ケトルベルスポーツの技術は不要なの?格闘技にGSは役に立たない?

ケトルベルのコアなファンの方には、「GSの技術は実戦(格闘技)に使えない。エコノミー的な技術を使うのはよくない。」と耳にしたことがあるかもしれません。しかし、ここで注意したいのは、GS(ケトルベルスポーツ)と、ケトルベルで体を鍛えることは違うということです。



ベンチプレスで大胸筋を発達させ、筋力をアップし、格闘技に生かすことと、ベンチプレスをやりこんでベンチプレスの大会で好成績を残すことは似て非なるものなのです。



競技になってくると、たくさんのルール(衣服の制限や手幅・グリップの指定など)がありますし、おそろしいほどの技術(肘の曲げ方や、腰のそり、チョーキングなど)が必要になってきます。そして「エコノミー」といわれる「慣れ」。何回も何千回もその動作を行うことが必要です。



「ベンチプレスの競技会に出るわけではないので、じゃあ格闘家は寝差しだけやればいいのか?リフターに学ぶものはないのか?」っていうと、それも違いますよね?



ベンチプレスが格闘家のフィジカルを作るために絶対に必要なものだということはみなさんわかっているはずですし、ベンチプレスの選手にウエイトトレーニングのことを指導してもらうことはとてもいいことですよね。なんてったって、200キロ以上もあげちゃう専門家ですから。


動作効率が良くなると、扱う重量がとたんに増えます。例えば、20キロスナッチがギリギリの選手に、16キロ高回数を先にやらせると(もちろんここでGSの技術を教えます)、20キロが驚くほどすんなりできるようになります。20キロで練習を重ねるよりも明らかに成長が早いのです。


そして特に明記したいのは、GSスタイルのスナッチのダウンスイング(ロックアウトから振り下ろす時)に、体幹を非常に良く使うということです。どうしてもあげることばかり意識してしまいますが、実は下ろす時にこそ、普段使わない緩急の使い方、バランス能力が鍛えられます。これは多くの有名選手が効果を実感すると口にしています。


タマゴ(重量)が先か、ひよこ(技術・数)が先かの話をするより、堂々とGSスタイルでやってみてください~♪UFCファイター川尻選手は週3以上GSスタイルで、ケトルベルを使用したトレーニングをしています。これがなによりの証明かと!




ケトルベルでは「使える筋肉」がつく?ダンベルとの違い


たまに「ダンベルでは使える筋肉がつかないので、ケトルベルで使える筋肉をつけたいのですが」と頼まれたりしますが、そういう方にはまず誤解を解いてから教えることになります。

基本的に使える筋肉、使えない筋肉というのはありません。



ケトルベルはすばらしい器具ですが、過度な期待をしてはいけません。神秘の道具ではなく、大変な思いをしながら階段を昇るように一つ一つステップアップしていくのは、他のトレーニングも一緒です。変わったことをしているっていう「やった気」になるのが一番危険です。ケトルベルだって、キツイし、負荷だって回数だってセット数だってあげていかなければなりません。



ではどう違うのか?

一般的なウエイトトレーニングと比べ体へのアプローチが少し違うのです。

ケトルベルの利点の一つに、「クイック種目が比較的容易にできる」ということがあると思います。クイック種目っていうのは、スナッチ、ジャーク、クリーンなどのオリンピック種目ですね。下半身の力でエイヤッと上にあげる種目です。私はショルダープレスでは16キロはとってもきついのですが、ジャークやスナッチなら下半身の力を利用して40回できるわけです。



こういうバリスティックなトレーニングをすると、いわゆるゼロスタート・立ちあがりのスピードがつきます。MMAのタックルもそうですし、打撃の一発もそうですよね。



スピードをつけたい(動作速度を高めたい)→動作テクニックが必要

動作速度は筋力の表れ→動作テクニックは筋力をうまく利用できるということ

動作テクニックの実施には、質量と加速度の積である「力」をうまく利用しなければならない


図を見てください。






赤線は非鍛錬者(なんにもしてない人)

紫は高重量レジスタンストレーニングした人(いわゆるウエイト)

緑はバリスティックトレーニングした人

黒の薄い線は200ミリ秒での力です。


これを見ると、ウエイトしている人(紫)は、最終的な力はもちろん大きいけど、立ちあがりはやってない人とほとんど変わりません。

バリスティックなトレをしている人は最終的な力はウエイトしている人に劣りますが、一瞬の力(黒マスの中の面積であらわされる)は一番大きいですよね。



格闘技界で著名な、あるフィジカルトレーナーの方が「パワー系(バリスティック種目)をやらせたいけど、難しいからまずは基礎から(デッド、ベンチ、スクワットなど)。」と言っていました。そして、怪我をしやすいから、スナッチ等はさけてクリーンをやらせることが多いと。バーベルで行うパワー系種目はとっても難しいです。


長いバーの先に重りがつき、両手が固定されているバーでは高い技術が必要です。20キロのバーに10キロのプレートを2つつけてクリーン&ジャークするより、20キロ2つのケトルベルでおこなうほうが容易です。ケトルベルは関節の自由もきくし、最初はワンハンドでできますし。

オリンピックバーがなくてもできるって利点もあるのではないでしょうか?



オリンピックバーは回転するようになっていて、回転しない普通のバーだと、クイック種目をすると手首がグキッとなり痛めます。ジムにウエイトのセットはあっても、オリンピックバー(10万くらい)はないですよね。