3.サクラサク | 携帯男

3.サクラサク


―― 面接にて



「うちどもは出会い系サイトをしてるんですけどね。やっていただくお仕事の内容はですね。あの、いわゆるサクラの仕事なんですよ。」


面接をしてくれた社員(森野氏)はまだ若かった。私より4、5歳年上くらい。


鋭角的な、くだけたデザインのスーツを着込み、金縁のメガネをかけワイルドな感じの無精ヒゲを生やしていた。


ヤッピー系?


でも、語り口は非常にソフトだった。


「サクラですか?」
客のふりをしてサイトへ人を呼び込む仕事を想像した。


「うちのシステムはですね、まず女性と出会いたい男性のかたと、男性と出会いたい女性のかたに、それぞれ自分のプロフィールをサイトにのせてもらいます。それで気に入った異性が見つかったらその相手にメールを出すんです。どっちからでもいいんですがね。」


手順が流暢にでてきた。たぶんこの人は、この内容の面接を何度もしてきてるんだろう。


「で、好みの相手と何通かメールでやりとりして、意気投合すれば約束してどこかで会ったりとか… ま、交際相手の紹介窓口みたいな役割ですね。ちょっと履歴書あずかりますね…」


テーブルの上から、履歴書を入れた封筒を取ると中に手を入れた。


「でも、どうしても男性の方が登録会員の数が、かなり多くなっちゃうんですよ。そこで女性のキャラクターを作成してもらって、女性利用者になり代わって男性にメールを送ってもらいたいんです。男性と女性の数がつりあわないと、男性客が逃げたりしてサイトとしてやっていけないというか… 男性と女性の人数差を埋める役割をお願いしたいんですね。」


はじめはしくみがよくわからなかった。
「それだけで、お給料がもらえるんですか?」


「えぇ、もう細かいやり方とか、うちの会社なりのものができてるんで。管理の言うことに従ってやってもらえれば大丈夫です。でも、勤務態度が悪いとか、よくよくのことがあれば減給とか罰はありますけどね。」


森野氏はわたしの履歴書をみて、2、3質問をしてきた。
その後、給料の〆日や振込み方法などについてしばし雑談。


「じゃぁ、ちょっとついてきてもらっていいですか?」

高いパテ―ションで仕切られた、作業場へと通された。


奥にこんな場所があったとは…


そこは、広いオフィスのフロアで、
いくつかのデスクを組み合わせた島が均等に、整然と並んでいた。
後で知ったことだが、この一つの島が、一つのサイト(番組)ということだった。


各自に一台のパソコンが割り当てられ、
男女を問わず、50人以上はいるであろうサクラがパソコンに向かって一心にメールを打っている…


女性キャラを動かすのに、男のサクラが多いのが意外だった。6割くらい。
しかし、メールではこちらが男か女かなんてわからない。
むしろ男の方が、男の気持ちをよくわかってたりして…


客の側は携帯のメールを使うけれど、こちらからはパソコンで出すようだ。
パソコンのキーを打つカタカタという音が幾重にも重なり、木立の葉ずれか、川のせせらぎのようにザラザラと聞こえた。


「ちょっと、この席かりますね。」
とある島の、空いている席をすすめられると、


「ちょっと、入力だけ見させてもらってもいいですか?」
と言われた。キー入力のテストである。


私は問題の文字が出るモニターをみつめながら、少しうわのそらだった。


sakurasaku02.jpg


これって、どこか違法な匂いがする。騙していることにかわりはない。
面接の時に辞退することだってできたのに、どうして「はい」と言ってしまったんだろう…


まずは生活がある。そして職を求めてもつまはじきにされた社会への、ちょっとした復讐心があったのかもしれない。


でも、ここの仕事を選んでなければ、まーちゃんには出会えなかったわけだけど…


「はい、もういいですよ。わかりました。」

入力を制する声が聞こえた。



 ―― 結果は合格だった。