【改定】

2010年4月16日に

本記事、As if in sync 第4章 Tobe Honest or Not to be Honest

をアップさせていただきましたが

一部の携帯ユーザー様より

「最後まで閲覧できない」

というご指摘を頂きましたので

記事を2分割し、

その後半を第5章としてアップ致しました。


大変ご迷惑をおかけいたしましたこと、

心よりお詫び申し上げます。

これからもよろしくお願いいたします。


また、今回の件におきまして、

深夜にもかかわらず、

ご親切に何度もアドバイスを下さった

HUMMER さん、

誠にありがとうございます。





この小説をご覧になって下さる皆様に

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登場する人物、団体、名称はすべて架空のものです。


この小説は


”Obsessed with you”、


”Forbidden Affection”との


連動小説となっています。


初めてごらんになる方、お読み直しなさりたい方は


→ 小説インデックス
をご覧ください








人間は


「楽しい思い出は忘れやすく


嫌な記憶は忘れにくい習性をもつ


厄介な生き物」


なのだそうだ。



しかし俺は今、「楽しい」思い出に苛まれている。


その思い出を


「忘れたくないのに、忘れなければ」ならず


同時に「忘れたくても、忘れられない」でいる。



そして、そんな事を考えている時点で


その記憶は微塵も忘れ去られていない、


ということも十分理解している。





参ったな・・・。




昨日不意に訪れた


「教え子」との非日常的なひととき、


その思い出を帰宅後、


教師としての仕事―テスト採点―


をすることで


暈したつもりだったのだが・・・。



洗面台の鏡の前に立って


歯を磨きながら、


ぼーっとする頭で


そんなヤヤコシイことを


考えていた ― 瞼の裏で


昨日の彼女の一部始終を鮮明に


プレイバックしながら ―




道理で「微塵も忘れられない」わけだ。


俺は独り苦笑した。




普段の彼女は


年齢の割には大人で


正義感が強く


芯がしっかりしていて


と同時に健気で・・・


本当に高校生なのか、と思うほど


人格にバランスがとれているという印象で


俺はそんな彼女に惹かれていた。




だが、昨日の彼女は


それとは全く対照的だった。





脆く泣き崩れ、



かと思えば、俺のくだらない話に



子供のように目を輝かせて、



最後には嬉しそうに俺にバイバイと



手を振ってみせたりもした。





昨日彼女が俺に垣間見せたその一面は


非常に女性らしく、可愛らしくて


そのギャップが俺を更に強力に惹きつけた。





しかも、だ。



好きな女性が周りに見せない一面を


自分だけに見せてくれたら


男性だったら嬉しいだろうし、


もしかしたら、もしかするか?


