朴大統領の6ヶ月、あるいは上半期の経済 | Korea Economic News by KANI

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朴槿恵大統領の6ヶ月

1.序
 朴槿恵大統領が就任してまもなく6ヶ月になる。日米では景気回復の兆候が一部に見られるが、欧州経済は今も不安定な状況が続き、新興国の成長率低下や、中国のシャドーバンキング問題など、世界的な経済の安定にはまだ道が遠いと言えるだろう。

 ここでは朴槿恵大統領最初の年である2013年韓国経済の動きをを、上半期の数値を中心に解説する。


2.輸出動向
 韓国通商産業資源部の発表によると、2013年上半期の輸出は前年同期比0.6%増えた2,767億ドル、輸入は同2.6%減の2,571億ドルで、貿易収支は196億ドルの黒字であった。

 品目別輸出増減
  無線通信機器 30.0%(前年同期比、以下同じ)
  家電     10.3%
  半導体     8.6%
  石油化学    7.7%
  自動車部品   5.1%
  液晶デバイス  1.3%
  
  船舶     -25.3%
  鉄鋼     -11.9%
  パソコン   -3.0%
  石油製品   -2.1%
  自動車    -1.7%
  一般機械   -1.7%

 無線通信機器は携帯電話(スマートフォン含む)であり、家電や半導体の増加とあいまって、上半期に売上19%増、営業利益51%増を達成した三星電子の業績に結びつけることができる。しかし、2012年上半期に無線通信機器は前年同期比32.3%減っているため、増加幅には基底効果を考慮する必要がある。

 自動車部品の増加に対して自動車輸出が減少しているが、ストライキで生産に支障をきたした現代自動車が、韓国での減産と同時に国外生産を増やしていることと無関係ではないだろう。現代自動車の実績を見ると、国外販売台数は2013年上半期に前年同期比11.2%増加した205万8189台であったのに対し、国外生産は同23.2%増の146万7391台、韓国からの輸出は同10.4%減った59万0798台であった。(国内販売は0.8%減の32万5611台)

 2012年上半期に20.1%、年間で29.8%減っていた船舶輸出は、2013年上半期も改善が見られなかった。これは鉄鋼同様に単価下落が影響したと、通商産業資源部は判断している。

 単価下落で気がつくように、世界的な不況、つまり需要の低下の影響を受け、輸出製品全般で単価が下落している可能性を指摘せざるを得ない。たとえば鉄鋼製品で見た場合、米国では最近鋼管のダンピング調査を開始しているほか、オーストラリアでは鋼板にダンピング関税をかけるなど、韓国メーカーの安売りに対する規制が強まってきている。

 ここで貿易黒字額/輸出額を計算すると7.08%で、2012年の5.48%、2011年の5.9%よりは改善しているものの、2010年の8.6%を下回っている。輸出採算性を求めるには荒っぽい計算であり、2011年と2012年は上半期と通年の両方で輸入が前年比マイナスになったことはなく、2013年上半期の不況型貿易黒字との比較は難しいかもしれない。


3.為替レートと金利
 2012年末に1ドル1070.6ウォンだった為替レートは2013年1月後半からウォン安へ動き出し、7月末には1ドル1111.1ウォンまで値下がりし、8月13日は1ドル1114.70ウォンで取引を終えた。2012年11月の調査では、1ドル1100~1080ウォンを境として、これ以上のウォン高が進むと輸出企業が採算割れを起こすとされていたが、2012年9月から始まった円安によって、対ドル為替レートの変動以上に円の動きが韓国経済を左右する傾向が強まっている。

 円に対する為替レートは、2011年末100円1485.2ウォンだったのが、2012年末には100円1247.5ウォンに、さらに2013年7月末には100円1125.7ウォンにまで円安ウォン高が進行している。ほかにも要因はあるが、これによって、2011年に41.3%増だった対日輸出は、2012年-2.0%、2013年上半期は-10.8%となっている。

 ドル・ウォン為替レートに話を戻すと、2012年下半期から続いたウォン高のような一貫した傾向は見られなくなり、特に春以降しばしばニュースや憶測が流れた米国の出口戦略のように、国外要因によって乱高下する様相を見せている。

