国立がんセンターでのセカンドオピニオンの外来相談を無事終えて、急ぎ足で築地から原宿へ移動。代々木体育館へ。


今回、東京を訪れたもう一つの目的とは、二人の親友に会うためだった。

この二人とは、以前の日記にも登場した、格闘家のAと普段から役者をしながらも時間を作りAのセコンドとしてサポートしているTである。Aが出場する総合格闘技の試合に、二人が自分を招待してくれたので、応援に行くというものだった。

以前、自分の病室にAからの小荷物が届いて、箱を開けてみると、Aがいつも練習で使う総合格闘技用のオープンフィンガーグローブと『病気に負けるな!頑張れ!』というメッセージが入っていた。お礼の連絡をしたら、7月6日の試合に是非来て欲しいとのことだったので、この日を以前からとても楽しみにしていた。


リングに上がってファイターとして試合に出場するAと、Aのセコンドとして普段からトレーニングや試合そのものをサポートしているT。選手と、選手を支える者。立場は違えどこの二人の親友はともに勝負の世界で闘う人間に変わりは無い。自分も生死の境をさまよった危機的状況での闘いを、彼ら二人をはじめ、多くの人たちにに応援してもらったので、何が出来るわけではなくても今度は自分が彼らを応援する番だと思っていた。

今回のこの試合は自分にはとても意味深いものだった。


用意してくれたリングサイドの席でAの出番を待った。周りには芸能人もたくさんいて、試合を観戦している。

数試合が終わって、会場内も盛り上がっていた。

いよいよAの入場。自分の闘志を掻き立てるために比較的激しい入場曲を選ぶ選手が多い中、唯一Aの入場曲は物静かな感じ。壮大で力強くて、単に激しいだけの曲以上に迫力があった。

普段から穏やかな性格で、優しい男。

でも試合になると格闘家としての力強さを併せ持つA にぴったりの入場曲、そんな感じがした。


集中力が頂点に達したAが、全身にスポットライトを浴びてTをはじめとするセコンド達とがっちり手を取り合って花道をゆっくり歩いてくる。

リングに上がったAとリングサイドから見守るTの目つきは明らかに普段と違っていた。Aがプロの格闘家としてデビューする数年前に日本代表として柔道の世界大会を応援に行った時を思い出した。

二人は完全に戦闘モードに切り替わっていた。


ゴングが鳴って、試合開始。

緊迫した空気が会場全体に張り詰めていた。


結果、Aは勝った!


緊迫した空気が歓喜に変わった。

皆興奮状態だった。

TがAに駆け寄って、抱き合った後、TとAはリングの上から、客席の自分を見つけてはガッツポーズを送ってくれた。闘う親友二人を応援するつもりで、ここへ来たのに、逆にこの二人にこれから先まだ続く闘病への勇気をもたった。結局また自分が応援されたというか、助けられたというか、大切なものをもらった気分になった。

落ち込んでいたわけじゃないけど、セカンドオピニオンで医師から、自分の体について、それなりに厳しい現実的な話もたくさんあったので、Aの勝利の瞬間を目の当たりにして『今までも本当に大変だったけど、自分はこれからも病気と闘い抜かないと!』と気持ちが強く固まった気がした。ここへ来て本当に良かった・・・。

スポーツ選手が病気の人間に夢と希望を与えるという話がよくあるけど、目の前で戦う人にもらった勝利はホントに勇気付けられる。

全試合を観戦し終えて、Aの控え室へ。


AとTと固い握手を交わした。


別会場でのAの祝勝会へ少し顔を出し、深夜タクシーで兄の家に帰宅した。

この日は朝から充実した1日だった。

Aはビールから始まって、祝勝会会場となったお店のオーナーさんがお祝いに!と出して下さった、ドンペリ、ロマネ・コンティ、オーパス・ワンなどなど明け方まで飲みまくり、家に帰らずそのままの足で、テレビ局へ。早朝オンエアの、生番組に着ていたTシャツに赤ワインの跡をつけたまんまでゲスト出演していた。笑 

そういう豪快さが、彼らしい。


TとAの二人がそれぞれ自分の為にこっそり願掛けをしていたことが後にわかった。


Tは幼馴染Kの旦那さんでアクセサリー職人であるIさんに『早く病気が治って、外に自由に出られるように・・・』と願いを込めて自分の名前の頭文字をモチーフにデザインして作ってもらったバングルをいつも身に付けてくれていた。

バングルは手首の内側が少し開いていてその開いたスペースが自由に外に出してやりたい思いをデザインにしてもらったものだとのこと。よく似たデザインのシルバーの指輪を自分の彼女にも付けさせていたことが更に分かった。TもTの彼女も、面会謝絶と分かっていても病院まで来てくれた、心強い応援者。


一方のAは、中学生の時から今もずっと使っている大切な柔道着の黒帯に、早く良くなって欲しい想いと、一緒に闘う意味をこめて、自分の名前を刺繍してくれていた。

いつもAの近くにいるTの話では、その黒帯は身の回りの人間にさえ、普段ほとんど触らせない程、Aが大切にしているものだという。もちろんこの日の試合でその黒帯を締めて闘ってくれていたことが後に分かった。


TもAもいつも一緒にいながら、そういう事をそれぞれ互いに誰に何の相談もなく勝手にサラッとやってのける。

そして、こちらが気付かない限り何も言ってこない。

そんな心優しい二人。

ありがとう。