「5分の1の悪霊~THE HUNTER~」前編
「5分の1の悪霊~THE HUNTER~」前編
片田舎の人けのない道。
学校帰りのセーラー服の女子高生、名波舞衣が、雨に降られて濡れながら走っている。
舞衣「もーっ、最悪ぅ!」
走りながらふと、廃屋の軒に気づいて、そこに飛び込む。
「ほっ。止むまで、しょーがないか……」と、落ち着くが、たちまち雨は土砂降りになり、雷鳴が轟き始める。
ガラガラ、ピシャーン!
舞衣「きゃっ!」
すると舞衣の背後で廃屋のドアが開き、すーっ……と、手が伸びてくる。舞衣、気づかず、
舞衣「……どーしよ……暗くなってきちゃったし、早く帰らないと……」
ガッ、と腕を掴まれて、廃屋に引っ張り込まれる舞衣。
舞衣「きゃああああっ!」
すると、引っ張り込んだ男、火史川崇のほうが、その叫びに驚いて飛びのく。
崇「うわあああっ!」
顔を見合わせて、
二人「……」
背後の薄暗がりから、プッ、クスクスと笑い声。
そこには、ちょっとオタクっぽい線の細いタイプのメガネの少年、菊地若丸と、ゴスロリのような服を着た、お嬢様風の少女、美和茜の二人がいて、舞衣と崇の様子に吹いている。
若丸「いきなり腕を掴んで廃屋に引っ張り込まれたら、普通は悲鳴をあげるでしょ」
茜「平気よ。その人、変態じゃないみたいだから」
若丸「さあ~、それはわからないでしょ。5分前にここで知り合ったばかりなんだから」
崇「あ?言ってくれんじゃねーかよ、メガネェ~」と、ガンを飛ばす。
若丸「……」たらっ。
舞衣「あ、あの~……」
崇「おう、悪かったな、驚かして。雨宿りなら、中に入ったほうがいいかと思ってよ」
舞衣「は、はあ……」
(怖そうなんですけど……)と、不良少年風の崇をジーッと見て。
崇「べつに怪しいモンじゃねーよ。ツーリングにきてたら、エンコしやがってよ?(と外のバイクの絵)オマケに土砂降りに雷。でーっきれーなんだ、雷」ピカッ。わっ、となる。
若丸「暴走族を昔はカミナリ族って言ったみたいだけどね?」
崇「あ?メガネ、おめー、やけにつっかかるな?」と、胸ぐらを掴む。
茜「やめてくれないかしら。こんな時に」とクールに。
笑顔で舞衣を見て「大丈夫よ。あたしたちもみんな、雨宿りなの」
舞衣「は、はあ……」
茜、崇と若丸を見て「雨が上がったらサヨナラして、二度と会わないでしょうから、せめて今は仲良くしましょ」
崇「仕切るじゃん、見かけによらず。てか、なにその格好……」
若丸「ゴスロリですか?こんな田舎で、そっち系のイベントでも?」ないか、ハハハ。
茜「ゴスロリって何?ワンちゃんの散歩をしてたら雨に降られたの。それだけ」
と、小犬をよしよし、と撫でている。
舞衣「……」たらっ。
扉があいて、また一人、少年が入ってくる。
美形で、無表情。少年の名前は、神足守留。髪は長めで、線が細いカンジ。
崇「お。また来た。まあ、ゆっくりしてってよ、アンタも。ハハハ」
若丸「キミの家ですか?暴走族サン」
崇「……」と、睨む。
舞衣「ま、まあまあ!そうだ、自己紹介とかしません? いつ雨止むかわかんないし、暴走族とかゴスロリとか呼ぶから角が立つってゆーか……」
他の全員「……」と、舞衣を見る。
舞衣「……ダメ?」と、たらっ。
茜「いいんじゃないかしら。ねえ?」
若丸「いいよ」崇「かまわねーぜ」守留「……」と、それぞれき反応。
舞衣「よ、よかった!あたし名波舞衣です!高校2年でサッカー部のマネージャーしてます!」(以下小さく)「あ、でも元日本代表の名波選手とは関係ありませーん、エヘヘ」
4人無反応。しょんぼりとなる舞衣「……」
茜「あたしは、美和茜。年は舞衣さんと一緒だけど、高校には行ってないわ」
崇「おれぁー、火史川崇だ!」と、背中を向けて「横浜の『悪霊』ってえ、族(チーム)で走ってんだ、夜露死苦!」
皮のジャンパーの背中には、横浜・悪霊の派手なデザインロゴ。
守留「……」と、見て少し怖い顔。
舞衣「?」と、それに気づき。
若丸「はあ……80年代からタイムスリップでもしてきたんじゃないのか?」と、つぶやきつつ「菊池若丸。この近くの合宿所に、受験塾の夏期合宿できてる。ちょっと息抜きに散歩に出ただけなのに、災難だよ、ったく……!」
崇「かーっ、見た目通りのガリ勉野郎か。女の子いなかったら、シメてんぞ?」
若丸「あっそ」
崇「(ピクッとなるが)で、新入りクンは?」
守留「……僕は、神足守留(こうたりまもる)。『悪霊ハンター』をやっています」
全員「?」ときょとん。
守留「危険極まりない悪霊を一匹追いかけてここに来ました」
崇「あ、あの~……ネタか?それ。あんまし笑えねーんだけど……」
守留「ここにいるあなたたち4人の中に、悪霊は潜んでいる。僕は『それ』を見つけ出さなきゃならないんです」
雷鳴が轟き稲光が守留の冷たい表情を照らしだす。
舞衣を除く3人顔も心なしか不気味。
舞衣「……」たらっ。「あ、あのー、冗談……ですよね?」
守留「だったらよかったんですが……」
舞衣「……」たらたら。
崇「おいコラ、小僧ォ?いい加減にしろや?」と、迫ると、
守留「迂闊に僕に近づかないほうがいい」
崇「あ?」
守留「ここにいる強力な悪霊の『におい』に惹かれて、周囲からさまざまな、低級霊や地縛霊が集まってきてる。たいした危険はないが、そんなやつらでも――」
いきなり、バン、と廃屋の扉が開く。
全員、凍りつき「!!」
守留「……これくらいのことはできる。取りつかれたら、やっかいですよ?」と、扉をしめつつ。
崇「……」たらっ、となりながらも「風だろ。フツーに……」
若丸「……で、そのハンターさん……コウタリくんでしたっけ?」
守留「神足守留です」
若丸「その悪霊とやらを見つけたら、何をするつもりなんだい?キミは」
守留「……殺します」
若丸「は?霊をか?」
守留「はい。『宿主』ごと――」と、意味ありげな錆びた包丁を出して「これで」
近くに落雷。
舞衣「!!」と、目と耳をふさぐ。
ゴロゴロ……と音が残る中、茜が、クスッ……と小さく微笑む。
舞衣「……」たらっ。
後編に続く