「今日は俺の人生の中でも重要なディナーのひとつなんだ。」


わざわざ村から家まで迎えに来てくれた
僕の叔父に当たるグスウェルが車の中でそう言った。



襲名式。


日本語に直したら多分そんな感じだろう。
今日は叔父ちゃんが俺に正式に名前を与える日だ。


ヤップで名前をもらうということは、実は単純なことではない。
(ヤッピーズネームという。めんどいので以後、ヤップ名)
ヤップにおいて、それぞれのヤップ名は、同時にヤップ島内の
土地を表わしているため、ヤップ名=土地の名前。
ヤップ名をもらうことイコール、その土地をもらうことになる。


ヤップ名は親族で共有ができるので、一見日本の苗字のように
見えるのだけど、実際はひとりひとりに土地の所有権を与えるので、
同じ家族や兄弟でも、違うヤップ名がついていることが多い。
だから、名前を一見しただけでは誰が誰の子で家族なのかよくわからない。


さらに、土地の少ないヤップにおいて、土地相続には非常に厳しい決まりがある。
土地相続は女性側の権利で、もし、子供が生まれてその子にヤップ名を
与えたいときは、親族の女性が全員集まって女性会議が開かれ、
全員の賛成を経て、その名を世襲させるかどうかが決定される。
その後、親族の前で正式に襲名発表があって、襲名される。


それが、今日のディナー。


ディナーには、マングローブ蟹、タロイモの茎のココナッツ煮込み、
タロイモ、ヤムイモ、米、バナナ、牛、鶏、豚のBBQ、
めったに取れない川エビのフライ、カンクーンと茄子の炒め物、
ヤップでも珍しいオレンジで作ったジュースに西瓜。
どう考えても一人をもてなすのには過ぎたディナーだし、
これだけ見ても、どれだけ大切にしてもらっているかをひしひしと感じる。


Take it easy, Be Yappy!

しかも、グスウェル叔父ちゃん、このヤップ名を登記するという。
まぁ、登記といっても、ヤップ島内で通用させるためだけのもので
俺の日本での戸籍を変えたりする必要は全くないらしいのだが、
グスウェル叔父ちゃんによると、グスウェルファミリーがもし全員
死に絶えたとしても、カズがこの土地を所有するということに誰の
異存も挟ませないために、登記しておくのだという。


実際、俺はここに住むわけではないので、この名前は、この叔父ちゃんと、
叔父ちゃんの一人息子とカズ、三人の共有の名前になる。


話によると山半分くらいの土地らしい。
小さなヤップ島だけど、家を建てたり畑や農場を作ったりして
活用している土地は意外と少ないので、
建てたければ、家10個くらいは軽く建てられるとのこと。



ここヤップ島で、俺を家族として扱ってくれるファミリーは2つあって、
ひとつは僕がいたステイ先のブチュン(BUCHUN)ファミリー。
もうひとつが、ステイ先の親父(モリス)の一番下の妹が結婚した
叔父ちゃんのグスウェル(GUSWEL)ファミリー。


実は俺は、来週末にステイ先のブチュンファミリーからも
ヤップ名を襲名させてもらうことになっている。


ふたつの名前を襲名することに問題はないのか?という質問に
ふたつの名前を襲名できることなんてめったにないし、
むしろ名誉に思うべきことだよ、という叔父ちゃん。


日本人がヤップ名をもらうことすらも非常に珍しいのに、
たぶん二つのヤップ名をもらった協力隊は今までいないと思う。


この日、親族の前で正式に発表され、”グスウェル”の名前をもらった。


人生初の不動産、まさかのヤップえっ



不思議な感じ。笑


Take it easy, Be Yappy!

グスウェルファミリーチューリップ赤