「羽鳥慎一モーニングショー」菅野朋子氏の都知事選に対するおバカ批判 | マスメディア報道のメソドロジー

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「羽鳥慎一モーニングショー」菅野朋子氏



前回の都知事選舛添要一氏が当選したのは、知名度選挙によるものであると考えられます。これは、知名度で人気がある「勝てる」人物であることををプライオリティにして、政党が候補者を選択するものです。この人気投票の問題点は、選挙において最も重要である「政策」が軽視されると同時に、たとえその人物の政治姿勢に不安があったとしても、知名度に支えられた人気さえあれば不問に処されることです。

皮肉なことに、自民党にとって、過去に党を除名処分にした舛添要一氏は、倫理的な観点から最も支持したくない候補であったことは明白です。それにもかかわらず、自民党が舛添氏を推薦したのは、舛添氏が都民に人気がある候補であることが当時の世論調査で判明したからです。

ところで、奇妙なことに舛添氏が自分の政策を発表する前から都民に人気があったのはなぜかと言えば、明らかに知名度によるものです。政策ではなく「舛添要一」という曖昧なブランドしか見ない一部都民が、マスメディアのインタヴューによって堂々と支持を表明し、それが【バンドワゴン bandwagon】効果をもって肥大化していったものと考えられます。最近では、都知事選の前に「誰が都知事として相応しいか」という街角アンケートが必ずテレビで放送され、そのアンケートで好成績を残すことが都知事の登竜門になるという本末転倒な事態が普通になっています。ちなみに、今回名前が出たのは、橋下徹氏・東国原英夫氏・下村博文氏・小池百合子氏・石原伸晃氏・小泉進次郎氏・蓮舫氏・長島昭久氏・片山善博氏・櫻井俊氏・村木厚子氏・池上彰氏・安藤優子氏等の各氏であり、知名度選挙は既に始まっていると言えます。

こうした知名度選挙の流れのマッチポンプとなっているのが、田崎史郎氏・伊藤惇夫氏・二木啓孝氏・有馬晴海氏のようなワイドショー政治評論家です。非常に面白いことに、ワイドショー政治評論家は、政策を語ることはほとんどなく、ただただ本人や陣営(政党・団体等)の裏事情に関する情報を得意げに流布します。このような本質を逸脱した情報は、単なる「陣営の勝ち負け」に焦点を当てる【戦略型フレーム strategic frame】の報道を生むことになり、その結果として、有権者にとって本当に必要な「政策」に焦点を当てる【争点型フレーム isuue frame】の報道が影をひそめることになります。

この【戦略型フレーム】の報道に簡単に操られてしまうのが、いわゆる情報弱者です。戦略型フレームは、論理的な思考が必要とされる争点型フレームとは異なり、自分の価値観を判断基準とする勝ち負けなので、誰でも簡単に即座にその世界に入ることができます。例えば、安保法制のデモにおいて、政策の意義について理解しているとは到底思えない中学生や高校生が自信満々に反対を唱えました。彼らは政策を論理で批判することなく、ひたすら政策立案者を倫理で批判しました。「アベは辞めろ」「アベ政治を許さない」「アベ政権から立憲主義を取り戻す」「戦争法案絶対反対」などの思考停止のスローガンを論理的根拠なく信じているに過ぎません。そして、自分こそは事情通の正義の味方であると勘違いし、社会を破壊します。細川連立政権、小泉郵政選挙、鳩山民主党政権交代の時の熱狂も【戦略型フレーム】の政治と報道が産んだものです。細川・小泉・鳩山各氏とマスメディアは、政策のフィージビリティをまったく語ることなく、ただただ支持勢力を改革派と賛美し、反体勢力に守旧派というレッテルを貼りました。これに呼応した情報弱者は熱狂的に彼らを応援しましたが、そこに残ったものは、国民から評判の悪い選挙制度・世知辛い新自由主義社会・回復困難なデフレ社会・災害に弱い国土などでした。