 韓国銀行は、金仲秀(キム・チュンス)総裁の基準金利はすでに下げるだけ下げていて、これ以上の景気対策は政府が取るべきとの主張もあり、5月に0.25%引き下げて年2.5%とした以外の動きはなかった。朴政権が本格的に動き出した第2四半期(4~6月期)は、政府の公共投資など財政執行の効果があってGDPが前年同期比1.1%成長を見せたこともあり、今後も基準金利を引き下げる可能性は低いままとなっている。

 朴大統領の公約だった福祉の増大と景気低迷による税収減をうけて、国債増発の可能性が高まったことから、昨年から続いていた長短金利の接近や逆転現象は解消に向かい、3月下旬には一時国債3年物が2.45%、5年物2.51%、10年物2.73%を記録した国債金利は上昇して、7月末の時点で3年国債は3.21%になっている。


4.住宅市場
 住宅価格の反騰が期待できないために、市場から活気は完全に失われている。市場刺激策だった住宅取得税減免処置は2012年末に期限切れとなり、年明けの住宅売買が急減した。価格も一気に下落し、ソウル市内のアパート平均売買価格は2013年1月の時点で前月比0.4%、前年同月比では4.7%の下落を見せた。

 4月に入ってから1月1日まで遡及適用する減免処置を再施行したが(4・1対策)、これも税収減を恐れた6月末までの時限処置であったため、第2四半期に右肩上がりを見せていた住宅売買は7月には激減してしまった。

 2013年の月間住宅売買件数は次のようになっている。
 1月  20,070戸
 2月  47,288戸
 3月  66,618戸
 4月  79,503戸
 5月  90,136戸
 6月  129,907戸
 7月  39,608戸

 4・1対策の内容はすでに報道で流れていたため2月から売買は復活しており、建設・不動産業界を中心に期限延長を求める声が強まっていたが、先に述べたように税収減を恐れた政府と国会は期限切れを選択し、6月の駆け込み需要と7月の急減に至った。

 身近な財テクである住宅売買市況に明るい材料が見られないことや、不景気による所得減や失業のリスクによる住宅ローンの負担増への不安から、賃貸住宅に住み続けようとする傾向がさらに強まり、伝統的な賃貸システムである傳貰(チョンセ)の保証金は上昇を続けている。以前は傳貰率(傳貰保証金額/売買価格)が60%を超えると賃貸から自己所有へ需要が移動するとされてきたが、すでにその常識は通用しなくなっている。

 一例として、7月第3週のソウル市内平均傳貰保証金額と、首都圏平均アパート売買価格を比較した記事を参考にすると、次のようになった。

            2008年   2009年    2010年    2011年   2012年    2013年
 ソウル傳貰   2億0051万 2億0091万 2億2089万 2億5214万 2億6721万 2億7706万
 首都圏売買   3億0540万 2億9944万 3億0026万 2億9615万 2億8753万 2億8013万


 東京で言うならば、23区で住宅を2年間賃貸するのに必要な金額と、郊外のマンション価格が同等になったといえば良いのだろうか。もちろん保証金は退去時に家主から全額返済されることになっているが、大家自身もローンで物件を購入している例が多く、大家自身の滞納や破産によって保証金が帰ってこない事例が増加している。このため、ローンが残っていない物件の人気が高まり、立地や築年数、間取りといった本来の価値とは無関係に、ローンが残っている物件は傳貰保証金を引き下げなければならなくなるなど、賃貸住宅取引も混乱を増しつつある。

 また3億ウォンは現在のレートでおよそ2,700万円になる。傳貰保証金が毎年数千万ウォンも値上がりしているため、これを借金で用意していた場合の金利負担もバカにならない。物価の上昇に追いつかない所得とあいまって、庶民の懐具合はさらに苦しくなり、消費を落ち込ませる悪循環が始まっている。


5.産業
 第2四半期のGDP成長率は前期比1.1%、前年同期比2.3%で、前期比で1%を上回ったのは9四半期ぶりになった。また上半期全体では前期比1.9%の成長で、補正予算を組んだ政府支出が0.3%押し上げたと韓国銀行は分析している。