なんて考えて、


その女性との関係が新たな展開を迎えることを


期待してしまうだろう。




昨日の今日で九条に会ったら


どうしよう。


そう考えるだけで


俺は年甲斐もなくドキドキとした。





あぁ・・・そうか・・・。


今日は2-Bの授業はないな・・・。



いや、でも、偶然遭ってしまうってことだってあるしな。



あー・・・やべーな・・・


何話せばいいかな・・・



そこまで考えて俺は軽く頭を振った。




いかん、いかん。


呑気に彼女との新たな関係を考えて


顔を緩ませるなんてことは


俺にはできないんだ。




いや、彼女にこれ以上惹かれてはいけないのに・・・。


何を考えているんだ俺は・・・。



好きになった女性を


頭の中で素直に、


彼女のことがすきだ、


と認めることさえ憚られる。

こんなことを続けていると


どうにも性格が捻くれてしまいそうだが


でも、それも仕方がないことだった。



彼女を想う気持ちに相対しているもの、


それは、彼女を想う度に


必ず一緒に着いて回る言葉だった。





「俺は彼女の先生、彼女は俺の教え子」






この言葉を思い起こすたびに



俺は辟易とするが




理性ある社会人、



いや、「教師」としての自分を保つためには



不可欠な言葉だった。






仕方がない。



昨日のことを忘れられないのであれば、



「なかったこと」として意識するしかない。







「俺は教師、俺は教師、俺は教師・・・」



スーツのネクタイを締めながら


俺は呪文のようにそう唱えた。


万が一彼女に遭ってしまった時に


平静を保てるように。


こうして俺は


いつもよりも幾分、


・・・いや、大分気も漫ろで

かばんを手にすると


自宅を後にした。



 ・

 ・

 ・





出勤して間もなく、




職員室を出て廊下を歩いていると



3年の生徒が俺を追いかけて来て、



英語に関する質問があるんですが、



と話しかけてきた。





どこの職場もそうだと思うが、


出勤後は色々と慌ただしい。


急ぎ足を止められて


少しだけ苛立ちそうになった気持ちを


俺は飲み込んだ。



その生徒の呼びかけに俺は足を止めて、


彼女の質問に耳を傾けた後、


少々早口で、しかし出来る限り丁寧に説明をした。




すると彼女は嬉しそうに感謝の言葉を述べた後、


飛び跳ねる兎のようにその場を立ち去った。






全く、朝から元気がいいよな…





生徒の後ろ姿を見送りながら



その背中に十代の若さと自由を感じて



今更ながらそれを羨んだその時だった。






「せ・ん・せ」





背後からおもむろに声を掛けられ、



その声音に俺はどきりとした。





それは俺の耳に入るたびに


時には心地よく、時には胸を高鳴らせる声だった。




今日はその声が耳に入った途端


俺は必要以上にドキドキした。



そんな高揚する胸を抑えつつ、


俺は彼女を振り返った。






そこに立っていたのは



やはり九条美桜だった。





「ぁ・・・っ」






―おはよう、もう大丈夫か?―



一生徒を気遣う教師らしく、



さらりとそう流せばいいだけなのだが。





彼女が俺に見せた笑顔は



昨日見たどのそれよりも愛くるしく



つい先ほど家を出る前に整えた気持ちなど



どこかに吹っ飛んだ。





朝シミュレーションをしたはずなのに・・・。





しかし、平静を保つどころの話ではない。



すっかり舞い上がりそうになるのを



俺は必死に堪えたが、



眩しい笑顔を放つ彼女と



目すら合わせることができない。





自分が今、どんな表情でいるのか、



彼女への気持ちが気付かれてしまわないか、





そんな事を心配すると



余計に彼女を意識しすぎて



彼女の前に立ち続けることさえ困難に感じる。






完全に重症だ。




今までと同じように・・・


他の生徒にするのと同じようにすればいいんだ。




「・・・おはよう」



俺は今までと同じように


小さな声で挨拶するのが精いっぱいで



彼女の顔を見もせずに



逃げるようにその場を立ち去った。



  ・


  ・


  ・





気づくと、俺は今来た廊下を戻って



職員室の前に立っていた。




本当は授業の準備をしに



LL教室へ向かっていた筈だったのに。





まさか、こんな朝早くから彼女に遭遇することなど



予想もしてもいなかった俺は、



必要以上に慌ててしまっていたのだ。






しかし、慌ててはいたが、



俺が彼女に対して執った行動は



間違ってはいなかった。






昨日のことは「なかった」かのように、



今まで、九条の前で振舞っていたのと同じように



振舞うことができたのだから・・・






これでいいんだ。





頭の中でそう呟いてみた。





しかし、心からそう思うことができず、


俺の心はモヤモヤとした。





以前も同じように感じたことがあったが


ここまで倦怠感を感じることはなかった。




今回何故、そこまでモヤモヤとしてしまうのか、


その理由はわかっていた。




頭と違い、心は、


一度蜜の味を知ってしまうと、


その味を求めて必死になってしまう。




つまり、好きな女性との楽しい時間を


一度味わってしまった俺の心は


以前のような状態には簡単に戻れない、ということだった。





彼女の


その温かい眼差しや、


キラキラとした笑顔を


もう一度俺に向けてもらいたくて仕方がない。



彼女と、昨日の様な


「一生徒」以上「恋人」未満の関係でいたかった。





なのに先ほど執ってしまったあの素っ気ない態度は


自分が本当はこうありたいと言う象から


遥かに掛け離れていた。



昨夜折角俺に近付いてくれた彼女の心を


また遠ざけてたのだと思うと


後悔すら覚える。





しかし心が九条のことに関して何かを叫ぶ度に


俺はやはり理性を呼び起こさなければならない。




『だけれど、やはり先ほどの対応は


間違ってはいなかったのだ、


と思う・・・「教師として」は。』




俺は頭でそう呟いた。





「教え子」以上「恋人」未満なんていう


道徳の枠すれすれの位置に身を置いてしまったなら、


いずれ、そこで留まることに飽き足らなくなって、


あってはならない関係になってしまうのは


目に見えているからだ。







「ハァ…」



俺は大きくため息をついた。






兎に角…



彼女に対する感情を制御するのが


これほど難しいとは


予想もしなかった。



こんなことになるなら、


昨日、彼女と仲良くなるんじゃなかった・・。






頭と心の狭間で


どうしようもない問答を繰り返した末に出た思いは


そんな悲しいことだった。





折角心から好きだと思える女性が見つかったのに


その女性を素直に愛することができないなんて


皮肉としか言いようがない。





平行線の問答を繰り返すばかりで


明確な答えを出すことができない頭と心を抱えたまま


俺は授業の準備をするため、


一時限目の授業が行われるLL教室に


足を向けた。








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