現在では、このようなポピュリズム政治の台頭を危惧する国民が増え、戦略型フレームの政権批判を続ける民進党(特に山尾議員や山井議員)・共産党・社民党・生活党などの政党や朝日新聞・毎日新聞・TBS等の一部マスメディアによる「著しく偏向した言説」に異を唱える傾向が強くなってきました。しかしながら、田崎史郎氏・伊藤惇夫氏・二木啓孝氏・有馬晴海氏のような似非ジャーナリズムは、マスメディアから退場することはなく、引き続き、事あるごとに【戦略型フレーム】の報道を展開しています。また、それに乗せられる情報弱者も、少なくなったとはいえ、その一部は健在であり(笑)、例えば週刊文春にスキャンダル記事が掲載されるたびに、記事で悪魔化された人物をヒステリックに批判するという構図が認められます。彼らはいまだワイドショー政治評論家の言説を無批判で受け売りすると同時に「自分は事情通である」と勘違いしています(笑)。

さて、このようなバックグラウンドの中、連日多くの時間をかけて、都知事選に焦点を当ててその内部事情を詳細に示す報道を続けているのが、テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」です。

「羽鳥慎一モーニングショー」

この番組は、舛添都知事のスキャンダルを延々と長時間流し続けましたが、舛添都知事が辞職の意向を固めた翌日の6月16日からは、BREXITショックで大混乱した2~3日を除き、「都知事立候補の噂が流れているのは誰々で、様々な思惑が渦巻く中、各陣営は陰でこんな画策をしている」といったような内容の報道を延々と続けています。候補者から政策が提示されない状態でのこのような報道は、まさに【戦略型フレーム】の典型であり、都民にとっては政策選択への目くらましとなるおバカ報道であると言えます。

ただ、そのおバカさ加減にやっと気が付いたのか、7月5日の放送でコメンテイターの玉川徹氏(テレビ朝日)が次のように発言しました。

玉川 徹 氏
この(都知事選の)スケジュールのカレンダーを見ていると、参議院選挙が都知事選までの通過点みたいになっているじゃないですか。自戒を込めて言うんだけれども、都知事選挙よりも参議院選挙の方が大事なはずですよね。だけど都知事選挙にこれだけ引きずられているということは本当に良いのか。参議院選挙の結果次第では、大反省しなければならないことになるのではないかと最近思っているんですよね。


このコメントは、至極真っ当な論理的意見であると考えます。ただし、制作サイドの構成員である玉川徹氏は、そのように思うのであれば、このような人気投票をプロモートする【戦略型フレーム】のおバカ報道を制作し続けるプロデューサーやディレクターに対して、参院選にプライオリティを置いて報道するよう進言すればよいと言えます。なお、結局この発言は口だけに終わり、その後も連日、同じ類の報道が続いています。

ただ私が問題視するのは、同じセッションでヒステリックに批判を行ったコメンテイター菅野朋子氏による次の発言です。菅野朋子氏の発言は一見【争点型フレーム】をプロモートするように見えますが、実は陣営のパーソナリティを攻撃する【戦略型フレーム】の発言であると言えます。

菅野 朋子 氏
都知事選で注目している割には、(1)「誰になるのか」ばっかりで「中身」が全然見えないんですよ(2)都民にしてみれば「今誰がどういうような都政・東京都を目指すのか」ということがまったく見えてなくて(3)結局「誰になるか」ばっかりで、(4)結局直前になって決まって(5)都民としては判断のしようがないですよね。なんか(6)お祭りみたいになっていて、(7)「それだけに注目しているところが都民をバカにしているような感じ」がするんですよね。


以下、数字で示した7つの箇所について、詳しくディスカッションしたいと思います。

(1)事実としては、その通りであると考えます。

(2)都民が候補者の政策が見えないとすれば、その責任は政策を報道していないマスメディアにあります。立候補を表明している候補者から政策をインタヴューして報道する責務があるのはマスメディアです。一方、立候補を表明していない人物の政策が見えないのは当たり前のことです。立候補するかしないかわからないのに政策を発表するのは著しく不合理であるからです(笑)。菅野朋子氏は、こんな簡単な論理も理解していないのか、勝手に前のめりになっています。何を勘違いしているのでしょうか。