 しかし景気の先行き不安から企業の投資は停滞が続いていて、上半期の設備投資は8.57%減を記録するなど民間による景気回復は望めない状況が続いている。6月から7月にかけて産業生産統計、特に工業生産の一部に増加が見られたことから景気回復の兆候を期待する見方もあるが上昇幅は微少であり、輸出依存度が高い韓国では世界的な動きをにらみながら設備投資を決定しなければならないため、国外要因に明確な動きがなければ、韓国での動きもまた生じないことは確実と判断できる。

 金融機関の業績は急速に悪化した。KB、ハナ、ウリ、新韓の4大金融持株の2013年上半期の純利益を前年同期と比較すると、それぞれ-50.3%、-63.6%、-63.0%、-29%と惨憺たる有様だった。低金利と資金需要減による純利子マージン(NIM)低下、保有債券等の評価損や運用益減少、そして企業融資の不良債権化による引当金負担が原因にあげられる。これらは第2金融圏の貯蓄銀行や保険にも共通した問題で、各社で減益や指標の悪化が相次いでいる。

 証券業では株価下落を嫌った個人投資家離れも影響したと見られ、第2四半期の業績を前年同期と比較した場合、三星証券は売上46.7%増(1兆989億ウォン)に対し営業利益-63.29%(154億ウォン)、現代証券は売上71%増(8549億ウォン)に営業赤字(255億ウォン)と発表されている。

 また、消費を引き締める動きが拡大しているために、カード会社の取扱額が従来ほど増えなくなり、第2四半期のカード承認額増加率は4.1%と史上最低を記録した。日常の買い物でもクレジットカードを多用する韓国では、カード使用額が消費傾向を判断する重要な尺度になっている。しかしこれは金額であり、生鮮食料品など変動率が高い商品を含めた物価上昇率を考えると、ほとんど消費は増えていないと判断できる。たとえば第2四半期のGDP成長率は前年同期比2.3%であり、物価上昇を除いた実質的なカードの成長率も大差ないものと思われる。


6.政権の動き
 景気の悪化により2013年上半期の政府税収は前年比10兆減少し、住宅取得税のほか各種減税措置では期限切れを待ち、再延長を中止して、税制の大幅な改正を目指している。朴大統領の福祉公約実現のためには現在の税制では歳入が不足するためだが、所得の増えないサラリーマン層からは増税に反発する声が強かったため、大統領は全面的な見直しを支持した。しかし代案は乏しく、増税となる年間所得のラインをどこに引くか、地下経済の陽性化や自営業者の監視強化、あるいは税務当局による査察強化といった意見まで出るほど迷走している。



7.展望
 4月に操業を完全に停止し閉鎖された開城工業団地の再交渉に一定の進展が見られ、数ヶ月の期間において南北リスクが高まる可能性は低いと思われる。米国の大規模量的緩和の縮小(出口戦略)と、中国のシャドーバンキング問題が下半期の韓国経済に大きな影響を及ぼすものと思われる。この二つは確実に到来し、いつ、どの程度の規模で韓国に影響を及ぼすかだけが問題になると言ってもよい。

 韓国経済に与えるもう一つの国外要因が日本である。アベノミクス、異次元緩和が生んだ円安・ウォン高だけでなく、高まりつつある両国の反日反韓感情がどのような影響を与えていくのか計り知れない。

 これら諸問題が爆発することなく、ユーロ圏も落ち着きを取り戻すのならば、2013年は年間GDPで3%弱程度の成長率を見せるものと思われる。しかしこれは韓国国内では何も改善されないままの数値であり、新たな何かが始まり、新しい方向へ動き出していることを意味するものではない。少しぐらい食べるものが減ったところで即座に死ぬようなことはない。だが、食べ物を増やす努力をして増やすことに成功しなければ、体は徐々に弱っていき、ついには衰弱死に至る。

 国民の困窮を省みることなく不毛な儒教論争に耽溺し、ついには国を滅ぼさせた朝鮮の貴族「両班」が、いまも韓国の政界にはびこっているような気がしてならない。歴史は繰り返すともいうが、自ら繰り返すとしたらそれは愚行である。


みなさまのご愛読に感謝申し上げます。引き続きご指導ご鞭撻、叱咤激励をお願いします。

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