【小論】韓国の景気回復の可能性を探る | Korea Economic News by KANI

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韓国の景気回復可能性を探る 2月26日一部修正

1.序
 2013年2月25日、韓国では初の女性大統領朴槿恵(パク・クンヘ)が就任し、5年間の政権が発足した。前李明博(イ・ミョンバク)政権は就任前年にリーマンショックが起き、急激な通貨安と外貨の減少に悩まされ、ギリシャに始まるユーロ圏財政・金融危機の影響を受け、世界的な景気低迷の嵐に飲み込まれた苦難の5年間であった。このため輸出企業が牽引する韓国経済は、ついに2012年にはGNP成長率が2%台に落ち込む不景気に悩まされ、朴政権による景気回復への期待感が高まっている。

 ここでは韓国経済の現状を分析し、朴政権の政策課題から韓国経済回復の道筋と可能性を探る。


2.韓国経済の現状

 名目GDP 1兆1164億ドル

 輸出額   5552億ドル
 輸入額   5244億ドル
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 貿易総額 1兆0796億ドル
 貿易収支   309億5千万ドル

 経常収支   265億ドル

 日本貿易振興機構(JETRO) http://www.jetro.go.jp/world/asia/kr/stat_01/ から作成。以下の数値も同所から。

 上に挙げたのは2011年の韓国の貿易と収支である。貿易総額1兆ドルに対して2.8%の貿易黒字は少ない額だと言える。また、輸出額に対する貿易黒字額でみると5.9%になる。東日本大震災前の2010年の日韓両国の数値で比較してみる。

韓国
 貿易総額対貿易黒字比 4.49%
 輸出額対貿易黒字比   8.6%

 名目GDP 1兆0147億ドル

 輸出額   4664億ドル
 輸入額   4252億ドル
 --------------------
 貿易総額  8916億ドル
 貿易収支   400億8百万ドル

 経常収支   294億ドル

日本
 貿易総額対貿易黒字比 6.17%
 輸出額対貿易黒字比  11.83%

 名目GDP 5兆4885億ドル

 輸出額   7670億ドル
 輸入額   6914億ドル
 --------------------
 貿易総額 1兆4584億ドル
 貿易収支   907億6千万ドル

 経常収支   2041億ドル

 日本と比較して、貿易黒字額の比率がいずれも低いことがわかる。また、2010年から2011年にかけて輸出入額の両方が増えているにもかかわらず、貿易黒字額が減っている。

 さらに韓国の2012年の数値は、現地報道によると次のようになっている。

 貿易総額対貿易黒字比 2.67%
 輸出額対貿易黒字比  5.48%

 輸出額   5481億ドル
 輸入額   5196億ドル
 --------------------
 貿易総額 1兆0677億ドル
 貿易収支   285億ドル

 貿易総額及び輸出額に対する貿易黒字額の低下幅は縮小したものの、さらに悪化している。2011年に韓国マスコミは東日本大震災の影響で日本の輸出が縮小し、韓国の輸出が増えると期待していた。たしかに前年の2010年に比べて輸出額は増えたが、貿易黒字額は減少してしまっている。また2012年は輸出入とも減少し、あわせて貿易黒字も縮小した。2012年11月から急激に進んだ円安が韓国の輸出を脅かすといわれてるが、当日の為替レートで決済する貿易というのは考えられないため、円安の影響は2013年に入ってから出てくると判断してよい。

 為替レートの面で思考するならば、2012年5月末にユーロ危機への緊張が高まったことによって韓国からキャピタルフライト(資本離脱)が進んだことによるウォン安もあったが、同年8月末に相次いだ国際格付け機関による韓国債格上げによってウォン高が決定付けられている。

 むしろ韓国は、2011年に対EU、2012年には対米FTAを発効させていて、輸出が大幅に伸びると期待されていたのだ。世界的な景気低迷を受けた需要減と輸出単価の引き下げが続き、貿易黒字額と貿易総額や輸出額に対する比率が悪化したと考えられる。

 韓国経済の特徴は、名目GDPが貿易総額よりやや多い程度という高い貿易依存度にある。国内製造業の多くが輸出に特化され、輸出によって国内経済を動かす構造になっているということだ。これは世界的に需要が高まっている好景気の環境下では順調だが、需要が低下したときに受ける影響もまた大きいことを意味する。