(3)「誰になるかばっかり」報道しているのは、「羽鳥慎一モーニングショー」を始めとするワイドショーです。誰を批判しているかわからないおバカな発言(笑)ですが、発言のその後のコンテクスト(「結局直前になって決まって」の部分)から判断すれば、その批判の対象は「マスメディア」ではなく、「候補者あるいは候補者を推薦する陣営」を批判しているものと考えられます。これは、まだ立候補してもいない人物と陣営に政策を出さないことを批判しているものであり、マスメディアの論理を前面に出した極めて傲慢な態度であると言えます。

(4)今回の都知事選の場合、「直前になって」決まるのは無理もないと言えます。「羽鳥慎一モーニングショー」のようなマスマディアが主導した連日の徹底的批判によって、都知事が急きょ辞任することになり、被選資格者のほとんどが想定もしていなかった都知事選挙を参院選挙直後に行うことになりました。被選資格者と各陣営が混乱するのはあらかじめ予想ができていたことであり、直前まで慎重に調整を続けるのはむしろ合理的な判断であると言えます。

(5)舛添辞任が都民の民主的な意思であったのであれば、公示期間内での意思決定は、都民に課された義務であると言えます。公示期間に不服があるのであれば、法律改正を主張する必要があります。菅野朋子氏の主張はお門違いです。投票の意思決定をするのに2週間以上を必要とする合理的な理由を述べてもらいたいものです。

(6)都知事選を「お祭り」にしているのは、都民でも各陣営でもなく、政策が発表される前から無意味な【戦略型フレーム】の報道を長時間続けている「羽鳥慎一モーニングショー」のような番組を制作するマスマディアであると考えます。

(7)「それだけに注目しているところが都民をバカにしているような感じ」という言葉の主語が「羽鳥慎一モーニングショー」のような「マスメディア」というのであれば強く賛同します。先述したように、マスメディアは、今回も性懲りもせずに【戦略型フレーム】の人気投票をプロモートしています。しかしながら、コンテクストから素直に読解するに、言葉の主語は「マスメディア」ではなく、「各陣営(政党・団体)」であると考えられます。つまり、菅野朋子氏は、結果的にマスメディアが人気投票を誘導していることを棚上げにして、各陣営が人気を気にして候補者選定をしていることをインプリシットに主張していると考えられます。そしてこのナイーヴな【形式的誤謬 formal fallacy】を含む言説を堂々とヒステリックに語るのは、「菅野朋子氏が番組視聴者をバカにしている」ことの証左であると考えます(笑)。もちろん、発言のコンテクストに対する私の解釈が違っていて、菅野朋子氏が番組批判をしているのであれば前言を撤回しますが、その場合でも、「菅野朋子氏の曖昧な言葉遣いは番組視聴者に誤解を与えるものである」と結論付けることができます。



都知事選の告示まであと僅かです。私も、本来首長の選挙というものは、米国大統領選のように十分な時間をかけて行うのが望ましいと考えます。また、政党が候補者を送り出す場合には、予備選を行うのも一つのアイデアであると言えます。しかしながら、今回の都知事選のように、舛添知事が急きょ辞任したようなケースにおいて、このような理想論を適用することは物理的に不可能です。

都民のコンセンサスは、舛添知事の即時辞任にあったと推察されますが、即時辞任とドタバタ選挙はトレードオフの関係にあり、選挙までに時間がないというのは不合理な不服であると言えます。このような初歩的な論理矛盾やマスメディアによる【戦略型フレーム】の報道の責任転嫁を含んだ菅野朋子氏の主張は、政策発表の観点において何の瑕疵もない各陣営を不当に貶めるものであり、極めて無責任な発言であると言えます

このような勘違い発言の積み重ねが、不合理な政治不信や人気投票の原点であり、看過できないものであると考える次第です。