にとってたくさんの苦痛が待ち受けているはずだ。もちろんそれは、部活動に限らず、今後の君の人生全てにおいていえる話だ。さすがに、私には君の一生の面倒を見ることはできないし、もちろんそんな義務も権利も持ってないと思っている」

ますます意味がわからなくなってきた。そんなことは当たり前のことじゃないか。先輩とは初対面だし、僕だってこの先の人生のことなんてよくわからないけど、それが楽しいことばかりじゃないことくらいはわかっている。

「でもね、ここにいる限り、ここにいる間だけでも、君には笑っていてもらわないと困るんだよ」

「何でですか、何で白先輩はそこまで……」

「そんなの、当たり前じゃないか」

白先輩の口から出た言葉は、本当に単純で、でも事実で、僕が予想もしなかったものだった。それだけに、反論のしようがなかった。

「だって、ここは談笑部で、私は部長で……そして、君は我が部の大事な部員なんだから。それ以上の理由が必要?」

「…………」

「ん?」

「……くすっ」

「……私は、何かおかしなことでも言ったのだろうか?」

「いえ、そうじゃなくて。ぷふっ」

そうだ、僕はこのままでいいんだ。白先輩が自分の思いを素直に語るように、僕も今の自分を包み隠さずさらけ出せばいいんだ。何も悩む必要なんかなかった。だって、僕はこんなにまで変われてるじゃないか。

「……私は隠し事をされるのはあんまり好きじゃないんだが」

「さっき言ったじゃないですか。無理には聞かないって」

「むむ、それはそうだが」

先輩が可愛らしくぷくっと頬を膨らませる。反応がおもしろくてついついからかいたくなる。でも、今だけはちゃんと伝えないといけない。自分の言葉で、自分の気持ちを。


「……楽しいから」

「ん?」

「楽しいから笑ってる。ただ、それだけです」

僕がそういうと、先輩も優しく笑ってくれた。

「……そうか。それならいい」

「僕、談笑部に入部します」

「だから君の入部はもうとっくに決まっているのだよ」

「それはそうですけど……順番が逆になったけど意思の確認です」

「そうだな。なら、私からも君に一つ言っておくことがある」

「何ですか?」

「談笑部員よ、常に笑顔であれ。これが最初の部長命令だ」

そう言って部長は、白先輩は今日一番の笑顔で微笑んだ。

彼女に触れたものは、何もかもが真っ白になるんじゃないだろうか。もしかしたら、先輩の髪が黒いのは、他人の心の黒い部分を全て取り除いてくれてるからなのではないか、そう思えた。

「了解です。これから、よろしくお願いします、部長」

「あぁ。よろしく、氷柱君」

そうして、僕は談笑部に入部したのだった。

「よし、晴れて君の入部も決まったことだ、乾杯しよう、乾杯!」

「え……」

ちょ、ちょっと待って! まだアレを飲むんですか!? 正直、このペースで2杯目はかなりきつい……そうこう考えている間にも白先輩はポットからコップにお湯を注いでいる。

「あの……」

「遠慮するな! おかわりもたくさんあるからな!」

「でも……」

「どんどん飲んでくれ! さぁ、今日は飲むぞー! ふふふ」

「…………」

僕は、これからの毎日の自分の健康と、明日の朝の胃の調子を心配せずにはいられないのだった……