「だって、表現に携わっていない人間が自由に曲をばらまいて、そのもうけを取ってるんだもの。それはマーケットとしての勝利で、音楽的な勝利と関係ない。本来、音楽はそういうことを考えないで作らなきゃいけないのに」

 

山下達郎

 

 

 

要は今の音楽を取り巻くビジネスのあり方がアレなんでしょうね。同感。

 

山下達郎さんとは、遠い昔、2度ほどニアミスしたことがあります。

 

1度目は青山にあったマニアなレコード店「パイドパイパーハウス」。そこで音楽仲間と待ち合わせ。「入れ違いくらいで達郎さんいたんだよ。段ボール2箱くらいレコード買っていったよ(笑」と先に到着してレコード物色していた友人。残念。

 

2度目は六本木のスクエアビルの近くにあったピアノがあるバー。僕らはカウンターで飲んでいたのだけれど、後ろを振り向くと一人ボックス席でテケテケになった達郎さんを目撃。一緒に飲んでいた友人と「あー!」「だよね、だよね」なんてミーハーしている間に、次に振り向いた時にはお帰りの後ろ姿。

 

書いていて懐かしい。私の世代は、タツローなしでは語れません。

 

さて本題。

 

いま、プラットフォーマーが「音楽」というコンテンツを餌に作家や作品とリスナーの間に割って入ってサヤを稼ぐだけじゃなく、別のビジネスを展開している。

 

音楽コンテンツをダシに広告収入を得る、音楽を餌にコンシューマーのペルソナデータを収集して、より顧客獲得可能性の高い広告を流してアップセルやクロスセルに結びつける(デジタル本や映画も同じだよ。音楽も映画も本もコンシューマーリーチの道具なのさ)。さらにビッグなスポンサーの誰かさんに都合の良い価値観の”洗脳?”コンテンツを押し付ける。あっちでチャリン、こっちでチャリン、大口さんからドサっ。

 

ネットワークからデータで音楽が聴けたり買えるようになって、あれよあれよと音楽ビジネスは激変した。

 

Vynal、次にCDとメディアは変遷しつつも、昔は各駅停車しか止まらないような駅の商店街にも小さなレコード屋があった。マニアックなレコードを揃えれいれば、日本全国からその店にレコードを買いに来ていた。演歌好きのおじちゃんおばちゃんに愛想を振りまきつつ、ロン毛でロック(あるいはフォーク)なレコード屋の兄さんが結構いた。店で好きな新譜をガンガンかけたり、常連の若造を集めて視聴会したり、街のレコード屋は確かに音楽産業の一部だった。レコード会社はプロデュース/マネジメント業として制作投資リスクを負う反面、マージンぼったくりと優越的地位の濫用っぷりはひどいと聞いていたけれど、プロデューサーのなり手は純粋な音楽好きで良いもの作ろうと頑張っていた人も多い。

 

今、音楽をリスナーに届けているデジタルプラットフォーマーはそうじゃない。音楽をデカイ貯水池に入れて毎月いくらの水道みたいにしてしまった(松下幸之助は水道哲学と言っていたけれど、いまや水はあの当時のように安くはないし、そもそも音楽は想定外)。それで時価総額ナンボとやっている。

 

プラットフォーマーは、良く言えば、作家の権利を守り、無名の新人に機会を与え、より広くより便利に音楽を多くの人に届ける。悪く言えば音楽を利用し他のビジネスのダシとして使う。その両者の奈辺にいる。ただいやらしいのは作り手と聴き手の両方からおあしをねだることのできる立場。で、あっちに強面、こっちにいい顔して、金や注文は出しても、作り手サイドにはいない。

 

かくて音楽産業全体がプラットフォーマーの品揃えのひとつになって、街のレコード屋、つまり手足を失った音楽産業は彼らに依存しなければ生きられなくなった。大型スーパーが進出した街の商店街には、よほどの個性がなければ生き残れず、シャッター通りができるのに似ている。

 

作り手側の居心地の悪さは、もっともだと思いますよ。

 

 

グラフ赤の部分がVynalやCDの物理媒体(Physical)の市場規模

 

このグラフを見れば、旧来の音楽産業、レコード業界からどれだけの血が流れたかが想像できる。

 

でもね、ドライに考えれば、冒頭の達郎さんの言葉は、実は良くわからないところもあるのです。

 

作家から生まれた作品は、作品となった時点で作家から離れ一人歩きを始める。だから「本来、音楽とはそういうことを考えないで作らなきゃいけない」ということは、一人歩きに任せても良いのでは?とも思える。

 

その音楽が届くべき人に届き愛されれば、それは音楽の作り手側の「勝利」だと思うのです。

 

だから達郎は勝者。けれど勝者としていま周りを見渡すと、かつての仲間はほとんど消えてしまった。そんな思いを伝えたいのかもしれない。

 

だから達郎はいま、ライブにこだわって絶えずツアーに出ている。

 

 

 

いちリスナーとしては、広告を我慢すればYoutubeでタダでさまざまな音楽が聴け、毎月CD 1/2枚買う -- 千円くらい --お小遣いを覚悟すれば5000万〜9000万曲がよりどりみどり聴き放題。

 

楽曲をYoutubeにアップすれば、広告収入からアップ主に報酬が支払われると同時に著作者に微々たる印税が支払われる(楽曲は一意のContent IDで管理されていて、今はいちファンがアップしてもYoutubeの広告を受け入れその報酬について著作権管理団体の取り分を認めれて指示に従えば、違法アップロードにならない模様)。その額0.05円から0.2円と言われています。

 

それに対して昔のメディア、CDならば売価の6%-10%が音楽の作り手に支払われる。2千円のCDが一万枚売れて、著作権印税だけなら120万円から200万円。街のCD屋 -- 小売店のマージンはCD 1枚あたり売価の3-40%程度のはずで、粗利600-800円。日に10枚、30日売って18〜24万…

 

Youtubeで1万回再生されて0.3円としても3,000円……

 

なんだか切なくなってきたので、この辺で。

 

 

 

幸魂奇魂守給幸給クローバー