産業保健推進センターの末路 | 臨遥亭の跡で働く医系技官の独り言

臨遥亭の跡で働く医系技官の独り言

心に移り行くよしなしごとをそこはかとなく書き連ねています。

 20世紀の末、昭和の終わりから平成の初めにかけて、まだ、バブル経済の余韻が色濃く残っていた頃に生まれた「産業保健推進センター」(全国47か所)が終焉を迎えようとしている。同時期に生まれた「地域産業保健センター」(全国347か所)は、一足先に平成21年度末を持って、15年余りの短い生涯を終えた。

 地域産業保健センターは、産業医を選任する義務の無い小規模事業場(労働者50人未満)に対して、産業医に代わって産業保健サービスを提供するという目的で始められ、産業保健推進センターは、この地域産業保健センターも含めて、産業医の活動を支援するという目的で設置された。
 ちなみに、50人以上の事業所には、産業医(健康管理医)を置くことが義務付けられているのだが、私も含めて名目だけで有名無実と化している産業医(健康管理医)も少なくない。

 産業保健推進センターが設置された当時は、今と違って景気が良く、働き過ぎによる過労死が話題になったりして、人手不足が顕著な時代であった。大学3年の終わり頃には、既に卒業後の就職先が内定しているという学生も少なくなかったし、銀座や新宿などの繁華街では、タクシー待ちの行列ができて、近距離の客は乗車拒否されるという、今とは別世界のような時代であった。(当然、この時代には、いわゆる居酒屋タクシーなどは存在しなかった。)

 その頃の労働保険特別会計(雇用(失業)保険と労災保険)は、今よりも格段に低い失業率、正社員を中心とした高い賃金水準を背景として、大いに潤っていたので、保険料の引き下げを求める事業者や、労災傷病の認定条件緩和を求める労働者の声をかわすために、国は産業保健に力を入れていた。

 しかし、時代は変わり、派遣社員の増加と賃金カットにより保険料収入は減る一方の中、失業率の増加等により給付(支払い)は増え、労働保険特別会計の収支が悪化する中で、地域産業保健センターは今年2月、大幅な業務の削減・経費の節減が行われ、全国347か所から47か所へ7分の1以下に集約されることになった。
 支援対象となる地域産業保健センターの集約・減少に伴い、当然、産業保健推進センターも集約されることになる筈であった。

 労働者健康福祉機構は、今回の事業仕分けによる業務見直しの結果と言っているようであるが、全国47カ所ある産業保健推進センターを3分の1に集約するというのは、今年の初めごろから決まっていた既定路線であろう。

 それにしても、1万4000人もいる職員のうち、僅か61人しか削減しないのに、9億2000万円もの支出が減らせるということは、どういうことだろうか。今回、解雇される彼らに対して、一人当たり1,500万円もの給与を支払っていたということなのであろうか。

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産業保健推進センターの目的
 産業医、産業看護職、衛生管理者等の産業保健関係者を支援するとともに、事業主等に対し職場の健康管理への啓発を行う。

産業保健推進センターの業務
1. 窓口相談・実施相談
産業保健に関する様々な問題について、専門スタッフがセンターの窓口又は電話、電子メール等で相談に応じ、解決方法を助言しています。
2. 研修
産業保健関係者を対象として、産業保健に関する専門的かつ実践的な研修を実施しています。また、他の団体が実施する研修について、講師の紹介等の支援を行っています。
3. 情報の提供
メールマガジン、ホームページ等による情報提供を行っています。また、産業保健に関する図書・教材の閲覧等を行っています。
4. 広報・啓発
事業主、労務管理担当者等を対象として、職場の健康問題に関するセミナーを実施しています。
5. 助成金の支給
事業場が産業医を選任する費用の一部助成、深夜に働く労働者の健康診断費用の一部助成を行っています。
6. 調査研究
地域の産業保健活動に役立つ調査研究を実施し、成果を公表・活用しています。
7. 地域センターの支援
地域産業保健センター(平成21年度までは全国347か所、労働基準監督署ごとに郡市医師会への委託事業として実施。平成22年度からは全国47か所、県医師会等への委託事業として実施予定)の活動を支援しています。

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雇用・労働関連の2独法が改革案 厚労省事業仕分け
【2010/4/15 日本経済新聞】

 厚生労働省が行政のムダを洗い出すために15日開いた独自の事業仕分けで、労働・雇用関連の2つの独立行政法人が改革案を示した。
 労災病院の運営や労災予防事業を手掛ける労働者健康福祉機構(川崎市)は、全国47カ所ある産業保健推進センターを2011年度までに3分の1程度に集約する。約1万4000人いる職員のうち61人を削減し、全体で国の財政支出を9億2000万円減らす。
 高齢・障害者雇用支援機構(東京・港)は11年度の雇用・能力開発機構との統合に伴い、本部を千葉市に移転する。また高齢者を雇用する企業向けの給付金の事務を、外部委託方式から機構による直接実施に切り替える。16億9000万円のコスト削減につなげる。
 これらの改革案に対し、民間有識者の仕分け人からは「さらなる見直しが必要だ」との指摘が相次いだ。