 また、貿易収支に比べて経常収支の黒字が少ないことは、貿易(商品)以外の輸入が多いことを意味する。具体的には技術や商標などの使用料や、国外投資のリターンと国外からの投資への配当支払、観光客など人の出入り(外国人観光客が増えることは、観光の輸出を意味する)などが、総体として赤字になっているわけだ。

 もう一つ、輸出額に対する貿易黒字の比率が低いことは、輸出1単位で稼げる金額が少ないことを意味する。たとえば2010年に日本は100ドル輸出したときに11.83ドル稼いでいた計算になるが、韓国の場合、2010年は8.6ドル、2011年5.9ドル、さらに2012年には5.48ドルと、輸出採算性の低下が続いていることになる。

 この輸出採算性の低下は当然韓国内で吸収しなければならない。まずは輸出企業の採算性が悪化し、従業員や納品元にしわ寄せが行き、内需をさらに悪化させる原因になる。

 韓国の景気低迷は、世界的な需要減による輸出採算性の悪化と、それによって増幅された内需低迷が原因ということが出来るのだが、長引く不況による先行き不透明感は、バブルが心配されていた不動産、特に住宅に大きな影響を与えている。韓国にもマイホームを持つという夢はあるが、それは終の棲家ではなく、値上がりを期待して購入する身近な財テクでもある。リーマンショック後もしばらく冷めなかった不動産投資熱によって、売買差益を期待して無理に住宅ローンを組んでしまった人々が、住宅価格の値下がりと所得の低下によって返済に苦しむハウスプアに転落しようとしている。

 また不動産投資熱と、好景気に浮かれた地方自治体の相次ぐ開発計画によって建設会社も積極的に開発に乗り出し、開発益や転売益を目論む有象無象の開発業者を生み、金融機関もそれらに融資をしていた。景気の悪化と採算性問題が浮上して、これらの多くは停止されたり見直しされたりしたのだが、その過程で金融機関の不良債権が急増してしまった。とくに拡大路線を進んでいた貯蓄銀行に大きな影響を与え、2011年1月から2013年2月までのおよそ2年間に26行が破綻したほか、経営が悪化している貯蓄銀行も多数に上る。


3.国際金融上の課題
 2013年2月の韓国の基準(政策)金利は年2.75%である。景気対策として日米欧の中央銀行が軒並み0%台の低金利になっていることと比較すると高金利に見えるが、新興国として見た場合は低金利に属する。事実、韓国においては史上最低金利時代に突入していて、高騰している物価と期待インフレ率が3%に達していることから考えると、実質的にはゼロ金利に近い状態に陥っていると見られる。また、韓国の潜在成長率は3%前後と見積もられているほか、李明博前大統領は就任時に経済成長率7%を目標に掲げていたように、5%以上の成長に慣れ、それが当然と受け止められていた。

 しかし、韓国国内的には低金利だったとしても、日米欧の投資家(ファンド)がそれを見逃すはずもない。不況と低金利によって運用に悩んでいたファンドにとって、韓国の金利は魅力的に映る。韓国ではIMF危機と呼ばれているアジア通貨危機で外貨枯渇に苦しんだ韓国は、外貨準備高の増減に極めて敏感になり、また急激な外貨離脱が生じないように、貿易収支黒字や経常収支黒字の維持に腐心するとともに、国債発行も厳しく制限することで、プライマリーバランス(基礎的財政収支)の数値を良好に保つ努力を続けてきた。これは2012年8月から9月にかけ、S&P(スタンダードアンドプアーズ)、フィッチ、ムーディーズの世界的格付け会社による格付け引き上げとして実を結ぶのだが、経済が安定していることを世界にアピールしたことで、皮肉にもウォン高が進行してしまったのだ。

 もちろん過去には1ドル900ウォンに迫るウォン高の時代もあったが、世界的に景気が悪化している現在、輸出価格の上昇は企業にとって大きな問題になる。通常ならば通貨が高くなるとともに輸出減と輸入増の現象が生じ、貿易収支や経常収支が悪化するために通貨高にブレーキがかかり、通貨安の方向に進む。しかし、輸出で稼がねばならない韓国は、輸出減を受け入れることは出来ない。通貨が高くなっても輸出価格を上げることが難しいのならば、その負担を国内で吸収するしかないということは、前章で述べたとおりである。

