84,85年の2年間でジョン・トラボルタ出演のCMが終わり、86年は年明けそうそうに凄いプロジェクトが来た。それはカーマ・カメレオンの大ヒットで世界的スターになったボーイ・ジョージを起用しての新シリーズで、商品はタカラ焼酎”純”と”缶チューハイ”の二つがあり、それぞれにオリジナル・ソングを制作するというもの。企画打ち合わせに参加してみて、そのスケールの大きさに驚いた。制作費はCM史上最大だったと思う。ロス・アンゼルスから2時間位フリーウェイを飛ばした砂漠でロケをし、その当時最高のあらゆるCG技術を駆使し合成された映像は、私達の度肝を抜いた。演出は、JR東海・クリスマス・エキスプレスなどで知られる早川和良さん。特殊メイクは”猿の惑星”で有名なメイクアップ・アーティストのリック・ベイカーが担当。音楽についてはクライアントからオリエンタルなサウンドが欲しいとの要望があったので日本人作家から選び、”純”はヒット・メイカーの馬飼野康二に、そして”缶チューハイ”は細野晴臣に、英語歌詞をイギリス人アーティストのクリス・モスデルに、そして日英歌詞のミックスにしたく日本語詞を近田春夫にそれぞれ頼むことにした。
数日後二人からデモ・テープが上がって来た。細野さんにはダンス曲を頼んであったが、予想した通りに普通じゃない物ができてきた。メロを自らラララで歌ってるんですが、それが1オクターブ低いのでなんか暗くはっきりしなくて、何回も聴かないとイメージが掴めず、正直なところかなり不安になりました。それにテクノ系ダンスは縦乗りなのでシンコペーションをあまり使わないんですが、最初から最後までシンコペだらけ。流石! 
映像の説明を少しした方がいいですね。映像はボーイ・ジョージ版西遊記でボーイが三蔵法師に扮し、孫悟空、猪八戒,沙悟浄はリック・ベイカーの特殊メイクによって作られた。ボーイの三蔵法師は彼のモノ・セクシャルな魅力が加わり妖艶で美しく、これ以上ピッタリの役はないだろうと思った。そんな三蔵法師の前で孫悟空達が踊りや歌に興じるオアシスでの酒席の場面に細野さんの音楽がつく。映像はド派手でキッチュに上がって来るのが想像できたので、細野さんの持っているスラップ・ミュージック的な部分とキッチュさが絶対に合うと確信できた。
さてクリスと作詞の打ち合わせ。ボーイと同じイギリス人アーティスト同士なので、私が細かいことを言うより先ず作ってもらうことにした。クリスはとてもアーティスティックでスノッブな人間でしたが、CMを頼んだ時はアーティスティックな部分を残しながら分かり易いものを書いてくれた。馬飼野さんからもいい曲が上がって来て、後はクリスの歌詞が付き次第クライアントとボーイに聴いてもらう為のデモ・テープの録音だ。つづく、、