僕は”一滴(ひとしずく)のお水”です。
僕は2年前に放射能による高濃度の汚染水になりました。先ず始めに、僕達ここに居るお水の仲間たちは、汚染水になりたくてなったわけではありません。
今は真っ暗な粗悪な材質で出来た保管容器の中にいます。仲間の一部は容器の劣化した所から漏れ出しています。また僅かな隙間から蒸発して大気に逃げ出した仲間もいます。
僕たちお水は、同じ所でずっと留まることは教えられていません。自然の神様からは地球を常に循環するように教えられてきました。
僕達の年齢は、人間が作った時間で言えば数十億年経ちます。今まで雲になり雨になり山の渓流として川を走り、時にはそのまま地下水になり、時には湖のお水になり、海に辿り着いてきました。そして蒸発し再び雲になることを何度も何度も繰り返してきました。
僕たちは地上に降りた後、地上にいる動物や虫や植物や大地からとても喜ばれてきました。時には木や草に吸い込まれ植物と一緒に仲良く暮らし育ちました。昔は恐竜やマンモスの大きな身体の中にも入り血管や細胞の中で穏やかに暮らしてきました。もちろん人間とも長い間仲良く付き合ってきたつもりです。
2011年3月12日、僕は福島県の地下を流れていた頃、あと少しで海に辿りつくところで突然吸水ポンプのホースで吸い取られました。
その時『原子炉の冷却水として早く注入しろ!』と叫ぶ声が聴こえました。僕たち近くに居た仲間達は訳が判らないまま原子炉の中に注ぎ込まれました。
原子炉の中には熱い燃料棒というものがあり僕たちお水は、その熱い燃料棒の冷却水として使われました。その中はもう熱いのなんのって言葉になりませんでした。
僕たちお水の仲間は、ずっと高熱の中を循環し今まで頑張ってきました。高熱の中をずっと耐えてきたのに僕たちは、誰からも感謝の言葉を掛けて貰えませんでした。
熱い燃料棒近くに居た時『高濃度になってきたからそろそろ冷却水を入れ替えて保管施設に移せ!』と言う叫び声が聴こえました。その時も僕たちお水仲間たちは、周りで何が起こっているのか判りませんでした。
僕たちの仲間は、人間が作った原子力発電所の燃料棒を冷やすために冷却水として、このように利用されてきたのです。
そして気付いてみたら冒頭に述べたように僕たちが今押し込められている部屋は真っ暗な仮設容器の中です。僕たちを時々計測する人たちから『何ベクレル』とか『何ミリシーベルト』とかの声が聞こえ記録用紙に記載されているようです。
暗くてとても不安なので今ここに居るお水の仲間たちと話しています。この保管施設に貯蔵されている僕たちは”汚染水”と呼ばれ日本や世界の人々から一番嫌われた存在ではないかと言う噂が拡がっています。
僕たちがこの場所から外に出ると地上の人達はここの仲間を”汚染水”と呼び地球上で最も酷い悪魔のように言ってるようです。僕たちは地球上で一番の嫌われものになってしまったようで本当に悲しくなります。
今まで数十億年の間、地球の血液と呼ばれ自然界で活動してきた中で、人間からこのような酷い差別を受けたのは初めてです。
聞くところによると僕たちが普通のお水に戻るまでに何千年も何万年も時間が掛かるようです。状態によっては普通のお水に戻るために何億年も掛かるお水もあるそうです。
僕たち”一滴(ひとしずく)のお水”は地球のため自然のために産まれてきました。しかし今ではこの地球上で一番の嫌われものです。
心ある地球上の皆さん
僕たち”一滴(ひとしずく)のお水”は、長い間自然と共に地球を循環して暮らしてきました。好きで汚染水になったわけではありません。今のように放射能による高濃度な汚染水と呼ばれ地球上で一番の嫌われ物になった僕たち仲間を地上の動物や植物や大地と過ごせるお水に早く戻して下さい。
僕たちが産まれた故郷は皆さんと同じこの地球です。僕たち”一滴(ひとしずく)のお水”は、地球の血液として自然の中で普通に暮らしたいのです。
僕たち”一滴(ひとしずく)のお水”のささやかな気持ちを少しでも多くの皆さん判って下さい。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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