私の胸に顔を埋める先生。




「だ・・だめ!!


せ・・せんせ・・」



私が必死に訴えると


先生の頭が


胸から私のお腹のあたりに


ずるずると力なく下がっていく。





あ・・あれ?


これは・・・




胸の下に落ちた先生の頭を


恐る恐る見下ろすと


先生の頭はピクリとも動かない。



もしかして・・・!!



私は力づくで先生の肩を押して


なんとか先生の顔を体から離すと、


先生はがくんと頭を垂れた。


その顔を覗き込むと


目を閉じてる。



「・・・先・・生??」



恐る恐る声をかけてみると


先生は


「んぅ・・」


と寝ぼけた様に返事をした。



っていうか、


寝てるし!!!



もーーーーーーーーーーー!!


眠る時までドキドキさせないで!!!





私は先生の重たい体から必死に逃れて


先生をなんとかソファーの上で仰向けにさせた。




「ふぅ・・・!!」



私はため息を一つついて


先生のその顔を改めて見つめる。



その寝顔はとっても安らかで


こんなこと言ったら怒られそうだけれど


すごくかわいい。



私は風邪をひかないようにと


寝室から掛け布団を持ってきて


先生の体にそっとかけると


頭のそばにしゃがみ込んで


もう一度、先生の寝顔を見つめた。



ふふっ・・・・


本当にかわいい。。




せんせ・・・


一週間お仕事お疲れ様・・・




そして・・・


3年間ありがとう・・・。




すやすやと気持ちよさそうに眠る先生に


小さく話しかけ、


そしてそのおでこにチュッと口付けした。




う~ん・・・


ずーっとこうして先生の寝顔を見ていたいところだけれど…



でももう一仕事・・・



「よーし、


お皿洗っちゃおう!!」



自分に言い聞かせるようにして


小声で言って立ち上がった時だった。





「僕…が…やる…」



立ち上がった私のすぐ後ろで


今寝息を立てていた先生が


そう言った。




えっ・・


先生・・起きちゃった?




慌てて振り向くと


先生は気持ちよさそうに寝息を立ててる・・




なんだ・・寝言か・・。




私はほっとした。



夢の中で私を手伝おうとしてくれてるの?



私はその寝言に


クスッと笑ってしまう。



「私がお皿洗いしたいの。」



本当は寝言にはあまり答えない方がいいって聞くけど


あんまりにもかわいらしいその寝言に


私は思わずそう返してしまった。




もう・・こんなことしてたら


いつまでもお皿洗いできないよ。



私は気持ちよさそうに眠る先生をそこに残して


テーブルの上を片付け


皿洗いに取り掛かった。




途中、先生は


「雪だ」とか



「えっ??」


とか


何の夢を見ているのか分からないけれど


脈絡のない


寝言を言っては


その度に


お皿を洗う私の手を止める。



だって、先生の寝言・・・


すごくはっきりしてるんだもん。



私は先生のその寝言が聞こえるたびに


起きたのかなって思っちゃう。





でも、時々


うぅん・・とか甘えるような寝息を立てるその声は


すごく可愛くて、


先生に母性を感じてしまう。




私は早く先生の近くで


その寝息を聞いていたくて


急いでお皿洗いを終わらせた。



やっと全部のお皿を濯ぎ終わって


濡れた手をタオルで拭くと



先生が眠るソファー越しに腰を下ろした。



ふふ・・


先生、本当によく寝てる…。




先生が起きているときは


私はドキドキさせられてばかり。



私は先生のこと、


女性としてドキドキさせたことあるのかな?


先生の心の中で私ってどんな存在なの?




「ほんとは・・・生徒でしかないの?


私って子供っぽい?」



そう独り言を呟いた時だった。



「九・・条…」



と少し眉間にしわを寄せて


先生が私の名前を呼んだ。



これも・・寝言だよね?



自分の名前を呼ばれたことに驚いて


私はしばらく先生の様子を見守った。





するとしばらくして


先生は、うぅ・・・と苦しそうな呻き声を上げ始めた。




今度は悪夢でも見ているのかな・・。


どんな夢なんだろう…??



しばらくぼーっと見つめていると


先生の呼吸が苦しそうになってきた。




やだ・・先生、苦しいの?




その苦しそうな息使いの合間に


先生が私の名前を呼んでいる。




「せっ・・・


先生・・っ・・・


先生?


先生!!先生!!!」




私はその尋常ではない先生の息使いに


不安になって先生!と連呼した。




でも・・先生は全然目を覚まさなくて


どんどん辛そうになっていく・・。



どうしよう!!!


先生、死んじゃわないよね!!??




私は先生を起こすために


必死で肩をガクガクと揺らした。




すると


先生が眉間に深くしわを寄せ、


ヒュゥっと息を吸い込むようにして


驚いたように目を覚ました。




よかった・・・・っ!!!




先生…。死ななくて…。。。




私はフゥッとため息をひとつはいて


もう一度先生を見下ろした。




先生はガバッと体を起して


しばらく寝ぼけたように


辺りをきょろきょろと見まわして


そしてやっと私の存在に気づいたように


こちらに顔を向けた。



「大丈夫?