 一般論として国内景気だけを見た場合には、韓国はさらに金利を引き下げる時期が来ていると考えられる。しかし金利の引き下げは、それだけ韓国の投資魅力が落ちたことを意味し、急激なキャピタルフライトまでは進まないとしても、国外資本離脱のきっかけになるには充分である。

 また、韓国企業と金融機関は貿易決済のために基軸通貨である米ドルなど外貨を必要としているが、これを国外金融機関からの借入で調達しているので、この運用と返済時期、あるいは借り換えに注意を払わねばならない。特にウォン安の方向に進んでいるとき、つまりウォンが売られドルが買われている場合は条件が悪化する。現金でいくらウォンを持っていても得られる外貨は少なくなるうえ、借入金利も上昇するためだ。

 何よりもウォン為替相場の安定が求められているわけだが、貿易依存度が高いのと同様に、外資による投資と借金に依存している韓国は、国際的な金融情勢の悪化によるキャピタルフライトを心配しなければならず、中央銀行である韓国銀行と政府金融当局は動くに動けない状態に陥ってしまっている。


4.朴政権政策課題に見る景気対策
 2月25日に行われた就任式演説と、それに先立って発表された朴政府の政策課題には具体的な経済数値目標が見られない。雇用率70%という目標はあるが、具体的な政策に乏しい。

 朴大統領は就任演説で、「経済復興」、「国民幸福」、「文化隆盛」と三つを並べ、政権運営方針とした。経済復興の核心は創造経済と経済民主化であり、前者は創意と熱意ある人材の育成による技術革新や文化を含むソフトウェアによって、後者は大企業と中小企業の共生と、大企業による不正を正すことで成し遂げると述べている。

 創造経済は文化隆盛ともつながり、演説中に『文化と先端技術が融合したコンテンツ産業育成を通じて創造経済を牽引』すると述べていて、現在輸出の中心をなしている電機・電子、自動車、造船などのハードウェアから、産業の主軸をソフトウェアに移行させることを意図しているものと見られる。すでに韓国企業では現在の主力輸出産業も、5年から10年以内に競争力を相当落とすと見込んでいるため、国内経済を維持するために変革を促す内容と考えられる。

 国民幸福は、高所得者を除いたほぼ全ての高齢者を対象にした国民幸福年金の創設などで、福祉支出拡大が必須になる。景気対策には、公共投資のように政府の財政出動が定番であるが、福祉予算増のあおりを受けて削減が進むものと見られる。増税や国債増発による財源調達も考えられるが、不況時の増税は更なる景気悪化を呼ぶ可能性が高く、また国債増発はプライマリーバランス維持の問題と、額によっては金利の上昇も考えられるために、慎重にならざるを得ない。


5.結論
 景気回復と貿易(外需)依存率の高さを是正するために内需拡大が叫ばれているが、必要な物資の多くを輸入している韓国での内需増、すなわち国内消費増は輸入増を意味するため、貿易・経常収支赤字の可能性が高まる。

 輸出額に見合った輸入が韓国経済安定の大前提であり、特に経常収支赤字は企業と金融機関の外貨借入が増すために不安材料になる。世界的な景気回復によって韓国の輸出が増えなければ、バランスが取れない。

 自力で回復するためには、莫大な量の外国人観光客を誘致するしかない。その可能性と、誘致できるだけの魅力はあるのか疑問が残るほか、そもそも世界景気が回復しなければ、韓国を目指す外国人が増えることを期待しにくい。

 結論として、韓国社会全体に及ぶ大規模なパラダイムシフトを終えない限りは、世界景気が回復するまで、耐えて耐えて耐え続ける以外の方法はないと言うことが出来る。

 韓国には社会的な大変革が必要であり、それは経済民主化のような業態や業界をいじる程度のレベルではなく、強い意志を持って国民が成し遂げなければならない。これは、「創造経済」による経済発展と同じく時間がかかるものであり、意志の共有に失敗したり変革が停滞することになれば、結果的に外部環境の好転をただ待つ結果になるだろう。


,(V)   (V) 、
ミ( ゚w゚)彡
 <いかがでしたでしょうか。2MBの総決算にはなりましたが、具体的なものがないクンヘノミクスに関しては分析とは言いがたいものになってしまいました。
(2月26日、戴いたコメントと返答をもとに結論に文を追加したほか、一部文言や誤りを修正しました)

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