母体内での低栄養、思春期発来遅れる可能性 | かずのつぶやき

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母体内での低栄養、思春期発来遅れる可能性

 おかあさんのお腹の中での栄養状態が悪いと、生まれた子供の思春期の発来が遅れる可能性があることを、徳島大学産婦人科の岩佐武先生が大阪府豊中市で開かれた第15回日本生殖内分泌学会で発表しました。

 みなさんキスペプチン:kisspeptin ( Kiss1 )というペプチド(アミノ酸の集まり)をご存知ですか。

 もともと、ガンの転移(metastasis)抑制因子として知られていたメタスチン(metastin)として知られておりKiss1遺伝子の産物です。Kiss1がキスを想像させることからキスペプチンと呼ばれるようになったそうです。
$かずのつぶやき-ハーシー

 女性の性ホルモンは脳からの刺激と性腺(卵巣)からのホルモン分泌が、お互いバランスをとりあって働いています。

 女性らしい身体を作り、月経周期を生み出し、妊娠をはじめさまざまな働きをする女性ホルモン、エストロゲンは卵巣から分泌されますが、脳(脳下垂体)からの刺激、性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)によって分泌を促されます。

 またゴナドトロピンはさらに上位の脳の視床下部から出る性腺刺激ホルモン放出ホルモン、GnRH
によって調節されています。
$かずのつぶやき-ホルモン

 このキスペプチンはGnRHを分泌させる働きが強く、思春期の発来とも関係していることがわかっています。

 岩佐先生たちはネズミ(ラット)を使った実験で、キスペプチンの働きと赤ちゃん(胎仔)がおなかの中にいる間の低栄養との関係を検討し、「母体内の低栄養環境は、出生後のキスペプチンの作用を低下させ、思春期の発来を遅らせる」ことを明らかにしました。

 雌ラットを妊娠14日目に、自由に餌を食べさせたグループと、50%餌の制限をしたグループとに振り分け、両群の出生体重と体重変化、思春期前期のホルモン値、キスペプチン発現(視床下部Kiss 1 mRNA)、思春期発来の状況などを検討しました。

 体重は出生後8日目までは、制限食群が食べ放題群より明らかに少なかったものの、その後は急激に増え、12日目で差がなくなりました。

 一方、思春期の発来、(ラットの思春期はどこで判断するのかと思いましたが、腟の開口の開始だそうです。)は制限食群では明らかに遅れました。

 赤ちゃんラットのキスペプチン発現は出生後16日以降、食べ放題群より明らかに低くなりました。

 次にキスペプチンを与えることで、制限食群の思春期発来の遅れを改善できるかという実験では、27日目よりキスペプチンを脳室内に投与した結果、両グループの腟開口率の差はほぼ無くなりました。

 キスペプチンが栄養代謝状態に高い感受性を持つことはすでに報告されており、思春期前ラットに満腹信号ホルモンであるレプチンに対する抗体を与えると、血中GnRH濃度が抑えられます。

 GnRHは性ホルモンの分泌を促します。GnRHが機能し始めることによって思春期は発来し、やがて性成熟期を迎えます。GnRHの働き始めるきっかけはいくつか考えられていますが、思春期はこどもから女の子へ変わって行く身体の変化として体脂肪が増加することによってレプチンも増え、そのためにGnRHの働きが始まるという説もあります。

 レプチン抗体はレプチンの働きを邪魔するので、GnRHの分泌も抑えられることになります。

 レプチン抗体とキスペプチンを同時に投与すると、GnRHの抑制がなくなることから、レプチンのGnRH分泌を促す作用はキスペプチンの助けを借りていることが考えられました。

 岩佐先生は「胎生期の低栄養環境ではレプチンの刺激が弱まり、出生後の急激な発育によってレプチンに対する抵抗性が生まれ、キスペプチンの作用低下から性成熟が遅くなるのでは」と話しています。

 キスペプチンのいわれのもう1つに、Kiss1 遺伝子がキス・チョコレートで有名なハーシーチョコレートのあるペンシルバニア州の大学で発見されたからだそうです。