先生・・・魘されていたみたい。


九条九条って何度も苦しそうに呼んでたよ。


わたし、心配で起しちゃった…。




ごめんね。」




そう声をかけても


先生は一言もものを言わずに


ぼーっと私の顔を見ていたと思ったら


ハッと何かに気づいたような顔をして


「うぁ・・」



と喉の奥の方なにか呻いた後


眉を八の字にして困ったような顔をした。





??


先生、何も言わないなぁ・・。




よくわからないけれど…


とにかく・・先生が何ともなさそうでよかった…。




「じゃ・・・


先生起きてくれたし、


わたし、そろそろ帰ろうかなぁ・・」



私がそういうと


先生はちらっと時計を見て




「そう・・・だね・・・



寝ちゃってごめん。」



とやっと言葉を発した。


でもちょっと元気なさそう。


ほんと、変な夢見たんだろうなぁ・・


そう思っていると



「じゃ・・・ちょっと待ってて




着替えたら…


車で送るよ。」


そう言った後、



先生はまるで腰痛持ちのおじさんみたいに


ヨロヨロと腰を上げた。



ん?・・腰が痛そう???



「せんせ、どうしたの?


腰痛いの?」




私が尋ねると


先生はドキッとしたように足を止めて


「大丈夫・・・」


と一言小さな声で言って


リビングを出て行った。




??????




________________________





先生の着替えは少し時間がかかっているようで



私はソファーに座って待っていた。




しばらくして


「お待たせ・・!!」


と言われてその声の方を振り向くと


先生がリビングの入り口近くに


立っていた。






手には車のキーを持って、


今すぐに出られますよって感じ。



私は脇に畳んであるコートに手を通して


「よろしくお願いします」


と先生にぺこりと頭を下げると


先生は


ちょっと微笑んで


じゃ、行こうか。と


玄関に向かった。



私はそんな先生の後ろを追いかけて


玄関の隅に揃えたローファーを履いた。




先生が玄関のドアを開けると


肌が痛くなりそうなほど冷たい空気が


ひゅっと入ってきて


私たちは顔を見合わせて


「さむ~い」


とハモってしまった。






地下階にある駐車場に降ると、


いつもの駐車スペースに向かう先生。


わたしはその先生の後ろをついて歩いた。



あれ?・・・いつもなら、先生は


エレベーターから私の手をずっとつないでくれるのに


今日はなぜか手をつないでくれない。



・・・・・・


むぅ・・・




私は先生の腰辺りでだらりと垂れる手を


自分からぎゅっと握った。


すると先生は


ドキッとしたような顔で私に振り向いて


「あ・・ごめん!!」



と言った。




その顔は心なしか少し赤みを帯びている。




なーんか・・・


先生・・・さっきからおかしいなぁ・・




そう怪しんでいると


先生の車の駐車スペースが近づいてきた。




私は先生の車が大好き。


とっても乗り心地がいいの。


そして・・・なにより


助手席に座るのは


走り回る街の中で


私たちを見かけるみんなに


カッコよくハンドルを握る先生の


彼女なんだって


伝えているみたいで


なんだか嬉しい。



だって・・・


学校ではこの人が私の彼~って絶対に言えないもん。


知らない人にいいなぁって思われるくらい


いいよね。



わたしが先生の手を握りながら


そんな事を考えて


一人ニヤニヤしていると





先生は車まであと数歩のところで


キーを車に向けてボタンを押すと


車はカギが開いたよって音を2回鳴らした。



私は車のことはよく知らないんだけれど


先生はこの車が大好きなんだって。



んーっと・・・



ネクサス??


ん?


あ?・・レクサスって言ってたかな?



車の事をよく知らない私でも


見ただけで高そうだってわかる。



ドアがしまる音も


今まで乗ったことのある車と比べるととっても上品だし


エンジン音もすごく静かで、


私もこの車が大好きになっていた。



先生は私が車に乗る時、


いつも助手席をスマートに開けてくれる。


最初はこれに戸惑ったけれど


なんでもイギリスでは男性は大切な女性にこうするらしい。




これって、女性としてとっても大切にされているみたいで


お姫様気分になる。



私が黒いレザーのシートに腰かけると


先生はぱたんとドアを閉めて、


運転席側に回り、


私の隣に乗りこんだ。




私はこの瞬間が大好き。


車の中が狭いせいか、


毎回、


先生が乗り込む瞬間、


体につけているオーデコロンが


ふわっと香ってとてもさわやかな気持ちになる。



そんな車の中の先生を見ている私の目は


多分、ハートマークになっていると思う。



だって、男性らしいその手でハンドルやギアを


操るの先生はとってもかっこよくて、


運転に集中するその横顔は


すごく精悍で見るたびに惚れ惚れとしてしまう。




でも・・・



今日は違った。



乗り込んだ後に


私の顔を一瞬見て


慌てて目をそらした。



なんか・・・挙動不審。


絶対にいつもの先生じゃない!!!





「先生?」



私がそう声をかけると


先生はこちらを見もせずに


ぎこちない声で


「何?」と聞き返した。




何なんだろう…?



「うぅん。なんでもない」



先生のそっけない返事に


私がそういうと


先生はやっぱりこちらを見ずに


「そう?」



と答えて


エンジンをスタートさせた。


先生がアクセルを踏むと


車が静かに滑るように動き出して


私は先生の隣で


黙って周りの景色が動き出すのを見ていた。



続く

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